俺たちの才能
- 2022.09.04
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:7人
時間:20分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
金城 紘一(かねしろ こういち)
部長
佐々木(ささき)
本山(もとやま)
田代(たしろ)
戸澤(とざわ)
手塚(てづか)
■台本
社内。
部長「金城くん。今月も目標未達だな」
紘一「……はい」
部長「っていうより、今年、一度でも目標を達成した月はあったかね?」
紘一「いえ……」
部長「君、この仕事、向いてないんじゃないかね?」
紘一「……」
部長「どうして、車の営業職なんて選んだかなぁ。見る目ないよ。自分の能力をちゃんと把握しないと」
紘一「……」
部長「うちは慈善事業じゃないんだ。君を雇ってるだけで、赤字だよ」
紘一「……」
部長「君、転職する予定はないのかい?」
紘一「……今のところは」
部長「そうか。では、逆に転職させる方をやってもらおうか」
紘一「……え?」
場面転換。
社内。狭い部屋。
紘一「えっと……金城紘一です。今日から、あなた達の上司になるから。頑張るので、よろしくお願いね」
佐々木「……」
本山「……」
田代「よしっ! やっと出た」
手塚「戸澤さん、いいっすね、そのイラスト。めっちゃ萌えます」
戸澤「だろ? 見えそうで見えない、ギリギリにするのがコツなんだ」
紘一「あ、あの、いいかな?」
一同、沈黙。
紘一「このチームについて説明するね。まず、今までの業務については忘れて。今日からは新しい業務をしてもらうから」
佐々木「……なにすんの?」
紘一「あー、いや、その……。これから考えます」
本山「決まるまでは何するんです?」
紘一「基本的には待機かな。社内から出なければ、自由にしてもらって構わない」
田代「マジで!? ラッキー! 昨日からイベント始まったんだよね」
手塚「戸澤さん。少しくらい見えててもいいんじゃないっすか?」
戸澤「ダメダメ! こういうのはこだわりを持たないと!」
紘一「……はあ」
場面転換。
パソコンを操作している紘一。
終業を知らせるベルが鳴る。
同時に、紘一以外、5人全員が立ち上がる。
そして、ぞろぞろと部屋を出ていく。
紘一「あ、みんな、帰るの?」
しかし、誰も返事をせずに部屋を出て行ってしまう。
紘一「お、お疲れ様……」
入れ替わりに部長が部屋に入って来る。
部長「定時と同時に退社か」
紘一「あ、部長……」
部長「どうだね? あの5人、辞めさせられそうか?」
紘一「……期限は2年、ですよね?」
部長「ああ。その代わり、全員、自主退職だ。あっちから、退職を希望させろ。あの給料泥棒の、才能ゼロの奴らを何としてでもな」
紘一「……」
場面転換。
パソコンを操作している本山。
本山「……こんな感じかな」
紘一「本山さん、何してるの?」
本山「あ、いや、これは……その」
紘一「別に怒っているわけではなくて、純粋に何をしてるのか、気になってしまって」
本山「……副業です。ウェブサイト制作の」
紘一「へー。随分と綺麗なデザインだね」
本山「僕への依頼、結構、あるんですよ」
紘一「凄いね。じゃあ、引き続き、頑張って」
本山「……は、はあ」
手塚「戸澤さーん。お願いっすよー。表紙と挿絵、描いてください」
戸澤「だから、普通のだったらいいよ」
手塚「いや、少し……すこーしでいいから、ちょっとサービスした感じでお願いっす」
戸澤「ヤダ」
紘一「……何の話してるの?」
戸澤「手塚さん、同人誌書いてるんですよ」
手塚「小説なんすけど、表紙の出来で売り上げが変わるんっすよね」
紘一「どのくらい売れるものなの?」
手塚「んー。表紙なしだと100部で、表紙によっては1000くらい売れたりするんっすよ」
紘一「そんなに売れるんだ? 凄いね」
手塚「戸澤さんに表紙描いて貰えれば、壁サークルも夢じゃないんすよ。……って、ことで、お願いっす」
戸澤「だーかーら! 普通のならいいって言ってるでしょ」
紘一「……」
田代「ねえ、佐々木さん。また、チート作ってくれない?」
佐々木「また? 田代さん、この前もバンされたじゃない」
田代「いやー、今回のイベントは絶対、トップ取りたいんだよねー。お願い!」
佐々木「ホント、どうなっても知らないからね」
田代「やったー!」
紘一「佐々木さんに何を頼んだの?」
田代「チートのプログラムだよ。凄いの作ってくれるから、イベントのトップを狙えるんだ」
紘一「イベント?」
田代「ゲームだよ」
紘一「……ゲーム?」
田代「今って、携帯でゲームができる時代なんだよ。まだ、それほど流行ってないけどね」
場面転換。
終業を知らせるベルがなり、紘一以外の5人が部屋を出ていく。
その中で、紘一がパソコンで調べものをしている。
紘一「……なるほど。ゲームか」
場面転換。
田代「……ゲームを作る?」
紘一「うん。いわゆる、ソーシャルゲームってやつ。まだ、市場は小さいけど、その分、参入するチャンスがあると思う」
佐々木「……うち、自動車の営業の部署なんだけど」
紘一「言ったでしょ。今までの業務は忘れていいって。で、考えたのがゲーム作り」
本山「……」
紘一「田代さん、ゲームの仕様を作れたししないかな?」
田代「え? あー、うん……。やったとこないけど……何となくなら」
紘一「佐々木さんはチートを作れるくらいだから、システムとかは問題なさそう?」
佐々木「……余裕だけど」
紘一「本山さんには、UIをお願いしたい」
本山「まあ、いいけど……」
紘一「戸澤さんはイラストを、手塚さんはストーリーやテキスト周りをお願いしたい」
手塚「いいっすよ」
戸澤「……さすがに1人じゃ、無理だよ」
紘一「うん。だから、予算を取って来る。それで、外注も使おう。……まあ、そこまで多くは無理だけど」
佐々木「あんたは何するんだ?」
紘一「えーっと、全体的なスケジュールを見るのと……怒られることかな」
全員が絶句する。
佐々木「俺たちの矢面に立つってことだろ? 相当、やれると思うけど」
紘一「まあ、慣れてるから」
また全員が絶句する。
場面転換。
終業のベルが鳴る。
戸澤「手塚さん、世界観と主人公まわりの設定、できた?」
手塚「うん。これ……」
戸澤「……へー。いいね」
手塚「詳細は後から作っていくっす」
田代「どれどれ? ふーん。この世界観なら……あのゲームの仕様を基盤にした方がいいかな」
本山「うーん……やっぱり、ゲームのUIとサイトの構成は結構違うものなんだな」
佐々木が黙々とパソコンのキーボードを打っている。
そこに部長が入ってくる。
部長「ん? なんだ? 全員、残業してるのか? 珍しいな」
紘一「ええ、まあ」
部長「(小声で)大丈夫なのか? 妙にやる気が出てるみたいだが」
紘一「計画は順調に進みそうです」
部長「……そうか。それならいいんだが」
場面転換。
佐々木「田代さん、この仕様、システム的に厳しい」
田代「ん? そっか。……じゃあ、あっちのゲームのところを参考にするか……」
戸澤「手塚さん、ヒロインの3人目、あがった。次のキャラの設定ちょうだい」
手塚「うっす、これっす」
本山「金城さん、ちょっと、これ触ってみてくれませんか? 操作し辛かったら、言ってください」
紘一「うん、ありがとう。さっそく、使ってみるね」
場面転換。
6人全員が作業をしている。
田代「あー、もう朝か。一回帰って、仮眠とってくる」
佐々木「お疲れー」
本山「お疲れ様です」
手塚「うっす」
戸澤「お疲れ様」
紘一「お疲れさ……じゃなくて! みんな、一回帰ろう。なに普通に徹夜してるの?」
佐々木「今、良い所なんだけどな」
手塚「ノッてきたところなんすけどね」
紘一「はい、帰る帰る!」
場面転換。
佐々木「……じゃあ、連結してみるぞ」
本山「……ごくり」
紘一「……お願い」
パソコンを操作する音。
佐々木「よし、これで動かせるようになったぞ」
紘一「じゃあ、プレイしてみるね」
BGMと操作音が響く。
一同がワッと盛り上がる。
戸澤「おおー、動いた動いた」
佐々木「当たり前でしょ。じゃあ、みんな、一旦、プレイして、変なところがあったら言って。直してくから」
一同「おー!」
場面転換。
一同がごくりと生唾を飲み込む。
紘一「じゃあ、行くよ」
佐々木「ああ。やってくれ」
クリックする音。
紘一「リ、リリースできた」
ワーッと歓声が上がる。
場面転換。
部長「……約束の2年だが、誰一人、退職届が出ていないが?」
紘一「……才能ゼロで、給料泥棒だから、辞めさせたい。そうですよね?」
部長「ああ。だから、2年も遊ばせてやったんだ。無能を追い出すためにな」
紘一「なら、彼らは辞めなくてよくなりました」
部長「はあ?」
紘一「もう、給料泥棒ではなくなりましたので。では、失礼します」
紘一が部屋から出ていく。
場面転換。
居酒屋。
紘一「かんぱーい!」
乾杯する音。
本山「……まさか、あんなに売り上げがあがるなんて、思いませんでした」
手塚「今、うちが全部署の中で、一番売り上げあるみたいっすよ」
紘一「実は、今日、社長から、独立部署としてゲーム開発部としてやっていいって言われたよ」
一同「おおー!」
紘一「今回のゲームは上手くいったけど、これからもより良いゲームを作り続けていくよ。……覚悟してくれる?」
佐々木「覚悟もなにも、こんな面白いこと、やめられないよ」
戸澤「うんうん」
本山「みんな、ホント、ゲーム作るの好きなんだね」
田代「営業でこんなに楽しい思いしたことはなかったからな」
手塚「営業の才能はゼロだったっすね」
紘一「みんな、ゲーム作りの才能があったんだよ」
佐々木「……ごめん。せっかくの打ち上げだけど、戻って作業する。ちょっと、思いついたことあるんだ」
田代「あ、俺も、いい仕様思いついたんだ」
戸澤「……いいキャラデザ閃いたんだよね」
紘一「あ、ちょっと、みんな!」
ぞろぞろと5人が居酒屋から出ていく。
紘一「……もう」
場面転換。
社内の廊下。
紘一が歩いているところに、部長がやってくる。
部長「あー、金城くん」
紘一「部長。なんですか?」
部長「すごいな。君の部署、社長の直下みたいじゃないか」
紘一「どうも」
部長「果ては専務ってところかな?」
紘一「……」
部長「なあ、相談なんだが……もし、君がどうしてもって言うなら、そっちの部署に行ってやってもいいぞ」
紘一「……部長はゲームに詳しいんですか?」
部長「いや。けど、たかがゲームだろ? 問題ないさ」
紘一「すみませんが、お断りします」
部長「な、なんだと!」
紘一「部長のゲームの才能はゼロですから、給料泥棒になってしまいますよ?」
部長「なっ!」
紘一「失礼します」
紘一が歩き去って行く。
場面転換。
ドアを開いて、部屋に入る紘一。
紘一「おはよう」
一同「おはようございます」
紘一「今日も、ゲーム開発、楽しみましょう」
終わり。
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