俺たちの才能

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■概要
人数:7人
時間:20分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
金城 紘一(かねしろ こういち)
部長
佐々木(ささき)
本山(もとやま)
田代(たしろ)
戸澤(とざわ)
手塚(てづか)

■台本

社内。

部長「金城くん。今月も目標未達だな」

紘一「……はい」

部長「っていうより、今年、一度でも目標を達成した月はあったかね?」

紘一「いえ……」

部長「君、この仕事、向いてないんじゃないかね?」

紘一「……」

部長「どうして、車の営業職なんて選んだかなぁ。見る目ないよ。自分の能力をちゃんと把握しないと」

紘一「……」

部長「うちは慈善事業じゃないんだ。君を雇ってるだけで、赤字だよ」

紘一「……」

部長「君、転職する予定はないのかい?」

紘一「……今のところは」

部長「そうか。では、逆に転職させる方をやってもらおうか」

紘一「……え?」

場面転換。

社内。狭い部屋。

紘一「えっと……金城紘一です。今日から、あなた達の上司になるから。頑張るので、よろしくお願いね」

佐々木「……」

本山「……」

田代「よしっ! やっと出た」

手塚「戸澤さん、いいっすね、そのイラスト。めっちゃ萌えます」

戸澤「だろ? 見えそうで見えない、ギリギリにするのがコツなんだ」

紘一「あ、あの、いいかな?」

一同、沈黙。

紘一「このチームについて説明するね。まず、今までの業務については忘れて。今日からは新しい業務をしてもらうから」

佐々木「……なにすんの?」

紘一「あー、いや、その……。これから考えます」

本山「決まるまでは何するんです?」

紘一「基本的には待機かな。社内から出なければ、自由にしてもらって構わない」

田代「マジで!? ラッキー! 昨日からイベント始まったんだよね」

手塚「戸澤さん。少しくらい見えててもいいんじゃないっすか?」

戸澤「ダメダメ! こういうのはこだわりを持たないと!」

紘一「……はあ」

場面転換。

パソコンを操作している紘一。

終業を知らせるベルが鳴る。

同時に、紘一以外、5人全員が立ち上がる。

そして、ぞろぞろと部屋を出ていく。

紘一「あ、みんな、帰るの?」

しかし、誰も返事をせずに部屋を出て行ってしまう。

紘一「お、お疲れ様……」

入れ替わりに部長が部屋に入って来る。

部長「定時と同時に退社か」

紘一「あ、部長……」

部長「どうだね? あの5人、辞めさせられそうか?」

紘一「……期限は2年、ですよね?」

部長「ああ。その代わり、全員、自主退職だ。あっちから、退職を希望させろ。あの給料泥棒の、才能ゼロの奴らを何としてでもな」

紘一「……」

場面転換。

パソコンを操作している本山。

本山「……こんな感じかな」

紘一「本山さん、何してるの?」

本山「あ、いや、これは……その」

紘一「別に怒っているわけではなくて、純粋に何をしてるのか、気になってしまって」

本山「……副業です。ウェブサイト制作の」

紘一「へー。随分と綺麗なデザインだね」

本山「僕への依頼、結構、あるんですよ」

紘一「凄いね。じゃあ、引き続き、頑張って」

本山「……は、はあ」

手塚「戸澤さーん。お願いっすよー。表紙と挿絵、描いてください」

戸澤「だから、普通のだったらいいよ」

手塚「いや、少し……すこーしでいいから、ちょっとサービスした感じでお願いっす」

戸澤「ヤダ」

紘一「……何の話してるの?」

戸澤「手塚さん、同人誌書いてるんですよ」

手塚「小説なんすけど、表紙の出来で売り上げが変わるんっすよね」

紘一「どのくらい売れるものなの?」

手塚「んー。表紙なしだと100部で、表紙によっては1000くらい売れたりするんっすよ」

紘一「そんなに売れるんだ? 凄いね」

手塚「戸澤さんに表紙描いて貰えれば、壁サークルも夢じゃないんすよ。……って、ことで、お願いっす」

戸澤「だーかーら! 普通のならいいって言ってるでしょ」

紘一「……」

田代「ねえ、佐々木さん。また、チート作ってくれない?」

佐々木「また? 田代さん、この前もバンされたじゃない」

田代「いやー、今回のイベントは絶対、トップ取りたいんだよねー。お願い!」

佐々木「ホント、どうなっても知らないからね」

田代「やったー!」

紘一「佐々木さんに何を頼んだの?」

田代「チートのプログラムだよ。凄いの作ってくれるから、イベントのトップを狙えるんだ」

紘一「イベント?」

田代「ゲームだよ」

紘一「……ゲーム?」

田代「今って、携帯でゲームができる時代なんだよ。まだ、それほど流行ってないけどね」

場面転換。

終業を知らせるベルがなり、紘一以外の5人が部屋を出ていく。

その中で、紘一がパソコンで調べものをしている。

紘一「……なるほど。ゲームか」

場面転換。

田代「……ゲームを作る?」

紘一「うん。いわゆる、ソーシャルゲームってやつ。まだ、市場は小さいけど、その分、参入するチャンスがあると思う」

佐々木「……うち、自動車の営業の部署なんだけど」

紘一「言ったでしょ。今までの業務は忘れていいって。で、考えたのがゲーム作り」

本山「……」

紘一「田代さん、ゲームの仕様を作れたししないかな?」

田代「え? あー、うん……。やったとこないけど……何となくなら」

紘一「佐々木さんはチートを作れるくらいだから、システムとかは問題なさそう?」

佐々木「……余裕だけど」

紘一「本山さんには、UIをお願いしたい」

本山「まあ、いいけど……」

紘一「戸澤さんはイラストを、手塚さんはストーリーやテキスト周りをお願いしたい」

手塚「いいっすよ」

戸澤「……さすがに1人じゃ、無理だよ」

紘一「うん。だから、予算を取って来る。それで、外注も使おう。……まあ、そこまで多くは無理だけど」

佐々木「あんたは何するんだ?」

紘一「えーっと、全体的なスケジュールを見るのと……怒られることかな」

全員が絶句する。

佐々木「俺たちの矢面に立つってことだろ? 相当、やれると思うけど」

紘一「まあ、慣れてるから」

また全員が絶句する。

場面転換。

終業のベルが鳴る。

戸澤「手塚さん、世界観と主人公まわりの設定、できた?」

手塚「うん。これ……」

戸澤「……へー。いいね」

手塚「詳細は後から作っていくっす」

田代「どれどれ? ふーん。この世界観なら……あのゲームの仕様を基盤にした方がいいかな」

本山「うーん……やっぱり、ゲームのUIとサイトの構成は結構違うものなんだな」

佐々木が黙々とパソコンのキーボードを打っている。

そこに部長が入ってくる。

部長「ん? なんだ? 全員、残業してるのか? 珍しいな」

紘一「ええ、まあ」

部長「(小声で)大丈夫なのか? 妙にやる気が出てるみたいだが」

紘一「計画は順調に進みそうです」

部長「……そうか。それならいいんだが」

場面転換。

佐々木「田代さん、この仕様、システム的に厳しい」

田代「ん? そっか。……じゃあ、あっちのゲームのところを参考にするか……」

戸澤「手塚さん、ヒロインの3人目、あがった。次のキャラの設定ちょうだい」

手塚「うっす、これっす」

本山「金城さん、ちょっと、これ触ってみてくれませんか? 操作し辛かったら、言ってください」

紘一「うん、ありがとう。さっそく、使ってみるね」

場面転換。

6人全員が作業をしている。

田代「あー、もう朝か。一回帰って、仮眠とってくる」

佐々木「お疲れー」

本山「お疲れ様です」

手塚「うっす」

戸澤「お疲れ様」

紘一「お疲れさ……じゃなくて! みんな、一回帰ろう。なに普通に徹夜してるの?」

佐々木「今、良い所なんだけどな」

手塚「ノッてきたところなんすけどね」

紘一「はい、帰る帰る!」

場面転換。

佐々木「……じゃあ、連結してみるぞ」

本山「……ごくり」

紘一「……お願い」

パソコンを操作する音。

佐々木「よし、これで動かせるようになったぞ」

紘一「じゃあ、プレイしてみるね」

BGMと操作音が響く。

一同がワッと盛り上がる。

戸澤「おおー、動いた動いた」

佐々木「当たり前でしょ。じゃあ、みんな、一旦、プレイして、変なところがあったら言って。直してくから」

一同「おー!」

場面転換。

一同がごくりと生唾を飲み込む。

紘一「じゃあ、行くよ」

佐々木「ああ。やってくれ」

クリックする音。

紘一「リ、リリースできた」

ワーッと歓声が上がる。

場面転換。

部長「……約束の2年だが、誰一人、退職届が出ていないが?」

紘一「……才能ゼロで、給料泥棒だから、辞めさせたい。そうですよね?」

部長「ああ。だから、2年も遊ばせてやったんだ。無能を追い出すためにな」

紘一「なら、彼らは辞めなくてよくなりました」

部長「はあ?」

紘一「もう、給料泥棒ではなくなりましたので。では、失礼します」

紘一が部屋から出ていく。

場面転換。

居酒屋。

紘一「かんぱーい!」

乾杯する音。

本山「……まさか、あんなに売り上げがあがるなんて、思いませんでした」

手塚「今、うちが全部署の中で、一番売り上げあるみたいっすよ」

紘一「実は、今日、社長から、独立部署としてゲーム開発部としてやっていいって言われたよ」

一同「おおー!」

紘一「今回のゲームは上手くいったけど、これからもより良いゲームを作り続けていくよ。……覚悟してくれる?」

佐々木「覚悟もなにも、こんな面白いこと、やめられないよ」

戸澤「うんうん」

本山「みんな、ホント、ゲーム作るの好きなんだね」

田代「営業でこんなに楽しい思いしたことはなかったからな」

手塚「営業の才能はゼロだったっすね」

紘一「みんな、ゲーム作りの才能があったんだよ」

佐々木「……ごめん。せっかくの打ち上げだけど、戻って作業する。ちょっと、思いついたことあるんだ」

田代「あ、俺も、いい仕様思いついたんだ」

戸澤「……いいキャラデザ閃いたんだよね」

紘一「あ、ちょっと、みんな!」

ぞろぞろと5人が居酒屋から出ていく。

紘一「……もう」

場面転換。

社内の廊下。

紘一が歩いているところに、部長がやってくる。

部長「あー、金城くん」

紘一「部長。なんですか?」

部長「すごいな。君の部署、社長の直下みたいじゃないか」

紘一「どうも」

部長「果ては専務ってところかな?」

紘一「……」

部長「なあ、相談なんだが……もし、君がどうしてもって言うなら、そっちの部署に行ってやってもいいぞ」

紘一「……部長はゲームに詳しいんですか?」

部長「いや。けど、たかがゲームだろ? 問題ないさ」

紘一「すみませんが、お断りします」

部長「な、なんだと!」

紘一「部長のゲームの才能はゼロですから、給料泥棒になってしまいますよ?」

部長「なっ!」

紘一「失礼します」

紘一が歩き去って行く。

場面転換。

ドアを開いて、部屋に入る紘一。

紘一「おはよう」

一同「おはようございます」

紘一「今日も、ゲーム開発、楽しみましょう」

終わり。

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