君が結んでくれたリボン
- 2022.09.16
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
夏彦(なつひこ)
長門 波瑠(ながと はる)
美鈴(みすず)
■台本
美鈴「夏彦さん。私ね、あなたと一緒にいられるだけで十分なの。それだけで幸せよ。……でもね、あなたはそうならないでほしいの。私がいなくても……。私がいない世界でも、あなたは幸せでいて欲しい。それが私からの、たった一つのお願い」
夏彦(N)「俺が美鈴にプロポーズしたときに言われた言葉だ。正直、そのときは、美鈴が、何が言いたかったのかがわからなかった。だが、美鈴にオッケーを貰いたくて、美鈴のお願いを守ることを誓った。思えば、美鈴は身体が弱く、長く生きられないことを薄々感じていたのではないだろうか。だから、あんな願いをしたんだと思う」
場面転換。
病室。
美鈴「ねえ、あなた。プロポーズのときの、私のお願い、覚えてる?」
夏彦「……美鈴。俺はお前のいない世界で生きられる気がしない。俺にとっても、お前が全てなんだ」
美鈴「……私は、あなたを不幸にしてしまうのね」
夏彦「違う! 俺は本当に幸せだったんだ。お前と一緒にいられて……。だから、この先もずっと……」
美鈴「私の幸せは、夏彦さんがずっと幸せでいてくれること。……お願い、私を幸せにして」
夏彦「う、うう……。無理だよ。美鈴。お前がいないと……俺は……」
夏彦(N)「この数日後。美鈴は息を引き取った……」
場面転換。
部屋の中。
キュッと位牌にリボンを結ぶ夏彦。
夏彦「……これでよし、と」
夏彦(N)「美鈴の願いは、俺が幸せでいること。俺の幸せは、美鈴といることだ。……だから、美鈴の位牌に、リボンを巻いた。美鈴がずっとしていたリボンを。こうすれば、美鈴と一緒にいられる。美鈴のリボンを見れば、俺は幸せでいられる。……美鈴の願いも叶うんだ」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
波瑠に支えられて、夏彦が部屋に入ってくる。
波瑠「ほら、課長、しっかりしてください。家に着きましたよ」
夏彦「んん? ああー、すまんな」
波瑠が水を汲み、コップを夏彦に渡す。
波瑠「課長、お水です」
夏彦「……ありがとう。くそ、まさか、あの程度で酔っぱらうなんてな……」
水を飲む夏彦。
波瑠「……課長」
夏彦「ん?」
波瑠「少しは、掃除した方がいいです」
夏彦「あー、いや、わかっているんだけどな。なかなか……」
波瑠「課長は仕事、頑張り過ぎです。だから、私生活にまで気が回らないんですよ」
夏彦「いいんだ、それで」
波瑠「……」
夏彦「俺の私生活は終わったんだ。仕事をしてる方が楽でいい」
波瑠「課長……」
夏彦「長門には感謝してる。お前がフォローしてくれなかったら、その仕事にさえ、集中できなかったかもしれない」
波瑠「そんなことありませんよ」
夏彦「だが、お前こそ、もう少し、私生活を大事にした方がいいな。俺なんかに付き合う必要はない。もっと、好きなことをやれ」
波瑠「……わかりました。そうします」
夏彦「ああ。ちゃんと幸せになれ」
場面転換。
夏彦の部屋。
夏彦「(寝息)すーすー」
そのとき、インターフォンが鳴る。
夏彦「……ん?」
起き上がって、ドアを開ける夏彦。
波瑠「あ、起こしちゃいましたか。すみません」
夏彦「……どうした、長門? 仕事がなんかあったか?」
波瑠「私生活を大切にしろって言われたので」
夏彦「ん?」
波瑠「お邪魔します」
波瑠が夏彦の部屋に入って来る。
波瑠「……ごはんを作る前に、ちょっと洗い物しちゃいますね」
夏彦「え? 長門……?」
場面転換。
テーブルの上に料理が盛られた皿を置く波瑠。
波瑠「どうぞ」
夏彦「……長門」
波瑠「あ、パスタ、嫌いでしたか?」
夏彦「いや、そうじゃなくて。仕事以外で、俺に構うなって言ったよな?」
波瑠「私生活を大切にしろって言われました」
夏彦「それなら、どうして、俺の家に来て、掃除と料理なんかしてるんだ?」
波瑠「私は、やりたいことをやっただけです」
夏彦「……そこまでするほど、俺はだらしがないか?」
波瑠「……わざと、言ってるんですか?」
夏彦「……すまない、長門。俺はお前をそういう目で見られない」
波瑠「……わかってます。私はやりたいことをやってるだけですので」
夏彦「……」
場面転換。
夏彦の部屋。
夏彦と波瑠が向かい合ってご飯を食べている。
夏彦「へー、それは凄いな」
波瑠「はい。で、今度のお休みに一緒に行きませんか?」
夏彦「そうだなぁ。特に予定もないし、言ってみるか」
波瑠「はい! 楽しみにしてますね」
場面転換。
波瑠「それでは、おやすみなさい」
夏彦「気を付けて帰れよ」
パタンとドアが閉まる。
夏彦「……あいつが、帰ると途端に部屋の中が静かになるな」
夏彦(N)「ふと、美鈴のリボンが目に入った。……胸が締め付けるように痛い。美鈴がいれば俺は幸せだ。そう思っていたのに……。今の俺は……」
場面転換。
波瑠「……どういうことですか?」
夏彦「すまない。俺は美鈴を忘れることができない……いや、忘れたくない」
波瑠「……わかりました。もう、ここに来るのはやめます」
夏彦「……」
ブチっという音。
波瑠「きゃっ!」
夏彦(N)「そのとき、長門の髪を留めていたゴムが切れる」
波瑠「あ……」
そのとき、シュッとリボンがほどける音。
夏彦(N)「同時に、位牌に結んでいたリボンが解けた」
夏彦「……」
波瑠「……」
夏彦(N)「……美鈴。俺は……」
夏彦「……これを使ってくれないか?」
波瑠「いいんですか?」
夏彦「ああ」
場面転換。
ウェディングベルが鳴り響く。
波瑠「私、今、とっても幸せです」
夏彦「……俺もだ」
夏彦(N)「美鈴。君は、俺に2度の幸せを与えてくれた。一つは君に出会ったこと。二つ目は長門との縁を結んでくれたこと。……俺は今、幸せだ。……だから、君も今、幸せでいてくれるのだろうか? 君の願い、ようやく果たせることができそうだ。……本当に、ありがとう」
終わり。
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