デビュー戦

〈前の10枚シナリオへ〉   〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人以上
時間:15分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
高城 雅樹(たかしろ まさき)
宮戸 圭祐(みやと けいすけ)
トレーナー
ジムメイト1~2
選手1~3
アナウンサー

■本編

雅樹(N)「親父は有名な野球選手だった。親の代じゃ、親父の名前を知らないやつはいないってくらい。だから、俺はいつも、雅樹、じゃなくて、高城の子供って呼ばれていた。俺はそれが嫌だった。俺の前にいる奴は、俺を見ているはずなのに、写っているのは親父の姿。俺を見ようとしない。それが、本当に嫌だった」

ボクシングジム。

雅樹がスパーリングしている。

雅樹「ふっ!」

トレーナー「よーし、いいぞ、雅樹!」

そのとき、3分を示すベルが鳴る。

トレーナー「オッケー。休憩だ。この後、ロードワーク行くからな」

雅樹「うっす」

ジムメイト1「高城さん、気合入ってるよな」

ジムメイト2「もうすぐ、プロテストだからな」

ジムメイト1「ジム始まって以来の、日本チャンプを出せるって、おやっさんも上機嫌だし」

ジムメイト2「才能だろうな。持ってるものが違うって言うか」

ジムメイト1「そりゃ、親がプロ野球選手だもんな、出来が違うって」

ジムメイト2「バカっ!」

雅樹「おい、親父がなんだって? 親父はカンケーねーだろうがよ」

ジムメイト1「いや、その……」

トレーナー「何やってんだ、雅樹! ロードワーク行くぞ!」

雅樹「……ちっ! 次のスパーリングでボコボコにしてやるからな」

雅樹(N)「当たり前だが、俺は野球の道には進まなかった。その道に進めば、ずっと親父と比べられる。だから、全然カンケーないボクシングを選んだ。けど、親父からは逃げられない。どこに行っても、俺の後ろには親父がいる……」

場面転換。

プロテスト会場。

試合をしている雅樹。

雅樹「ふっ!」

ドスっと鈍い音。

選手1「うおっ!」

ドサリとダウンする選手1。

同時に、ゴングが鳴る。

選手2「マジかよ。プロテストの試合でダウン取るか、普通」

選手3「ほら、あいつは、あれだよ。例の」

選手2「ああ。高城の子供か。……まさか、対戦相手に金とか渡したとかじゃね? 金持ちの坊ちゃんが強ぇわけねーし」

雅樹「おい、リング上がれや。弱いかどうか、実際、見せてやるよ!」

トレーナー「おい、やめろ! 失格にされるぞ」

雅樹「……ちっ!」

そのとき、歓声と同時にゴングが鳴る。

選手2「うわ。まただよ。ダウンさせちまった」

圭祐「ふん……」

雅樹「……」

場面転換。

ジム内。

トレーナー「おい、雅樹。デビュー戦、決まったぞ。宮戸圭祐だ」

雅樹「宮戸……って、まさか」

トレーナー「ああ。プロテストで、お前と同じく、ダウン取ってたやつだ」

雅樹「面白れぇ。やってやるぜ」

場面転換。

試合会場。

客が大盛り上がり。

ゴングが鳴り響く。

アナウンサー「壮絶な右ストレート! お互いのデビュー戦。高城対宮戸は、宮戸のKO勝利です」

場面転換。

土手に座る雅樹。

そこに圭祐がやってくる。

圭祐「よお」

雅樹「……なんだよ。慰めにでも来たのか?」

圭祐「勝負は五分五分。俺が勝ったのは運だ」

雅樹「慰めはいらねーって」

圭祐「新聞見たか?」

雅樹「いや」

圭祐「おかしいと思ったんだよ。新人のデビュー戦であんなに盛り上がるなんて」

雅樹「どういうことだ?」

圭祐「ほれ」

新聞を渡す圭祐。

雅樹「……なっ! お前、宮戸選手の子供だったのか」

圭祐「野球の高城とサッカーの宮戸の対決。そりゃ盛り上がるわな」

雅樹「どこまで行っても、親父の子供……か」

圭祐「ああ……そうだな」

雅樹「ま、けど、俺にはカンケーねー。次はお前に勝つぞ、圭祐」

圭祐「チャンピオンベルト巻いて待っててやるよ」

雅樹「はあ? 俺の方が先だっつーの!」

圭祐「おいおい。それが負けた方の台詞か?」

雅樹「あれは運だってーの!」

圭祐「ははは。そうだな」

場面転換。

ロードワークをしている圭祐。

そこに雅樹が走って来る。

雅樹「おい! 圭祐、どういうことだよ!」

圭祐「ああ、階級上げる件か?」

雅樹「俺たちの決着まだだろ!」

圭祐「しゃーねーだろ。もう、あの階級でやるのは、体的に無理だ」

雅樹「俺に負けてからにしろよ」

圭祐「……それじゃ、うま味がねーだろ」

雅樹「んだよ、勝ち逃げかよ」

圭祐「なあ、雅樹。俺は世界王者になる」

雅樹「……また、お前らしい、デカい夢だな」

圭祐「試してみたいんだ」

雅樹「試す?」

圭祐「世界王者になっても、俺はまだ、宮戸の子供って言われるのか、ってな」

雅樹「……なるほど。宮戸選手は、日本代表でワールドカップにも出たけど、優勝はしてねーからな」

圭祐「そう。どれだけ有名になれば、親父の名前を消せるか、それをやってみてーんだ」

雅樹「はは。確かに面白そーだな。けど、どうする? 宮戸選手と高城選手の子供が揃って世界王者に、なんて記事になったら?」

圭祐「はは。笑えねー」

雅樹「よし! じゃあ、いっちょ、やってみるか」

圭祐「ってことで、俺が返上したベルトのタイトルマッチ、負けんじゃねーぞ」

雅樹「負けるか、アホ!」

場面転換。

ホテル内。

ドアのノックする音と、ドアを開ける音。

圭祐「よお!」

雅樹「久しぶりだな。4年ぶりってとこか」

圭祐「ああ。早かったような、遅かったような……」

雅樹「けど、まさか、二人とも同じ日に、タイトルマッチとはなー」

圭祐「明日、やっと答えが出る」

雅樹「ああ。俺たちは結局、親父の子供なのか……な」

圭祐「今はどう書かれてるんだろうな? やっぱり、宮戸選手と高城選手の息子が揃って世界戦、とか書かれてんのかな?」

雅樹「さあな。新聞とかニュースは見ないようにしてる。試合後の楽しみに」

圭祐「はは。同じだな。じゃあ、明日、頑張れよ。せっかく、揃って世界王者になれるチャンスなんだからな」

雅樹「けっ! 俺の台詞だ」

場面転換。

試合会場。

大盛り上がりの会場。

ゴングが鳴り響く。

場面転換。

ホテル内。

雅樹「あー、クソ。まだ、頭がグワングワンする」

そこにノックの音。

立ち上がり、ドアを開ける雅樹。

圭祐「よお、チャンプ。昨日のダメージでフラフラしてんだろ?」

雅樹「……こっちの台詞だ。まあ、入れよ」

二人が部屋の中に入り、椅子に座る。

圭祐「さて、今日の新聞だ」

雅樹「なんて書いてある?」

圭祐「見てみろ」

圭祐が新聞を渡す。

雅樹「……同期の高城雅樹と宮戸圭祐、揃ってベルトを奪取」

圭祐「やったな。ついに、親父の名から解放された」

雅樹「……」

圭祐「どうした?」

雅樹「あー、いや。高城選手の息子って書いてねーと、なんか、自分のことじゃねー気がしてさ」

圭祐「……ぷっ! あははははははは!」

雅樹「な、なんだよ……」

圭祐「実は俺もなんだ。最初、新聞、間違って買っちまったかなって、二度見したからな」

雅樹「あははははは。わかるわかる」

二人で大笑いする。

圭祐「なあ、知ってるか? 今の若いやつは、高城選手も、宮戸選手も知らねーみたいだぜ」

雅樹「そうなの?」

圭祐「前に、記事で、高城選手と宮戸選手の息子って書いて、読者から、逆に誰? って言われたんだってよ」

再び、二人で大笑いする。

雅樹「ふう。なんだかなー。あんなに嫌だったのに」

圭祐「いざとなったら、なんか寂しいよな」

雅樹「逆に実感わかねーよ。書けよ。高城選手の息子、世界王者になるって」

圭祐「……俺たちはようやく、高城雅樹と宮戸圭祐になったんだよ」

雅樹「……」

圭祐「つまり、昨日試合が俺たちにとってのデビュー戦だったってわけだ」

雅樹「世界戦がデビュー戦って、恐ろしいな」

圭祐「けど、俺ららしいだろ?」

雅樹「まあな。にしても、大変だよな」

圭祐「なにが?」

雅樹「俺の子供さ。何をするにしても、高城選手の子供って言われるんだぜ?」

圭祐「それは、相手を見つけてから心配しろよ」

雅樹「うっせー!」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉   〈次の10枚シナリオへ〉