瘡蓋
- 2022.10.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
田中 晴樹(たなか はるき)
神城 凌馬(かみしろ りょうま)
坂下 恵太(さかした けいた
知也(ともや)
教師
■台本
晴樹(N)「傷が治りかけるときに、かさぶたができる。そして、かさぶたが取れるときに、傷は治っている。俺は、かさぶたを見ると、いつもあのことを思い出す」
場面転換。
放課後の教室内。
恵太以外、誰もいない。
恵太「う、うう……」
ガラガラとドアが開く。
晴樹「誰かいるのか? もう下校時間だぞ……って、坂下、どうした?」
恵太「あ、田中先生……」
晴樹「……苛めか? 誰にやられた?」
恵太「先生、お願い。誰にも言わないで」
晴樹「なんでだ?」
恵太「僕が我慢すればいいだけだから」
晴樹「なんで、我慢する必要があるんだ?」
恵太「……先生に言ったって言われて、もっと酷いことされるから」
晴樹「……坂本。聞いて欲しいんだ。先生な、イジメられてたんだ」
恵太「え? 先生が?」
晴樹「ああ。あれは小学4年の頃だった」
教室内。
晴樹が小学4年生の頃。
教師「転校生の神城凌馬くんだ。みんな、仲良くな」
凌馬「凌馬だ! りょーちんって呼んでくれ!」
教室内からパチパチとまばらな拍手が起こる。
教師「じゃあ……田中の隣に座ってくれ」
知也「あーあ、晴樹の隣かー。可哀そ。臭いの、移らないよう気を付けろよ」
教師「おい、知也、そういう事言わない」
教室内でクスクスと笑い声が上がる。
晴樹「……」
凌馬が歩いて、凌馬の隣に座る。
凌馬「よろしくな。えーっと、晴樹だっけ?」
晴樹「う、うん。……よろしく」
場面転換。
チャイムが鳴り響く。
知也「よーし! 休み時間だ! サッカーやろうぜ、サッカー」
一斉に立ち上がる男子たち。
知也「よお、転校生、お前も来いよ」
凌馬「……晴樹は誘わないの?」
知也「あいつはくせーからいいんだよ」
周りがドッと笑う。
凌馬「ふーん」
知也「ほら、来いよ」
凌馬「いや、いいや。お前の方がくせーし」
知也「ああ!? なんだと? 俺のどこがくせーんだよ!」
凌馬「クラスメイトをイジメる、その心がだよ。ホントくせえ」
知也「……お前、バカか? 転校生のくせに。みんな、いこーぜ」
ゾロゾロと男子生徒たちが教室を出ていく。
晴樹「ね、ねえ。なんで、あんなこと言ったの?」
凌馬「なんでって、思ったこと言っただけだよ」
晴樹「ぼ、僕、知らないよ。どうなっても」
凌馬「ん? どうなってもって、どうなるんだ?」
晴樹「……」
場面転換。
朝の教室内。
ざわざわしている。
凌馬「おーっす、おはよー。みんな集まって、なにして……あ」
晴樹「……」
凌馬「えーっと、なんで、俺の机の上に花が置いてあるんだ? てか、誰の?」
知也「さあな」
凌馬「ふーん」
花を掴んで、ゴミ箱に入れる。
知也「なっ! お前、何してんだよ」
凌馬「なんで、お前が怒るんだ? お前のだったのか?」
知也「ち、ちげーよ」
場面転換。
チャイムの音。
教室に教師が入って来る。
教師「よーし、授業を始めるぞー。教科書出せよー」
凌馬「……あ」
教師「どうした、神城」
凌馬「教科書に落書きされてます」
教師「……そっか。おーい。誰か、神城の教科書に落書きしたか?」
教室内はシーンとしている。
教師「神城。このクラスの奴らじゃないみたいだ。どこかにカバン置いてなかったか?」
凌馬「……いえ」
場面転換。
ガチャリと屋上のドアが開く。
晴樹「あ、いた」
凌馬「おお、晴樹か」
晴樹「……ここでお弁当食べてたんだね」
凌馬「ああ。教室だと、何されるかわからないからな」
晴樹「ねえ、凌馬くん。知也くんに謝って、僕の苛めに加わりなよ。そうすれば、意地悪はされなくなるよ」
凌馬「……別にいい」
晴樹「どうして、僕の為にここまでしてくれるの?」
凌馬「別にお前の為じゃねーよ。ああやって、イジメをする奴が嫌いなだけだ」
晴樹「誰だって、嫌いだよ。でも、どうしようもないし。これからもイジメられるよ?」
凌馬「我慢すればいいじゃん」
晴樹「……でも、辛くないの?」
凌馬「俺さ、転校多いんだよ。で、イジメられることも、結構、あるんだ」
晴樹「そうなの?」
凌馬「ああ。だから、慣れてるんだよ」
晴樹「慣れる? ……凄いね」
凌馬「俺、意地悪された時や悪口を言われたときは、かさぶたができたと思うようにしてるんだ」
晴樹「かさぶた? かさぶたって、あの?」
凌馬「そう。あの、肌に出来るやつ」
晴樹「どういうこと?」
凌馬「かさぶたってさ、傷ができて、治るときにできるだろ?」
晴樹「うん」
凌馬「心も同じって思うんだ。確かに、意地悪とか悪口を言われたら、傷つく。でも、かさぶたができて、ペロッと剥けたら治ってる。どんな傷もきれいさっぱりにだ。それと同じように、忘れるようにしてるんだ」
晴樹「……」
凌馬「腹がたった時は、かさぶたが痒くなってると思って我慢するんだ。俺、かさぶたが痒いときに、周りを少し掻いたりするの好きなんだよな」
晴樹「あ、それ、わかる。僕もだよ」
凌馬「ははは。あれ、なんか癖になるよな」
晴樹「あははは。そうだよね」
凌馬「そういえば、お前はなんで、くせーとか言われてるんだ?」
晴樹「……前に、一回、犬の糞を踏んじゃったんだ」
凌馬「ビックリするくらい、くだらねーな」
晴樹「はは。だよね」
そのとき、バンと屋上のドアが開く。
知也「あ、いたいた。お前ら、こんなところにいたのか。おい、転校生、お前の、このキモイ袋、落ちてたぞ」
凌馬「おい! 返せよ! それ、母さんが作った、弁当袋だ!」
知也「な、なんだよ。急に、怒鳴りやがって。生意気なんだよ!」
袋を地面に叩きつけて、踏みつける。
知也「キモイんだよ! 母親の手作りなんてよー!」
凌馬「うおおおおお!」
凌馬が走り出す。
知也「うわっ! なんだよ!」
凌馬「あああああ!」
知也「うわっ! いてっ! や、やめろ!」
凌馬が知也の上に馬乗りになって、殴り続ける。
場面転換。
現代に戻る。
晴樹「……ってことがあったんだ」
恵太「それで、どうなったの?」
晴樹「凌馬くんは、停学になって、そのあとは学校に来ることなく転校して行ったよ」
恵太「……それで、先生はどうなったの?」
晴樹「もちろん、凌馬くんがいなくなったら、今度は先生が標的になったな。殴られた分の怒りも上乗せされてさ」
恵太「先生はどうやって耐えたの? ……かさぶたができるって思いこんだの?」
晴樹「いや、逃げた」
恵太「え?」
晴樹「不登校になったんだ」
恵太「……」
晴樹「なあ、坂下。確かに、我慢するというのは、強いのかもしれない。凌馬くんの、かさぶた理論は無茶苦茶だけど、面白いって思った。けどさ、先生は思うんだ」
恵太「……」
晴樹「かさぶたが出来るってことは、傷ついてるってことだ」
恵太「そうだね」
晴樹「そもそも、傷つかなきゃ、かさぶたなんて出来ないんだ。それに、かさぶたが出来ても、完全に治らない傷だってある。凌馬くんのようにな」
恵太「その、凌馬くんは、なんで怒ったの?」
晴樹「自分のことは我慢できたけど、母親を馬鹿にされるのは我慢できなかったんだろうな。その気持ちはわかるよ。だから、やっぱり、そもそも、傷を作らないようにしないとならないんだ」
恵太「……そ、それはそうだけど、それができるなら、苦労しないよ」
晴樹「だから、逃げればいいんだよ」
恵太「……え?」
晴樹「我慢なんてしなくてよくて、逃げるっていう道もあるんだ」
恵太「でも、でも……」
晴樹「先生はさ、どうやってもイジメを止めることができないってわかってる。いくら注意したところで、やめるわけない」
恵太「……うん」
晴樹「だから、先生はイジメられている生徒を見つけたら、逃げる道を作ってやることにしてるんだ」
恵太「でも、逃げるってことは不登校……だよね? その、将来、大丈夫なの?」
晴樹「いやあ、何とかなるもんだよ。現に、先生は、不登校でも教師に慣れたからな」
恵太「……」
晴樹「勉強は学校じゃなくても出来るってことさ」
恵太「……でも、でも」
晴樹「わかるよ。親に言うのが怖いよな」
恵太「うん……」
晴樹「だから、行こう」
恵太「え?」
晴樹「先生が一緒に、坂本の両親を説得するよ。我慢しない方法を先生と一緒に考えていこう」
恵太「う、うん。ありがとう……先生」
晴樹(N)「かさぶたを見るといつも思う。俺が最初から、あの教室から逃げていれば、凌馬くんはイジメられなかったかもしれない。あんなことにならなかったかもしれない。イジメを失くすことはできないだろう。だけど、少しでも減らすために、これからももがいていこうと思う」
終わり。