初めての我儘
- 2022.10.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
若葉(わかば)
新(あらた)
鏡花(きょうか)
■台本
若葉「ねえ、新。私、遥か彼方にが見たいから、映画のチケット、取っておいてくれる?」
新「今度の土曜の14時からのでいいのか?」
若葉「うん、それでよろしくー」
場面転換。
若葉「ねえ、新。仕事でプレゼンすることになっちゃって……。資料作るの手伝って!」
新「ったく。なんについてのプレゼンなんだ?」
場面転換。
若葉「ねえ、新。急に、カルボナーラ食べたくなっちゃった」
新「……ベーコンの代わりにハムでいいなら、作ってやるぞ」
若葉「ホント!? ありがとー!」
場面転換。
喫茶店。
鏡花「若葉、あんた、いつか痛い目見るよ」
若葉「へ? 何の話?」
鏡花「新君のこと」
若葉「新がなに? どうかしたの?」
鏡花「我儘ばっかり言ってて、愛想つかされても知らないわよ」
若葉「……」
鏡花「新君なんて、顔良し、性格よし、収入良しで、超優良物件なんだからさ」
若葉「……だからだよ」
鏡花「どういうこと?」
若葉「あの新が、私なんかと付き合ってくれてるのよ。……不安になるじゃない」
鏡花「……はあ。で、我儘を言うことで、新君の気持ちを確かめてる、と?」
若葉「……」
鏡花「気持ちはわからなくもないけど、それで愛想つかされたら、意味ないじゃない」
若葉「わかってるよ。わかってるけどさ……。不安、なんだよ」
鏡花「それはあんたが、自分に自信がないからでしょ?」
若葉「う、うん……」
鏡花「なら、自信つけれるように努力しなさいよ」
若葉「でも、私なんかが努力したところで、たかが知れてるよ」
鏡花「あんたさ、新君がいなくなってもいいの?」
若葉「……ヤダ」
鏡花「なら、努力しなさいよ。新君に、あんたと一緒にいれてよかったって思われるようにさ」
若葉「う、うん……」
鏡花「そんな顔しないの。私も手伝ってあげるからさ」
若葉「ありがとう……」
場面転換。
若葉の家。
コトンと、箸を置く。
若葉「御馳走様」
新「あれ? まだ、残ってるぞ」
若葉「いいの。ちょっと、食欲がなくて……」
新「具合悪いのか? 病院行くか?」
若葉「ち、違うよ。あと、今日は私が洗い物するから」
新「……やっぱり、熱があるんだな? 今日はもう寝た方がいい」
若葉「いや、違うってば!」
場面転換。
若葉の家。
化粧をしている若葉。
若葉「どう?」
鏡花「……あんた、よくそれで今まで生活できてたわね。全然、化粧の基本が出来てないじゃない」
若葉「うっ……。今まで、ほぼスッピンだったから……」
鏡花「はあー……。ある意味、羨ましいわね。けど、やるからにはしっかり、教えるから、ちゃんと覚えなさいよ」
若葉「よ、よろしくお願いします」
場面転換。
洋服店。
若葉「うーん。コーディネートなんてわかんないよー」
鏡花「ほら、すぐ諦めない!」
若葉「もう、これでいいよー」
鏡花「新君に、あんたの可愛い所、見てもらいたくないの?」
若葉「……私、頑張る」
場面転換。
若葉の家。
ストレッチをしている若葉。
若葉「よっ! ほっ! いてて」
新「なにやってるんだ?」
若葉「ストレッチ」
新「ふーん」
若葉「……ちょっと。ジッと見られてると恥ずかしいんだけど」
新「……なにかあったのか?」
若葉「へ?」
新「最近の若葉、ちょっと変だぞ」
若葉「変って、どういうこと?」
新「食べるの制限してるみたいだし、そうやって何かと体を動かすようになったり、女性雑誌を見るようになったり……」
若葉「……普通の女の子なら、当たり前のことじゃない」
新「なにより、我儘を言わなくなった」
若葉「……ねえ、新」
新「なに?」
若葉「迷惑だったら、断ってもいいんだからね。私の我儘」
新「別に、迷惑なんかじゃないさ」
若葉「我儘なんか言わなくたって、不安にならないように努力するから」
新「若葉……」
場面転換。
喫茶店。
鏡花「若葉。あんたからプロボーズしなさい」
若葉「……急に、何言ってるの?」
鏡花「悠長なことなんて言ってられないわ。これを見て」
スマホを操作して、若菜に見せる。
若葉「……え? 新の隣にいる人、だれ?」
鏡花「新君の会社の、社長令嬢だって」
若葉「……」
鏡花「いい? 若葉。正直に言って、顔もプロポーションも、気品も、経済状況も、あんたに勝てるところはないわ」
若葉「……」
鏡花「勝てるのはたった一つよ」
若葉「……なに?」
鏡花「今まで過ごしてきた、新君との時間。いい? このアドバンテージはかなり大きいわ。でもね、だからって言って、悠長なんてしてられない。ここは強引にでも迫って、結婚するしかないわ」
若葉「……わかった」
場面転換。
夜景が見える、展望台。
新「若葉が、夜景を見たいだなんて、珍しいな」
若葉「うん、ちょっと、ね」
新「……若葉? どうした? なんかあったのか?」
若葉「新はさ、いつも私の我儘、聞いてくれたよね? どんなときも、どんなこともさ」
新「……」
若葉「嬉しかった。我儘を聞いてくれるのを見て、愛されてるって感じてた」
新「……」
若葉「でも、そんなのは自分勝手で、我儘なんだって……」
新「若葉……」
若葉「ねえ、新。私の最後の我儘、聞いてくれる?」
新「……最後の?」
若葉「私と別れて。そして、幸せになって」
新「……」
若葉「私なんかよりも、あの、社長の娘と結婚した方が、新は幸せになれる。だから、お願い。私と別れて……」
新「迷惑だ」
若葉「え?」
新「前に若葉が言ったろ? 迷惑なら、我儘を断っていいって」
若葉「……あ」
新「迷惑だから断る。俺は若葉と別れない」
若葉「……初めて、我儘、断られちゃった」
新「なあ、若葉。今まで俺はお前の我儘に付き合ってきた。だからさ、一回くらいは俺の我儘を聞いてくれないか?」
若葉「……なに?」
新「俺と結婚してくれないか?」
若葉「……新」
新「これが、俺の初めての我儘だ」
若葉「うん……」
終わり。