初めての我儘

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
若葉(わかば)
新(あらた)
鏡花(きょうか)

■台本

若葉「ねえ、新。私、遥か彼方にが見たいから、映画のチケット、取っておいてくれる?」

新「今度の土曜の14時からのでいいのか?」

若葉「うん、それでよろしくー」

場面転換。

若葉「ねえ、新。仕事でプレゼンすることになっちゃって……。資料作るの手伝って!」

新「ったく。なんについてのプレゼンなんだ?」

場面転換。

若葉「ねえ、新。急に、カルボナーラ食べたくなっちゃった」

新「……ベーコンの代わりにハムでいいなら、作ってやるぞ」

若葉「ホント!? ありがとー!」

場面転換。

喫茶店。

鏡花「若葉、あんた、いつか痛い目見るよ」

若葉「へ? 何の話?」

鏡花「新君のこと」

若葉「新がなに? どうかしたの?」

鏡花「我儘ばっかり言ってて、愛想つかされても知らないわよ」

若葉「……」

鏡花「新君なんて、顔良し、性格よし、収入良しで、超優良物件なんだからさ」

若葉「……だからだよ」

鏡花「どういうこと?」

若葉「あの新が、私なんかと付き合ってくれてるのよ。……不安になるじゃない」

鏡花「……はあ。で、我儘を言うことで、新君の気持ちを確かめてる、と?」

若葉「……」

鏡花「気持ちはわからなくもないけど、それで愛想つかされたら、意味ないじゃない」

若葉「わかってるよ。わかってるけどさ……。不安、なんだよ」

鏡花「それはあんたが、自分に自信がないからでしょ?」

若葉「う、うん……」

鏡花「なら、自信つけれるように努力しなさいよ」

若葉「でも、私なんかが努力したところで、たかが知れてるよ」

鏡花「あんたさ、新君がいなくなってもいいの?」

若葉「……ヤダ」

鏡花「なら、努力しなさいよ。新君に、あんたと一緒にいれてよかったって思われるようにさ」

若葉「う、うん……」

鏡花「そんな顔しないの。私も手伝ってあげるからさ」

若葉「ありがとう……」

場面転換。

若葉の家。

コトンと、箸を置く。

若葉「御馳走様」

新「あれ? まだ、残ってるぞ」

若葉「いいの。ちょっと、食欲がなくて……」

新「具合悪いのか? 病院行くか?」

若葉「ち、違うよ。あと、今日は私が洗い物するから」

新「……やっぱり、熱があるんだな? 今日はもう寝た方がいい」

若葉「いや、違うってば!」

場面転換。

若葉の家。

化粧をしている若葉。

若葉「どう?」

鏡花「……あんた、よくそれで今まで生活できてたわね。全然、化粧の基本が出来てないじゃない」

若葉「うっ……。今まで、ほぼスッピンだったから……」

鏡花「はあー……。ある意味、羨ましいわね。けど、やるからにはしっかり、教えるから、ちゃんと覚えなさいよ」

若葉「よ、よろしくお願いします」

場面転換。

洋服店。

若葉「うーん。コーディネートなんてわかんないよー」

鏡花「ほら、すぐ諦めない!」

若葉「もう、これでいいよー」

鏡花「新君に、あんたの可愛い所、見てもらいたくないの?」

若葉「……私、頑張る」

場面転換。

若葉の家。

ストレッチをしている若葉。

若葉「よっ! ほっ! いてて」

新「なにやってるんだ?」

若葉「ストレッチ」

新「ふーん」

若葉「……ちょっと。ジッと見られてると恥ずかしいんだけど」

新「……なにかあったのか?」

若葉「へ?」

新「最近の若葉、ちょっと変だぞ」

若葉「変って、どういうこと?」

新「食べるの制限してるみたいだし、そうやって何かと体を動かすようになったり、女性雑誌を見るようになったり……」

若葉「……普通の女の子なら、当たり前のことじゃない」

新「なにより、我儘を言わなくなった」

若葉「……ねえ、新」

新「なに?」

若葉「迷惑だったら、断ってもいいんだからね。私の我儘」

新「別に、迷惑なんかじゃないさ」

若葉「我儘なんか言わなくたって、不安にならないように努力するから」

新「若葉……」

場面転換。

喫茶店。

鏡花「若葉。あんたからプロボーズしなさい」

若葉「……急に、何言ってるの?」

鏡花「悠長なことなんて言ってられないわ。これを見て」

スマホを操作して、若菜に見せる。

若葉「……え? 新の隣にいる人、だれ?」

鏡花「新君の会社の、社長令嬢だって」

若葉「……」

鏡花「いい? 若葉。正直に言って、顔もプロポーションも、気品も、経済状況も、あんたに勝てるところはないわ」

若葉「……」

鏡花「勝てるのはたった一つよ」

若葉「……なに?」

鏡花「今まで過ごしてきた、新君との時間。いい? このアドバンテージはかなり大きいわ。でもね、だからって言って、悠長なんてしてられない。ここは強引にでも迫って、結婚するしかないわ」

若葉「……わかった」

場面転換。

夜景が見える、展望台。

新「若葉が、夜景を見たいだなんて、珍しいな」

若葉「うん、ちょっと、ね」

新「……若葉? どうした? なんかあったのか?」

若葉「新はさ、いつも私の我儘、聞いてくれたよね? どんなときも、どんなこともさ」

新「……」

若葉「嬉しかった。我儘を聞いてくれるのを見て、愛されてるって感じてた」

新「……」

若葉「でも、そんなのは自分勝手で、我儘なんだって……」

新「若葉……」

若葉「ねえ、新。私の最後の我儘、聞いてくれる?」

新「……最後の?」

若葉「私と別れて。そして、幸せになって」

新「……」

若葉「私なんかよりも、あの、社長の娘と結婚した方が、新は幸せになれる。だから、お願い。私と別れて……」

新「迷惑だ」

若葉「え?」

新「前に若葉が言ったろ? 迷惑なら、我儘を断っていいって」

若葉「……あ」

新「迷惑だから断る。俺は若葉と別れない」

若葉「……初めて、我儘、断られちゃった」

新「なあ、若葉。今まで俺はお前の我儘に付き合ってきた。だからさ、一回くらいは俺の我儘を聞いてくれないか?」

若葉「……なに?」

新「俺と結婚してくれないか?」

若葉「……新」

新「これが、俺の初めての我儘だ」

若葉「うん……」

終わり。

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