レベル1なのに、これ以上レベルが上がらない件について
- 2022.10.26
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
シン
ザイン
王
兵士
■台本
王「レベル1でMAXだと! 情けない! これで勇者などと片腹痛いわ! 儂の前から失せろ!」
シン(N)「普通に生活していたら、いきなり異世界に呼び出されて、言われた言葉がこれである」
王「勇者じゃないのなら、国が面倒を見る必要はない。さっさと国を出て、魔物に食われるか、野垂れ死ぬか、するがよい」
シン(N)「ほとんど何も説明されないまま、国外追放となってしまった。そんな俺に、兵士のおっちゃんが色々と説明してくれた」
兵士「魔王と名乗る者が魔王を引き連れて、この世界に侵略してきたのが、50年前。で、その魔王を倒すために……」
シン(N)「兵士のおっちゃんの話を要約すると、魔王にまったく歯が立たないから異世界から人を呼び出すことにしたらしい。なんでも、他の世界の人間は、この世界とは少し違った物質が入っているみたいで、この世界に来た瞬間に、その物質が特別な力を持つようになるのだとか。それがいわゆる、特殊能力なのだという」
兵士「異世界から召喚された勇者でも、いまだに魔王を倒せていないんだ。それどころか、毎日のように勇者が死んだって報告が届くくらいだ。兄ちゃんも死なないようにひっそりと暮らしな」
シン「はい、そうします」
兵士「まあ、何かあったら、相談に来な。追放なんて言ったって、誰も兄ちゃんの顔なんて覚えてないんだから」
シン「ありがとうございます」
シン(N)「とはいえ、町の中にいて、何かあっても面倒くさいので、俺は山の中に住むことにした」
場面転換。
山道を進むシンが、立ち止まる。
シン「よし、この辺でいいかな。はっ!」
バシバシと木を剣で切っていく。
シン「ふふふ。山の中でゆっくりと生活するの、憧れてたんだよな~」
場面転換。
シン(N)「最初から何も期待されていない俺は、悠々自適な生活をしていても、誰からも文句を言われない。この世界は、今の俺なら生活に困ることはないのだ」
場面転換。
森の中でモンスターを倒すシン。
シン「はああ!」
ザシュっとモンスターを一刀両断するシン。
モンスターの断末魔が響く。
シン「ふう。ヒドラの皮は高く売れるから、後で街に売りに行くか……」
そのとき、ザインが現れる。
ザイン「ほっほっほ。ヒドラを一刀両断か」
シン「……誰だ?」
ザイン「ザインという者じゃ」
シン「ザイン……? 聞いたことがあるな。あっ! 森の賢者って言われている、あの……?」
ザイン「ほっほっほ。知ってもらえていて、光栄じゃ」
シン「……けど、その賢者様が、俺に何の用ですか?」
ザイン「……ふむ。ズバリ言おう。私と一緒に、魔王退治の旅に出てくれんか?」
シン「……はは。御冗談を。無理ですよ。無理」
ザイン「なぜじゃ?」
シン「聞いてないんですか? 俺はレベル1なんですよ」
ザイン「聞いておるよ」
シン「これ以上、レベルは上がらないんですよ」
ザイン「それも聞いておる」
シン「なら、俺なんか役に立たないくらいはわかってる……」
ザイン「はあああ!」
いきなり、ザインが炎の球をシンに向けて放つ。
シン「うわあああ!」
シンが剣で、炎の球を真っ二つにする。
シン「危なかった……。ちょっと! 何するんですか! 下手したら死んでましたよ!」
ザイン「ふむ。普通なら、消し炭になるな」
シン「そんなものを人に放つなんて、信じられませんよ! 何考えてるんですか!」
ザイン「……だが、お主は無傷だ」
シン「うっ!」
ザイン「……今まで見てきたどんな勇者でも、ここまでやれる人間はいなかった」
シン「……でも、ほら、俺はレベル1ですよ。それに、それ以上レベルは上がりません」
ザイン「ふむ……。レベル1だからと言って、弱いとは限らない。……違うかね?」
シン「くっ!」
ザイン「そして、これ以上、レベルが上がらないということは……既にステータスがカンストしている」
シン「ぎくぅ!」
ザイン「ほっほっほ。やはり。あの王はレベル1という表面的なところしか見なかったようじゃな」
シン「……えっと。その……」
ザイン「では行こうか?」
シン「いや、俺はここで悠々自適な生活を……」
ザイン「ほっほっほ。まあまあ、サッと行って、サッと倒して帰ってくればいい」
シン「遠慮しときます」
ザイン「まあ、そう言うでない」
ブンと、光の輪がシンを包む。
シン「うわ、なんだ? この光の輪は?」
ザイン「一種の封印術じゃ。いわば、犬の首輪といったところか」
シン「は、外してくれー」
ザイン「まあまあ、そういうでない」
ズルズルと引きずられていくシン。
シン「いーやーだー! 離してくれー!」
シン(N)「こうして、俺は望んでもいない過酷な旅に出ることになった。強引なじいさんと一緒に。……うう、せめて可愛い女の子と一緒がよかった……」
終わり。