卒業アルバム
- 2022.11.22
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
廉治(れんじ)
宮下(みやした)
藍沢(あいざわ)
久保(くぼ)
田代(たしろ)
■台本
学校の教室。
生徒たちでざわざわしている。
廉治が教室に入って来る。
廉治「よーし、みんな、位牌に戻れよー」
ざわざわしていた生徒たちが静まり返る。
廉治「出席取るぞー。藍沢」
藍沢「はい」
廉治「清田」
清田「はい」
廉治「久保」
久保「はい」
場面転換。
授業をしている廉治。
藍沢「あーあ。だるいなァ」
久保「あ、フクロウだ」
廉治「で、ここで始まったのが、応仁の乱……って、藍沢、久保、うるさいぞ」
藍沢「ねー、先生。今日はもう授業、やめようよ」
廉治「お前は、一体、何を言ってるんだ?」
久保「授業なんて意味ないって」
廉治「そんなことはない。どんな状況に陥っても、学力というのは……」
宮下「でも先生。私たち、もうすぐ卒業だよ」
廉治「だからって授業をサボっていい理由にはならないぞ」
藍沢「でもさー。中学なんていけないだろ?」
廉治「……」
久保「それに、あと何年、こっちにいられるかわからないよな」
藍沢「そうそう。どうせ、勉強したって使うところなんてないんだからさ」
久保「田代はいいよなー。勉強から解放されてさー」
廉治「……それでも! ……それでも俺はお前たちに勉強を教えたいんだ。教師として……」
藍沢「……ごめん」
久保「わかったよ」
廉治「……」
場面転換。
明け方。鳥の鳴く声。
廉治「……」
宮下「ねえ、先生」
廉治「お、宮下か。……もうすぐ朝だぞ。戻らなくていいのか?」
宮下「まだ少しだけ大丈夫」
廉治「そっか……。無理はするなよ」
宮下「うん」
廉治「……」
宮下「ねえ、先生。私ね。先生にはすっごく感謝してるんだ」
廉治「なんだ、急に。褒めてもお経は読まないぞ」
宮下「……ちぇっ。ダメか」
廉治「そんなことだろうと思ったよ」
宮下「でも先生ってバカだよねー」
廉治「今度は悪口かよ」
宮下「幽霊に勉強を教えるなんて、先生くらいだよ」
廉治「……」
宮下「私、先生やクラスのみんなに会えてよかった。もし、会えなかったら、きっと私……悪霊になってたと思う」
廉治「そんなことはないさ。宮下が人を傷つけることなんかするはずないだろ」
宮下「それはみんなと一緒で、恨みが薄くなってるからだよ。先生に会う前、覚えてる? 地縛霊になりかけてたでしょ」
廉治「……」
宮下「あの日、いきなり先生が現れて、学校やるぞって言ってくれて……」
廉治「まあ、その……暇だったからな」
宮下「ねえ、先生。このままずっと……」
廉治「宮下。お前たちは年を取ることは無い。だからこそ、時間の流れの感覚が狂ってしまい、成仏しにくくなっていく」
宮下「……」
廉治「ここを卒業したら、みんなにはもう一度、自分がいた場所に戻ってもらって、悔いを昇華してもらいたい」
宮下「……そして、成仏する」
廉治「そうだ。……早く生まれ変わって、新たな人生を歩んでほしい」
宮下「それなら、勉強なんかしないで、先生がみんなを強制的に成仏させればいいんじゃないの?」
廉治「そうじゃない。そうじゃないんだ、宮下。確かに、みんな、幼くして亡くなってしまった。けれど、お前たちはちゃんと生まれて、短いながらも人生を歩んだ。そのことはけっして無駄ではない。それを証明するために、俺はみんなに、生前できなかったことをやってほしいと思ったんだ」
宮下「……んー。よくわからない」
廉治「ふふ。あまり、気にするな。これは先生のエゴみたいなもんだから」
宮下「ふーん。それより、先生。卒業式を何をするの?」
廉治「え? えーっと……」
宮下「……もしかして、考えてなかったとか?」
廉治「あー、いや、一応、みんなの卒業証書を作ってるんだぞ」
宮下「それだけ?」
廉治「うっ!」
宮下「ねえ、先生。卒業アルバム作らない?」
廉治「……卒業アルバムか。いいな」
宮下「ね? いいでしょ? 全部、心霊写真になっちゃうけど」
廉治「いいんだよ。それでも。みんなと一緒の思い出を作れれば」
宮下「うん。そうだね」
場面転換。
教室。
藍沢「卒業アルバム?」
久保「いいな! やろうやろう!」
クラスのみんなが沸き上がる。
廉治「ってことで、これから、学校行事をやっていこう」
藍沢「学校行事?」
廉治「運動会、学芸会、修学旅行とかかな。まあ、あんまり大規模なことはできないけど」
久保「やったー! やろうやろう!」
場面転換。
運動会。
藍沢「いけー! 堺田! 宙返り宙返り!」
久保「頑張れー!」
廉治が写真を撮る。
場面転換。
舞台で演奏をしている生徒たち。
廉治が写真を撮る。
場面転換。
バスの中。
藍沢「せんせー。修学旅行っていったら、外国じゃない? 今どきさー」
廉治「金がないんだよ」
久保「え? 俺ら、別に金掛からないじゃん」
廉治「……俺の金がないんだよ」
宮下「まあまあ。いいじゃん、恐山!」
藍沢「確かに言ってみたいとおもってたんだよなー」
クラスの生徒たちがワイワイと騒いでいる。
廉治が写真を撮る。
場面転換。
廉治「さて、最後に集合写真を撮ろうか」
宮下「うん!」
藍沢「……」
廉治「どうした、藍沢」
藍沢「いや……その……田代もいたらなぁって思って」
宮下「仕方ないでしょ。田代くん、成仏しちゃったんだから」
藍沢「……わかってるよ」
廉治「いや……。田代を呼ぼう」
宮下「どうやって?」
場面転換。
廉治「よし、じゃあ、いくぞー! はああ! 田代の魂よ、一時でいい! 俺の体に宿れ!」
パーッと光が輝き、廉治の体に田代が降りて来る。
田代「……あれ? ここは?」
藍沢「おおお! 田代!」
久保「元気だったかよ?」
田代「えっと……まあ、元気っちゃ元気っていうか……」
宮下「ほらほら、みんな! 全員で写真とるよ! せーの! はい、チーズ!」
パシャリとシャッター音が響く。
場面転換。
教室で一人、椅子に座って写真を見ている。
廉治「……」
宮下「せーんせ!」
廉治「うわ、宮下!」
宮下「あ、その写真、卒業アルバムの集合写真?」
廉治「ああ……」
宮下「ふふふ。先生もバカだよね」
廉治「……うるさいな」
宮下「田代くんの霊を降ろしたせいで、自分が写真に写ってないんだもん」
廉治「いいんだよ。これはお前らの卒業アルバムなんだから。それにほら、右上に、俺の写真を載せてるだろ」
宮下「ふふ。先生。当日に風邪で休んだ生徒みたくなってる」
廉治「うるさいなー。それよりお前、あそこに戻ったんじゃ?」
宮下「先生言ったじゃない。悔いを昇華してから成仏しろって」
廉治「ああ」
宮下「私、どうやらここに悔いがあったみたい」
廉治「へ?」
宮下「全員いなくなったら、先生、寂しいでしょ」
廉治「ったく。しょうがないな。じゃあ、お前は留年ってことで」
宮下「えー! 小学校で留年って酷くない?」
廉治「さてと。また、生徒を集めにいくか」
宮下「うん!」
終わり。