幸せな時間
- 2023.02.17
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
晴馬(はるま)
奈都(なつ)
恵理那(えりな)
■台本
夜の会社内。
カタカタとパソコンのキーボードを打つ音。
そして、その音が止む。
晴馬「……ふう。終わった」
だが、周りは静か。
晴馬「あれ? もうみんな上がったのか。俺も、変える準備するか」
パソコンの電源を落とし、歩き出す晴馬。
タイムカードの前で立ち止まる。
晴馬「おっと、危ない危ない。タイムカード切るとこだった。休日出勤でタイムカードを切ったなんて言ったら、部長に切れられるとこだったな」
スタスタと歩き出す晴馬。
晴馬(N)「今日は土曜日。本来であれば会社は休みのはずだが、入社以来、土曜日に休めた試しはない。だが、土曜日は終電じゃなく、早く上がれるので、少しだけ嬉しい」
場面転換。
町中を歩く晴馬。
晴馬「おー、まだ8時だから店も結構開いてるな。……よし、久しぶりにあの居酒屋に行ってみるか」
晴馬(N)「世間では花の金曜と言われているが、俺にとっては土曜が花だ。花の土曜を精一杯満喫しよう」
ガラガラと居酒屋のドアを開ける晴馬。
場面転換。
道をふらふらと歩く晴馬。
晴馬「おっと……。ちょっと飲みすぎたかな。けど、いいよな。花の土曜だし。一週間、頑張った俺へのご褒美だ」
立ち止まって、ポケットに手を入れる。
晴馬「えーっと、家の鍵、家の鍵っと……。あ、あった」
ガチャリとドアの鍵を開けて、家に入る。
場面転換。
晴馬の部屋。
どさっと、ベッドの上に座る。
晴馬「ふう……。心地いい酔いだ。……さてと。さっさと着替えるか」
晴馬が立ち上がる。
晴馬「これからが幸せの時間だ」
場面転換。
コンコンとドアをノックする音。
恵理那「お父さん、いるー?」
晴馬「恵理那か。いるぞ」
恵理那「入ってもいい?」
晴馬「おう」
ガチャリとドアが開き、恵理那が部屋に入ってくる。
恵理那「お父さん、帰ってきたなら、言ってよ」
晴馬「あれ? 言ってなかったか?」
恵理那「言ってない。それより、お土産は?」
晴馬「え? お土産?」
恵理那「飲んで帰ってきたんでしょ? なら、私にもお土産あってもいいんじゃない?」
晴馬「あー、忘れてた。ごめんごめん」
恵理那「もー。ツケだからね」
晴馬「わかったわかった。次は今日の分も含めて、奮発してやるよ」
恵理那「やったー。絶対だからね。絶対」
晴馬「それより、なにか用事があったんじゃないのか?」
恵理那「ああ、そうだ。あのさー、お父さん。欲しい物があるんだけどー」
晴馬「はあ……。小遣いか?」
恵理那「うん」
晴馬「んー。ただじゃやれんなぁ」
恵理那「えー。なにすればいいの?」
晴馬「肩揉んでくれ」
恵理那「しょうがないなー」
恵理那が晴馬の後ろに回り、肩を揉み始める。
恵理那「うわ、お父さんの肩、ヤバいくらい固いね」
晴馬「いやー。凄いコリでな。肩が重いんだよ」
恵理那「マッサージ屋でも行けば?」
晴馬「なんか、もったいない気がしてな」
恵理那「じゃあ、私が揉むから、その分、小遣いちょうだいよ」
晴馬「はは。抜け目ないな」
恵理那「あははは。……そうだ。今日、学校でさー」
そのとき、ドアがノックされる。
奈都「あなたー、いる?」
晴馬「おう、いるぞー」
ガチャリとドアが開く。
奈都「あら、恵理那に肩揉んでもらってるの?」
晴馬「ああ。小遣い欲しいらしくてな」
恵理那「お父さん! しー!」
奈都「まったく、この子は……。それより、ケーキ買ってあるんだけど、食べない?」
恵理那「食べる―!」
晴馬「おお、いいな」
奈都「じゃあ、降りてらっしゃい。コーヒーも入れるから」
場面転換。
リビング。
ケーキを食べている3人。
恵理那「おいしー!」
晴馬「すごい、美味しいな」
奈都「でしょー! ここのお店のケーキ、評判良いのよ」
恵理那「けど、なんで急にケーキ?」
奈都「……んー。あなた、わかる?」
晴馬「え? えーと……」
奈都「もう! 今日は私とあなたが出会った日でしょ?」
晴馬「あれ? そうだっけ?」
恵理那「えー。そんなの覚えてる方がヤバいって」
奈都「え? そうかしら?」
恵理那「ほら、そこはせめて、結婚記念日とか誕生日とかじゃない? 出会った日って、マニアックだよ」
奈都「ええー。そう?」
晴馬「ふふ……」
奈都「あら、どうしたの、あなた」
晴馬「いや、なんか幸せだなーって思って」
奈都「あら、幸せなのはあなただけじゃないわよ」
晴馬「……俺と出会ってくれて……結婚してくれて、ありがとな」
奈都「……あなた」
恵理那「やだー! お父さん、くさーい! ドラマみたい」
晴馬「うるさいな」
恵理那「あははははは!」
奈都「ふふふふふふ」
3人の笑い声が響く。
場面転換。
晴馬の部屋。
携帯のアラームが鳴る。
晴馬「ん、んん……。もう5分……って、え!?」
飛び起きる晴馬。
場面転換。
ドタドタと階段を下りてくる晴馬。
ドアを開けてリビングに入ってくる。
晴馬「おい、なんで起こしてくれなかったんだよ!」
奈都「は? 急にそんなこと言われても。いつもあなた、勝手に起きてるじゃない」
晴馬「そうだけど……。いつもより起きてくるのが遅かったら、起こしてくれてもいいだろ?」
奈都「寝坊が怖いなら、新しい目覚まし時計でも買ったら?」
晴馬「いや、そういうことじゃなくて……」
バタンとドアが開いて、恵理那が入ってくる。
恵理那「お母さん、お弁当は?」
奈都「はい、これ」
恵理那「ありがと。じゃあ、行ってくるね」
奈都「行ってらっしゃい」
晴馬「……おい、恵理那」
恵理那「……なに?」
晴馬「お父さんに、おはようくらい言えないのか?」
恵理那「うざっ!」
ドアを開けて、玄関の方へ歩いていく恵理那。
晴馬「おい、お前、どういう躾してるんだよ」
奈都「なによ。全部、私に押し付けて。それより、会社遅刻するんじゃないの?」
晴馬「あっ! そうだった!」
場面転換。
玄関のドアを開ける。
晴馬「じゃあ、行ってくるなー」
返事は帰って来ない。
晴馬「はあ……」
場面転換。
電車の中。
晴馬(N)「今日からまた月曜日。これから土曜日まで、地獄が続く。でも、また土曜日になれば幸せな時間が待っている。俺の頭の中の幸せな時間が……」
終わり。