遅刻癖のある友人

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
裕翔(ゆうと) 38歳
雅樹(まさき) 38歳
店員

■台本

喫茶店内。
電話をしている裕翔。

裕翔「ありがとうございます、先生! データー届きました! それじゃ、次の締め切りは来月の15日になりますので! はい、はい! それじゃ失礼します」

電話を切る裕翔。

店員「あの、お客様、店内で通話は……」
裕翔「あー、ごめんなさい。もう終わりましたので……」

そこに雅樹がやってくる。

雅樹「おーっす、お待たせ」
裕翔「あ、雅樹」
雅樹「あ、俺、アイスコーヒーで」
店員「かしこまりました」

店員が行ってしまう。

雅樹「おい、裕翔。なに、怒られてたんだ?」
裕翔「……ちょっと、仕事の関係で電話してただけだよ」
雅樹「そりゃ怒られるわ。で、お前って、今、編集だっけ?」
裕翔「ああ。タケハマ先生のな」
雅樹「タケハマ?」
裕翔「あ、知ってる? 先生も随分と有名になったな」
雅樹「いや、それ中学の時の同級生」
裕翔「うそー! タケハマ先生って、同い年だったの?」
雅樹「何歳だと思ってたんだよ……」
裕翔「てっきり、50代かと」
雅樹「ぷはははははは! まあ、あいつは中学の頃から老け顔だったからな」
裕翔「そっか……。同い年か……。知りたくなかったな」
雅樹「お前も大変だな。あいつ、閉め切り守れないだろ?」
裕翔「え? いや。一回も落としたことないぞ」
雅樹「マジで!?」
裕翔「そんなに驚くことか?」
雅樹「そっか。……なるほどな。遅刻は待ち合わせのときだけだもんな」
裕翔「え? なになに? 何の話?」
雅樹「いやさ、あいつ、中学の頃、すげー、遅刻魔だったんだよ」
裕翔「ホントに?」
雅樹「お前、打ち合わせとかはどうしてんの?」
裕翔「電話か、俺が先生のところに行くな」
雅樹「なるほどなるほど。そうしてるのか。考えたな」
裕翔「いやいや。だから、何の話だよ」
雅樹「ごめんごめん。あいつ、遅刻魔って言っただろ? それが、ほんっとにヤバくてさ。てか、一回も約束通りの時間に来たことないんじゃないかな」
裕翔「……大げさだろ」
雅樹「マジだって。1時間遅れくらいだと、逆に早いくらいだぞ。最長は5時間だっけな」
裕翔「それは、もう来る気なかったレベルだろ」
雅樹「それが本人は真剣に悩んでてさ。周りもなんとか、しようって頑張ったんだよ」
裕翔「例えば?」
雅樹「時計を30分早めるとか」
裕翔「ベタだな」
雅樹「電話入れるとか」
裕翔「あ、それは有効そうだな」
雅樹「迎えに行ったり」
裕翔「そこまでするの、スゲーな。じゃあ、それで遅刻癖が治ったとか?」
雅樹「いや、ぜーんぜん」
裕翔「……」
雅樹「これは後からわかったんだけど、あいつ、重度の睡眠障害だったみたくてさ、どうやっても朝っていうか決められた時間に起きれないらしいんだよ」
裕翔「ああ……。それは大変だ。けど、学校はどうしてたんだ?」
雅樹「朝の5時に来て、保健室で寝てたな。で、俺らが登校したら、全力で起こしてた」
裕翔「……そこまで来るとすげーな」
雅樹「あの頃は大変だったけど、今、考えたらいい思い出だよ」
裕翔「高校まではそれでいいと思うけど、大学はどうしたんだ? 大学は違ってただろ?」
雅樹「大学はいかなかったらしい」
裕翔「え?」
雅樹「あいつになりに色々考えたんだろうな。自分でも普通の会社員になれないって思ったんだろうな。だから、自分なりの生き方を模索したんだと思う」
裕翔「それで漫画家か」
雅樹「漫画家なら決まった時間に起きたりする必要はないからな」
裕翔「確かに。ただ、打ち合わせの時間がバラバラで俺は大変だけどな。……にしても、そういう理由だったのか」
雅樹「まあまあ。その辺は大目に見てやってくれよ。あいつはあいつなりに努力した結果だからさ」
裕翔「まあ、それはわかるけど。……でも、大変だよな。そんなんじゃ、友達同士で集まったりできないだろ?」
雅樹「いや、そんなことはないぞ。てか、逆に中学の時のメンバーなんて、今でも頻繁に会ってるからな」
裕翔「え? タケハマ先生も?」
雅樹「ああ」
裕翔「じゃあ、毎回、遅刻してるのか」
雅樹「いや。ある時期から、一回も遅刻はしなくなった」
裕翔「……なんでだよ。どんなに頑張っても治らなかったんだろ?」
雅樹「それがさ、発想の転換だったんだよ」
裕翔「……もったいぶらずに言えよ」
雅樹「ははは。すまん。えっとな。約束通りの時間に来れないなら、約束しなきゃいいんだ」
裕翔「……は?」
雅樹「約束しなければ、遅刻なんてしないだろ?」
裕翔「いやいやいや。それだと意味ね―じゃん。てか、頻繁に会ってるんじゃないのかよ?」
雅樹「頻繁に会ってるぞ」
裕翔「……」
雅樹「そんなに睨むなって。ちゃんと説明するから」
裕翔「……」
雅樹「えっとな。あいつが遊ぼうって思ったら、あいつがみんなに連絡するんだ」
裕翔「は?」
雅樹「で、連絡来た時に、遊べる奴が集まるんだよ。あいつは最初から現場にいるから、遅刻しようがないだろ?」
裕翔「ああ……。なるほど」
雅樹「面白いよな。これ、あいつが考えたんだぜ。そりゃ、日時を決めないから、みんなが一度に集まることは少ないけど、なんだかんだ言って、あいつと会ってるやつは結構、多いんじゃないかな」
裕翔「……締め切りに追われながらも、凄いな、先生は」
雅樹「ま、時間を作りやすいっていう点でも漫画家を選んだんだろ」

そのとき、着信が鳴る。

雅樹「お? 噂をすれば……」

通話ボタンを押す。

雅樹「おう、雅樹だけど。……ん。わかった。大丈夫。15分で行く。……じゃあな」

通話を切る。
店員がやって来る。

店員「アイスコーヒーです。……あと、店内で通話は……」
雅樹「あー、すいません。もうしません」
店員「……ごゆっくり」

スタスタと店員が行ってしまう。

裕翔「……相手って、まさか?」
雅樹「そのまさか。ってことで、俺行くわ。コーヒーはお前にやる」
裕翔「おい! 俺との約束は?」
雅樹「お前とは約束とりやすいからな。また今度」
裕翔「……そのときは奢れよ」
雅樹「わかってるって」
裕翔「先生によろしく」
雅樹「おう」
裕翔「あ、いや、やっぱ、言わなくていい」
雅樹「なんじゃそりゃ。まあいいや。じゃあな」
裕翔「ああ」

雅樹が行ってしまう。
裕翔がストローでアイスコーヒーを啜る。

裕翔「あー、アイスコーヒー美味いな。……って、しまった! あいつからアイスコーヒー代貰うの忘れてた」

終わり。

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