【ボイスドラマ】桜が舞う頃に

【ボイスドラマ】桜が舞う頃に

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來未(N)「あの人のことが、ずっと好きだった。初めて会ったのは、小学校の入学式。内気だった私は、引っ越しで知り合いがいない状況に絶望していた。そんなとき、彼は私に屈託のない笑顔を向け、話しかけてきてくれた。それが本当に嬉しくて、楽しくて……私はすぐに恋に落ちた……。それはまさに初恋だったのだ」

  ざわざわと騒がしい教室。

蓮「あれ? 白鳥か?」

來未「あ、結城くん」

蓮「へー。高校も一緒かぁ。いやー、実は結構遠い学校選んじゃったからさ、知り合いがいなくて正直、居心地が悪かったんだよ」

來未「う、うん。私もなんだ」

蓮「でも、良かったよ、白鳥も一緒で」

來未「わ、私もよかった。結城くんと同じクラスになれて」

來未(N)「やったぁ! さっそく、声を掛けてもらっちゃった! 苦労してこの学校を選んでよかったぁ」

蓮「これからまた三年間、よろしくな」

來未「よっ、よろしくね!」

來未(N)「もちろん、これは偶然なんかじゃない。結城くんがどこの高校に行くのかをリサーチして、この高校を志望しているという情報を入手してからは必至に勉強して、ギリギリながら合格することができたのだった。正直、かなり危ない賭けだったけど、今、それが報われた。一年生から同じクラスになれたのも、幸先のいいスタートだ。よーし! 高校こそは絶対に、もっと結城くんとお近づきになるんだ!」

  チャイムの音。

先生「よし、今日はこれで終わりだ。明日からは授業が始まるから、しっかり予習してこいよ」

生徒たち「ええー」

先生「あのなあ、お前たち。戦いはもう始まっているんだ。そんなことじゃ、いい大学に入れないぞ」

來未(N)「そう。戦いはもう始まっている。今日は入学式と軽いオリエンテーションだけで終わりだったから、校門が閉まるまではまだまだ時間がある。そんなとき、結城くんが向かう先は……」

  廊下を歩く蓮。

  ピタリと立ち止まり、ドアを開ける。

來未(N)「うん。やっぱり、図書室。本好きの結城くんは毎日、凄い量の本を読んでいる。何かの本で、異性と近づくチャンスが生まれるのは同じ趣味を持つのがいいと書いてあった。だから、私も読書をしようと決意したんだけど、三日間で二ページしか読めなくて、挫折してしまった」

  蓮が図書室を歩く。

蓮「へー、結構、色々な本があるな……」

來未(N)「そして、何かのアニメで、好きな女の子に気づいて貰うために、その女の子が借りる前に自分が借りることで、貸出カードに同じ名前が書いてあることに女の子が気づいて、気になるというのを見たことがあった。さっそく、その作戦を実行してみたけど、結局中学のときの三年間、結城くんに気づかれることはなかった……。代わりに図書委員の子に不審な目で見られるようになってしまった。まあ、全く読まない本を大量に借りてればそうなるのも仕方ないけど」

蓮「ふっふっふ。三年で、ここを制覇してやるぜ」

來未(N)「でも、ここで諦めたら、この三年間も中学のときと同じになってしまう。結城くんが借りた本の隣から、さっそく借りていくことにしよう」

蓮「これと、これと……おお、これって、ずっと読みたかった本だ!」

來未(N)「さっそく、結城くんは数冊の本を持って、図書室のソファーへと向かう。うん。やっぱり、ギリギリまで学校で読んで、帰るときに大量に借りて帰る予定なんだ。ふふ、予想通り」

  蓮がペラペラとページをめくる。

來未(N)「まさに、至福のとき。結城くんは本に夢中になってるから、私に凝視されていることに気づかない。まさにこの時間はエンペラータイム。絶対的に、完全に私に有利な時間だ。もちろん、周りは私を不審の目で見るけど、そんなことは些細なことだ」

  チャイムの音。

蓮「げっ! もうこんな時間か!」

來未(N)「チャイムの音と共に至福の時間は終わりを遂げてしまった。でも、六時間も結城くんの姿を堪能できたのだから、よしとしておこう」

蓮「よし、じゃあ、これとこれと……」

來未(N)「予想通り、結城くんは本を借りて帰るようだ。私も、結城くんが借りていった本の隣から本を借りていくことにする」

図書委員「じゃあ、そこの機械にバーコードを読み取らせて。返却期限の紙が出るから、忘れないようにしてね」

來未「えええ! 図書カードじゃないんですか?」

図書委員「うふふ、すごいでしょ。これなら、いちいち貸し出しカードに記入とかしなくていいのよ」

來未「……そんな、それじゃ意味ないのに」

図書委員「……ん? なんで、がっかりしてるのかな?」

來未「はっ! そうだ、急いで結城くん、追いかけなくっちゃ。あ、この本、借りるのキャンセルで!」

  駆け出す來未。

蓮「あちゃー、暗くなっちまったな」

來未(N)「さあ、私、ここは気合いを入れるのよ。ああ、結城くんも今、帰りなんだ? どうせなら一緒に帰らない? ……よし、簡単よ。その一言を言えれば、さらに幸せな時間が続くのよ。さ、行くのよ、私!」

  蓮が歩いて行ってしまう。

來未(N)「なーんて、そんなことできたら、既に結城くんと仲良くなってるっつーの! こんなとこでストーカーまがいのことはしてませんっての! ふざけんなっ!」

  來未がトボトボと歩く。

來未(N)「……おかしい。よく考えてみると今日の私の行動、中学のときの入学式と、ほぼ同じだ。なにこれ、デジャヴ? 嘘でしょ? ということは中学の三年間で、私と結城くんの関係は変わってないってこと? このままじゃ高校も……。いや、いやよ! そんなの絶対にいや!」

女生徒1「ねえ、知ってる? この学校の桜の木の妖精のこと」

女生徒2「あー、知ってる。なんでも、願いを叶えてくれるって噂だよね」

女生徒1「ホントなのかな?」

女生徒2「なんでも願いを叶えてくれるって、どっかの七つのボールかな? 嘘臭いよね」

來未(N)「待っていました、その情報。待ってましたよ、内気な私の味方になってくれる存在を。さっそく、突撃するのよ、私! 今すぐ!」

  來未が走ってくる。

來未「はあ……はあ……はあ……。ここかな? 桜の木の妖精がいるのって。……よし、さっそく。いでよ、妖精! そして願いを叶えたまえ!」

來未(N)「あれ? なんも起きない……って、当然ちゃ、当然かぁ……」

舞「いえーい! 呼ばれて、飛び出てじゃじゃじゃじゃーんってね。どうも、舞ちゃんだよ」

來未「あれ? なんか、イメージと違う。妖精っていうより、人間っぽいし」

舞「うん、まあ、私、妖精じゃなくて幽霊だからね」

來未「幽霊が願いを叶える力を持ってるの?」

舞「気にするとこ、そこなんだ? 幽霊が出たことには驚かないんだね……」

來未「ねえ、叶えられる願いって一つだけ? 願いを増やしてくれって願いはOKなの?」

舞「んー。まあ、状況次第かなぁ。とにかく、願いを言ってみて」

來未「結城くんと結婚……は、早いか。お付き合いさせてください」

舞「うん! わかった! その願い叶えてあげる」

來未「ホント! やったぁ!」

舞「じゃあ、さっそく、明日から特訓と作戦を練っていこう」

來未「え? 願いを叶えてくれるんじゃないの?」

舞「叶えるよ。っていうか、あなたを叶えられるように応援する」

來未「ええー、なんか思ってたのと違う」

舞「願いはね、自分で叶えることが大事なんだよ」

來未「あー、そういうのはいいかな」

舞「とにかく、これから三年間、よろしくね!」

來未「えっと、遠慮します」

舞「まあまあ、そんなこと言わないで、ね?」

來未(N)「こうして、私は高校生活のスタートから幽霊に憑りつかれることになった。そして、結城くんとの恋の結果は、神のみぞ……いや、幽霊のみぞ知ることになったのだった」

終わり

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