決定的瞬間

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
坂上 駿馬(さかがみ しゅんま)
晴香(はるか) 23歳
父親
記者1~2
アナウンサー

■台本

駿馬(6)が走って、踏切でジャンプして、跳馬を飛んで着地する。

父親が手を叩く。

父親「いいぞ、駿馬! もう一回だ」

駿馬「はい!」

もう一度、跳馬を決める駿馬。

場面転換。

体操の大会。

駿馬は17歳になっている。

駿馬が走り、踏切でジャンプする。

多くのカメラのシャッター音が響く。

アナウンサー「おおっと、坂上選手、高い高い!」

駿馬が空中でひねりを加えて、着地する。

アナウンサー「着地も決まったー! ……点数は? 16、3! この時点で坂上選手の総合優勝が決まったー!」

会場がワッと沸く。

同時にカメラのシャッター音があちらこちらから鳴り響く。

アナウンサー「恐ろしい、まさに怪物! まさかの高校2年生! その名は坂上俊馬! これで3連覇達成です!」

場面転換。

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

カメラのシャッター音が響く。

父親「よーし、いいぞ、駿馬! もう一本だ」

駿馬「はい……」

駿馬(N)「俺の親父は元体操選手で、オリンピックで銀メダルを取った。だが親父はずっと金を取れなったことを悔やんでいる。その親父の夢を託されたのが、俺だった。毎日が練習という地獄。同年代が遊んでいる中、俺は全てを捨てて体操に打ち込んだ。……いや、打ち込まされた。すべては親父の夢を果たすためだ」

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

その都度、シャッター音が鳴る。

父親「よし、今日はもう上がれ。大会の疲れが残ってるだろ?」

駿馬「はい……」

スタスタと歩き出す駿馬。

そこに記者が駆け寄る。

記者1「いやー、凄いね、駿馬くん。大会が終わってからも、すぐ練習なんて」

駿馬「……いつものことですから」

記者2「それにしても、ミスがないね。練習なのに完璧だね」

駿馬「そのために、ずっと練習して来ましたから」

記者1「いやあ、いつも綺麗な写真撮らせてもらってるよ。駿馬くんの場合、ミスがないから撮る方も楽だよ」

駿馬「……そうですか」

記者2「ねえ、大会3連覇だけど、最終目標はやっぱり金メダル?」

駿馬「……」

記者2「駿馬くん?」

駿馬「すみません。着替えるんで」

ドアを開ける音。

駿馬が部屋の中に入って、ドアを閉める。

駿馬「……目標、か」

駿馬(N)「俺にとって、体操は日常そのものだった。失敗すれば親父に叱られる。ミスしなければ褒められる。ただ、それだけだ。……一体、俺はなんのために体操をやっているんだろう」

場面転換。

静かな体育館。

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

そのとき、パシャっとシャッター音が響く。

駿馬「……」

晴香「いやー、すごいね、相変わらず。さすが高校の……いや、日本のホープ」

駿馬「……取材入ってるなんて、聞いてないんですけど」

晴香「そりゃそうだよ。申請してないもん」

駿馬「……」

晴香「まあまあ、そんな顔しないの。偶然、ここに来たら君がいたってことで」

駿馬「この体育館、貸し切りなんですけど」

晴香「あー、いや……その……。ごめん。裏情報で君がここにいるって聞いたんだよね」

駿馬「……」

晴香「そんな顔しないでよ。ちょっと、写真撮らせて欲しいだけだからさ」

駿馬「まあ、いいですけど」

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

シャッター音がする。

晴香「うーん……」

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

シャッター音がする。

晴香「うーん……」

駿馬が歩み寄る。

駿馬「あの……」

晴香「なに?」

駿馬「いい絵、撮れませんか?」

晴香「あー、うん。ちょっとね」

駿馬「……自分でいうのもなんですけど、完璧だと思うんですけど」

晴香「えっと……私が欲しいのは決定的瞬間だからさ」

駿馬「……?」

晴香「ま、私に気にせず、練習して」

駿馬「……」

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

シャッター音が響く。

場面転換。

静かな体育館。

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

シャッター音が響く。

晴香「やっほー」

駿馬「……またあなたですか」

晴香「この前は撮れなかったから、また撮らせてもらうよ」

駿馬「……勝手にどうぞ」

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

シャッター音が響く。

場面転換。

駿馬「ふう……」

晴香「はい、水とタオル」

駿馬「ありがとうございます」

二人が並んで座る。

晴香「それにしても、駿馬くんは凄いなぁ。練習でも全然ミスしないね」

駿馬「……小さい頃からそのために練習してきましたから」

晴香「うーん。そっかぁ。じゃあ、望みの写真を撮るは難しいかな」

駿馬「……あの、どんな写真を撮りたいんですか?」

晴香「あー、えっと、前にも言ったと思うんだけど、決定的瞬間を撮りたいんだ」

駿馬「決定的瞬間?」

晴香「えっと、その……失敗したところ」

駿馬「……は?」

晴香「いや、ほら。普通はさ、完璧なところを撮るでしょ? でも、そんなのはみんなが撮ってるわけだし。だから私は普通の人が撮らない、失敗した決定的瞬間をカメラに収めてるの」

駿馬「……じゃあ、ずっと、俺のミスを待ってたんですか?」

晴香「あー、まあ……そうなるかな」

駿馬「……随分と失礼なことしてますね」

晴香「うっ! いいじゃん。失敗なんて誰でもあるでしょ? そこを思い出としてパシャっとね」

駿馬「……思い出」

晴香「そ。失敗だって、いい思い出じゃん?」

駿馬「……ぷっ! あはははは」

晴香「な、なんで笑うの!?」

駿馬「まさか、そんな人がいるなんて思いませんでした」

晴香「え?」

駿馬「悪いですが、あなたはこの先、ずっと望んだ写真は撮れませんよ」

晴香「お! 言うねぇ。こうなったら、意地でも張り付いて、絶対に失敗の写真を撮ってやるんだから」

駿馬(N)「この日、俺は自分の目標を見つけた。彼女の前でミスをしない。これが俺の目標だ」

場面転換。

駿馬が走って、ジャンプし、跳馬を飛んで着地する。

たくさんのシャッター音が響く。

アナウンサー「決まったー! 坂上駿馬、金メダルです!」

駿馬が歩いてくる。

晴香「うーん。最高の舞台で、最高の絵が撮れるかもって期待したんだけどなぁ」

駿馬「悪いね、晴香さん。この先も、撮らせないよ」

晴香「いいわよ。ずーっとずーっと! これからも駿馬くんに張り付いてやるんだから」

駿馬「あはははは」

駿馬(N)「俺は晴香さんに会って、体操を好きになれたんだ」

終わり。

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