無邪気な笑顔
- 2023.09.05
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
遼(りょう) 32歳
千沙(ちさ) 6歳
真奈美(まなみ) 32歳
女性
■台本
遼と真奈美、千沙の3人が歩いている。
千沙「あー! ひまわりだ! あははは! おっきいねー!」
真奈美「そうだね。おっきなひまわりだね」
千沙「ねー!」
遼(N)「娘の千沙はいつも、無邪気な笑顔を浮かべている。大人の俺からすると、何がそんなに楽しいのかわからないものでも、ニコニコと笑う。俺はそんな千沙の笑顔を見るのが、何よりの幸せなのだ」
場面転換。
遼の家。
部屋のベッドで千沙が眠っている。
千沙「(寝息)」
真奈美「ふふ。寝顔も可愛いわね」
真奈美が千沙を撫でて、立ち上がり、電気を消して部屋を出て行く。
場面転換。
リビング。
真奈美「千沙、眠ったみたい」
遼「ん。ご苦労様」
真奈美「何見てるの?」
遼「観光案内のサイト。ほら、来年は千沙も小学校だろ? その前に家族でどっかに旅行したいなって思って」
真奈美「あら、いいわね。どこがいいかしら?」
遼「俺はここが良いと思ってさ」
真奈美「どれど……っ」
遼「どうした?」
真奈美「ううん。なんでもない。ちょっと眩暈がしただけ」
遼「大丈夫か? 疲れてるなら、早く寝たほうがいいぞ」
真奈美「……うん。そうす……」
ドサリと倒れる真奈美。
遼「……真奈美? おい、真奈美!」
救急車のサイレンの音を入れ、フェードアウト。
遼(N)「悪性の脳腫瘍だった。手術をするのも難しく、ただただ、延命の処置しかできないと医者に言われた。その日から、俺の世界は灰色に変化していく」
場面転換。
病室に駆け込んでくる千沙。
その後に遼が歩いてくる。
千沙「おかあさーん!」
真奈美「あら、千沙。今日も元気ね」
千沙「えへへへ」
遼「……真奈美、調子はどうだ?」
真奈美「うん。平気。今日は頭痛も落ち着いてる」
遼「そっか……」
千沙「ねえねえ、お母さん! 今日、千沙ね!」
遼「千沙……。お母さん、疲れてるから、あんまり……」
真奈美「あなた。いいのよ。千沙、聞かせて」
千沙「うん! あのね、今日、花壇でお花のお世話してたら、でーっかい、イモムシがいたのー! 千沙、びっくりしゃった。あはははは」
真奈美「あら、そうなんだ?」
遼(N)「千沙は相変わらず、無邪気な笑顔を浮かべている。母親がこんな状態なのに、どうして、そんな笑顔を浮かべることができるんだろうか……」
場面転換。
お経の声が挿入され、フェードアウト。
女性「元気出してくださいね」
遼「……ありがとうございます」
千沙「ねえねえ、お父さん、あっちにね!」
遼「千沙……。後でな」
千沙「う、うん。わかった」
千沙が走り去っていく。
女性「千沙ちゃんもまだ小さいのに……真奈美さんも無念でしょうね」
遼「……」
場面転換。
遼と千沙が並んで歩いている。
千沙「あはははは! ねえ、お父さん! トンボが飛んでるよ」
遼「ああ……」
遼(N)「あんなに眩しかった千沙の笑顔。今ではひどく、色あせて見える。どうしてだろう。千沙は昔も今も無邪気に笑っているのに」
千沙「お父さん! お父さん! あれ!」
遼「ああ……」
千沙「お母さんにも見せてあげたいなぁ」
遼(N)「ああ、そうか。千沙の笑顔だけが、俺の幸せじゃなかったんだ。……真奈美。お前の笑顔が一緒だから、始めて俺は幸せを感じることができたんだな」
遼「なあ、千沙」
千沙「なに?」
遼「お母さんに会えなくて、寂しくないのか?」
千沙「んー。寂しいよ。すっごく寂しい……」
遼「それならどうして……どうして、笑顔でいられるんだ?」
千沙「千沙が笑うとね、お父さんとお母さんが笑ってくれるから」
遼「……え?」
千沙「お母さんがね、千沙が笑ってるとお父さんも笑うんだって。でね、そのお父さんの笑顔を見ると、お母さんも笑顔になれるって言ってた」
遼「……」
千沙「だから、天国でお母さんが笑えるように、千沙は笑顔でいるの!」
遼「そっか……」
遼(N)「真奈美も同じだったのだ。家族が笑顔でいるから、幸せだったんだ」
遼「なら、俺も笑わないとな。お母さん、天国で笑えないもんな」
千沙「そうだよ。……あ! あのトンボ、お父さんとお母さんみたい! 仲良く2人で飛んでるよ。あはははははは」
遼「そうだな……。ははははは」
遼(N)「今はまだ、心の底からは笑えないかもしれない。でも、俺もいつか、千沙のように無邪気に笑えるようになろう。そうすれば、真奈美も天国で笑ってくれるよな?」
終わり。