商売の心得

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
エイデン
マシュー
ディラン
トーマ

■台本

エイデン「なあ、マシュー。商売人に一番重要なものはなんだと思う?」

マシュー「んー。誠実さ?」

エイデン「あはははは。そうだなぁ。まあ、それも重要なこともある。だが、逆に誠実さが仇にときがあるんだぞ」

マシュー「そうなの?」

エイデン「世の中、みんな、マシューのように良い人間ばかりならいいんだがなぁ。残念ながら、ズルい人間も多いんだ」

マシュー「ズルい人間?」

エイデン「実はズルい人間の方が、お金儲けが上手かったりすんだ。本当は価値がないものを、凄い物だって言って、高いお金で売るって方法だな」

マシュー「そんなのズルいよ!」

エイデン「だろ? でも、商売人には、そういう人間が多かったりするんだ。だから、マシューはちゃんと気を付けないといけないぞ」

マシュー「うん。わかった」

エイデン「それで、話は戻るが、商売人に一番大切なものは……」

マシュー「大切なものは?」

エイデン「人を見る目だ」

マシュー「ん? 目が良いってこと?」

エイデン「あー、違う違う。目の良さは関係ない。じっくり、相手の表情や目を見るんだ」

マシュー「目?」

エイデン「ああ。人間は目と表情に出やすいんだ。相手を騙そうとしているやつなんか、俺にしてみれば、一発でわかる」

マシュー「うわー、お父さん、すごい」

エイデン「ははは。まあ、マシューもちゃんと俺の仕事を見てれば、見につくさ」

マシュー「うん!」

その時、ドアが開く音がする。

ディラン「やあ、この町で一番の目利きができるエイデンっていうのはあなたかい?」

エイデン「いらっしゃい。行商人だね? いいよ。どんな物でも、値段をつけるっていうのがうちのモットーさ」

ディラン「それは頼もしい。実は旅の途中で珍しい物をたくさん見つけたんだ。見てくれるかい?」

エイデン(N)「……こいつ、笑顔が胡散臭いな。騙そうとしているのがバレバレだ」

エイデン「あいよ、見せてくれ」

ディラン「じゃあ、さっそく……」

ドン、ドン、ドンとアイテムをテーブルの上に置くディラン。

ディラン「まずはこれ。魔女の涙と呼ばれる、輝石だよ」

エイデン「……」

エイデン(N)「……さすがに最初は様子見だろうな。魔女の涙なんてものは聞いたことがないが、おそらく、そこそこの物だろう。こいつの目もさっきとは変わって、若干、真面目な目になったし」

エイデン「ほう。まあ、なかなかのものだな。これなら……450Gってところか」

ディラン「ええ? 450? 700は欲しいところだけど」

エイデン「なら、うちじゃ買い取れないな」

ディラン「へー……」

エイデン(N)「やっぱり。様子見で、俺の目利きを判断したな」

ディラン「じゃあ、450でいいよ。次にこれ。ゴールドドラゴンの牙だよ。しかも、右上の犬歯だ」

エイデン「右上? 嘘だろう? 右上は一番最初に抜け落ちる箇所だ」

ディラン「だから、これは本当にお宝だと思うよ」

エイデン「……」

エイデン(N)「胡散臭い目が復活した。これは俺を騙そうとしている。ふん。バレバレだ」

エイデン「ははは。じゃあ、これは1Gだ」

ディラン「……は?」

エイデン「これはゴールドドラゴンのものじゃない。そうだろ?」

ディラン「……」

エイデン「とにかく、うちじゃ高値じゃ買い取らない。持って帰った方がいいな」

ディラン「……まさか、ここまでの目利きができるとはね。わかったよ。じゃあ、こっからは1商人として、本気で取引していこう」

エイデン(N)「目と表情が本気の物になった。こっからは、もう騙しはしてこないだろうな。これで安心して商売ができそうだ」

エイデン「ああ。それが賢明だ」

ディラン「次は……」

場面転換。

エイデン「毎度」

ディラン「ありがとう。いい売買だった」

ドアを開ける音。

ディランが店を出て歩き始める。

そこにトーマが走り寄って来る。

トーマ「お父さん、どうだった?」

ディラン「売れたよ。1つを除いてぜーんぶね」

トーマ「うわあ、凄い! その辺に落ちてたものを売るなんて、やっぱり、お父さんは凄いや」

ディラン「あははは。ま、本物のゴールドドラゴンの牙は、もっと大きな町で売ることにしようか」

トーマ「ねえ、お父さん。どうやったら、お父さんみたいに、ガラクタを高く売れるようになるの?」

ディラン「いいか、トーマ。商売人に一番重要なものは人を見る目だ」

トーマ「人を見る目?」

ディラン「そう。相手は騙せそうか、騙せそうにないか、見極めることが一番重要なんだ」

トーマ「じゃあ、今回は騙せる人だったの?」

ディラン「トーマ。一番騙せる人間っていうのはどんな人だと思う?」

トーマ「んー。頭が悪い人?」

ディラン「あはははは。まあ、それもあるけど、実は頭が悪い人は結構、慎重だったりすることが多い。良い物も悪い物もなかなか買ってくれなかったりするんだよ」

トーマ「じゃあ、どんな人なの?」

ディラン「自信がある人だね。自分は騙されないと思っている人ほど、騙しやすいんだ」

トーマ「ええ!? そうなの?」

ディラン「ああ。そういう人は、まず、こっちの目や表情をじっくり見てくる。物じゃなくて、人を見るんだ。逆に言うと、それは物の目利きに自信がないってことなんだよ」

トーマ「へー」

ディラン「で、そういう相手には、わざと胡散臭い表情をする。すると、あっちは警戒するだろ?」

トーマ「うん。そうだね」

ディラン「で、嘘をついて、わざと見破らせるんだ。そうすれば、相手はさらに自信を持つ。そうすれば、もう自分が騙されるなんてことは思わなくなる。そうすれば、もう、騙し放題だよ」

トーマ「うわー、そうなんだ?」

ディラン「トーマは騙される側にならないように、目利きの経験をしっかりするんだよ」

トーマ「うん、わかった!」

ディランとトーマが並んで歩いていく。

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉  〈次の10枚シナリオへ〉