格好悪くて格好良い叔父さん
- 2023.10.29
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
湊 修二(みなと しゅうじ)
湊 秀一(みなと しゅういち)
男
アナウンサー
高校生1~2
生馬(いくま)
■台本
ボクシングの試合場。
ワーッという歓声が響く。
アナウンサー「湊選手、おめでとうございます。これで、二階級制覇となりましたが、そのことについて一言お願いします」
秀一「まずは、応援してくれたファンのみなさん、本当にありがとうございました。次はライト級制覇を目指して頑張ります」
会場がワーッとさらに歓声に包まれる。
アナウンサー「なんと、湊選手、三階級制覇の宣言が出ました」
場面転換。
前のシーンがテレビ放送だったという展開。
修二「……」
ピッとテレビを消す修二。
男「いやあ、お兄さん、凄かったですね」
修二「これでまた、助長しないといいですけど」
男「では、取材を続けさせてください」
修二「どうぞ」
男「この度、湊社長がフォーライクを買収したことで、日本のシューズ業界でナンバーワンになったわけですが、それに対して一言聞かせていただけますか?」
修二「兄は世界を股にかけてますからね。私なんて、まだまだですよ」
男「いやいや。湊社長は日本の長者番付でもトップクラスです。ハッキリ言って凄いと思いますよ」
修二「ありがとうございます」
男「次の質問ですが、湊社長が成功した秘訣があったら教えてください」
修二「そうですね……。理論的に言うとたくさんあるんですが、根本的なことで言うと、叔父の影響ですね」
男「叔父さん……ですか?」
修二「ええ。私にとって、叔父は最高に格好いいヒーローでした。その姿を追って、ここまでこれたと言っても過言ではありません」
男「……実は、お兄様の湊選手にも同じ質問をしたことがあります」
場面転換。
回想。
男「湊選手がここまで強くなれた秘訣があれば、教えていただけませんか?」
秀一「そうだね。まあ、練習方法とか、日々の暮らし方とか色々あるけど、根本はやっぱ、あいつの影響かな」
男「あいつ? ですか?」
秀一「俺の15だったかな? とにかく年上の叔父がいるんだよ」
男「叔父さんですか」
秀一「そいつがさー。すげー格好悪かったんだよね。絶対にあんな風にはならねー。そういう思いが根底にあるんだと思う」
場面転換。
回想終わり。
修二「はははは。なるほど。まあ、兄にとってはそうかもしれませんね」
男「叔父というのは……」
修二「ええ。私が言っている叔父と兄が言っている叔父は同一人物です」
男「湊社長は格好いいといい、湊選手は格好悪いという……。その人は一体、どういう人だったんですか?」
修二「そうですね……。叔父には幼稚園の頃から、何かと面倒を見てもらってたんですが、あれは私が小学4年生、兄が6年生の頃のことでした……」
場面転換。
回想。
公園。
ドンと秀一が突き飛ばされる音。
秀一「いって! なにすんだよ!」
高校生1「俺たちが使うから、お前らはどっか行け」
秀一「俺たちの方が先に公園使ってたんだぞ」
高校生1「知らねーよ。さっさと帰れ」
修二「……お、お兄ちゃん。帰ろうよ」
秀一「やだね! 俺たちの方が先に使ってたんだから、譲らない」
高校生2「はー。最近のガキは生意気だな」
バンと秀一の頬を叩く高校生2。
秀一「う、うう……」
高校生1「な? さっさと帰らないと、2発目いくぞ」
秀一「うう……。やだー! 帰らない―(泣きながら)」
高校生2「あー、わかったわかった。今度は本気で殴ってやるよ」
修二「うわーん! やめてよー!」
そこに生馬(いくま)がやってくる。
生馬「待ったぁ!」
高校生1「あん?」
秀一・修二「叔父ちゃん!」
高校生2「叔父ちゃんだぁ? なんだよ。助けに来たつもりか?」
生馬「ごめんなさい!」
高校生1「……は?」
生馬「こいつらのしたことは僕が謝ります!」
高校生2「ぎゃははははは! 情けねー!」
高校生1「大人がさー、高校生相手に謝るとか、格好悪いと思わないの?」
生馬「あはは……。この場は僕に免じて許してください」
高校生2「いいよ。別に。じゃあ、さっさと、ガキども連れて、どっか行ってくれよ」
生馬「そのことなんだけど……」
立ち上がる生馬。
そして、財布からお金を出して、高校生たちに渡す。
生馬「あのさ、これあげるから、今日はこの子たちに公園使わせてあげてくれない?」
高校生1「おおー! 一マンじゃん!」
高校生2「おい! これで、飯食いに行こうぜ」
高校生1「おう!」
高校生1と2が行ってしまう。
生馬「はっはっはっは! 公園ゲーット! どうだ? 叔父ちゃんすげーだろ」
秀一・修二「……」
回想終わり。
場面転換。
修二「……ということがありましてね」
男「な、なるほど……。高校生相手に一万ですか」
修二「兄はそのことをずっと格好悪いと言ってました。自分たちが正しいのに、謝った上にお金まで渡してるんですからね」
男「……湊選手の気持ちはわかります。ですが、湊社長はそれを見て、どう思ったんですか?」
修二「決まってるじゃないですか。格好いいですよ」
男「格好いい、ですか?」
修二「兄は自分たちの方が公園を使える権利があると思っていました。……ですが、公園なんて公共施設です。誰が使ってもいい場所ですからね。先にいたってだけで、権利を主張できるわけがない」
男「は、はあ……」
修二「ですが、叔父は権利を得たわけです。この場合は買い取ったというべきですかね」
男「ですが、その……」
修二「もちろん、あの公園は、私たちだって使う権利はあった。だけど、叔父は穏便に、私たちに公園を使えるようにしてくれたわけです。お金という力を使ってね」
男「……あっ! そういうことですか」
修二「ええ。私はあのときに、お金というものの強さを知った。お金があれば、大抵のことは私の意思を通せる。その考えがあるからこそ、私は、今、この立場にいることができるんです」
男「湊選手はボクシング技術という力を得て、湊社長はお金という力を得たというわけですね」
修二「はい。この2人を作り出したのが、その叔父というわけです」
男「格好良くて、格好悪い叔父……。ふふ。すごい叔父さんですね」
修二「はは。私もそう思います」
終わり。