通り雨
- 2023.11.14
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
新(あらた)
淳平(じゅんぺい)
和沙(かずさ)
■台本
新(N)「それは本当に何気ない、普通の一日になるはずだった」
雨の音。
その中をパシャパシャと青とを立てて走る新。
新「あー、くそ。今日はずっと晴れだって言ってたじゃん!」
走って軒下へと駆け込む新。
そこに、淳平が駆け込んでくる。
淳平「あー、くそ。今日はずっと晴れだって言ってたじゃねーか!」
新「ぷっ(噴き出して笑う。自分と同じことを言ったので)」
淳平「ん? なんだよ? なにがおかしいんだ?」
新「いや、別に……」
そこに和沙が走り込んでくる。
和沙「あー、もう! 今日はずっと晴れって言ってたのにぃ―」
新「ぷっ!」
淳平「ぷっ!」
和沙「な、なによ、あんたたち? 何がおかしいのよ」
淳平「いや、さっき、俺も同じ台詞言ったからさ。……お前もそうなんだろ?」
新「う、うん」
新(N)「……これが、淳平と和沙との出会いだった」
場面転換。
夏の日。セミの鳴き声と、ジリジリと強い太陽の日差し。
和沙が走って来る。
和沙「新―! 淳平―!」
淳平「よお、和沙。どうだった?」
和沙「ばっちり! テントとか、七輪とか、色々、じいちゃん家にあった」
淳平「よし! じゃあ、後は食い物だな」
新「一応、母さんから、5千円、貰ってる」
淳平「おおー! さすが、おばさん! 太っ腹!」
新「母さんにそれ言ったら、殺されるから言わないでね」
和沙「うわー! 5千円かー。ねえ、ケーキ買おうよ」
淳平「なんでだよ! キャンプだぞ!」
和沙「えー、いいじゃん! ケーキ美味しいよ」
淳平「そういうことじゃねーよ」
新「あははははは」
新(N)「3人でいられれば、それでよかった」
場面転換。
ザーッと、雨が降る音。
家の中から、外を見ている新、淳平、和沙。
淳平「おいおいおい。マジかよ。昨日まで、水不足が心配されるくらい晴れてたじゃねーか」
和沙「あーあ。雨男が2人も揃ってるから、こうなるんじゃないかって思ってたのよね」
淳平「はあ? お前が雨女だろ」
和沙「なにおー!」
新「まあまあ。バーベキューは家のテラスでやろうよ」
和沙「そうね。雨の日のバーベキューもオツかも」
淳平「だな」
和沙「バーベキューの後にケーキもあるよ」
淳平「結局、買ったのかよ!」
場面転換。
新の部屋。
外からは雨の音が聞こえてくる。
和沙「懐かしいな―」
淳平「なにが?」
和沙「私たちが出会ったのも、雨のおかげだよね」
新「僕が軒下にいたところに、2人も来たんだよね」
淳平「そうだっけか?」
和沙「……」
新「どうしたの?」
和沙「考えてみたらさ、あんたたちとの思い出って、全部雨だわ」
新「え?」
和沙「体育祭も、文化祭も、修学旅行も! ぜーんぶ、雨じゃないのよ!」
淳平「いてて! 俺に当たるな!」
新「まあ、雨男、雨女が揃ってれば、そうなるよねー」
和沙「私は雨女じゃないわよ!」
淳平・新「いやいやいや」
新(N)「このままずっと、この3人は一緒。……そう思い込んでいたんだ」
場面転換。
学校の廊下。
新が走っている。
そして、教室のドアを勢いよく開く。
新「淳平!」
淳平「おう、来たか」
新「……ホントなの?」
淳平「なんて顔してるんだよ」
新「だって、転校って……」
淳平「しょーがねーだろ。親の都合なんだからさ」
新「……いつ、引っ越すの?」
淳平「明日」
新「なんで、言ってくれなかったの!?」
淳平「言ったところで、どうにかなるか?」
新「……送別会とかしたかったよ」
淳平「俺、そういう湿っぽいの好きじゃねーんだよ。知ってるだろ?」
新「……和沙に、このことは……」
淳平「言ってない」
新「なんで?」
淳平「お前に頼みがある」
新「頼み? ……なに?」
淳平「あいつを……和沙を頼む」
新「頼むって……どういうこと?」
淳平「あいつさ、ああ見えて、精神的に弱いところがあるんだよ」
新「うん……。そうだね」
淳平「だから、俺が引っ越すなんて知ったら、かなり凹むと思うんだよな」
新「そうだろうね」
淳平「だからさ、お前が俺の分まで支えてやってほしい」
新「支えるって……」
淳平「和沙と付き合え」
新「は? な、なに、急に変なこと言ってるんだよ!」
淳平「隠すなよ。ずっと、あいつのこと好きだったんだろ?」
新「……」
淳平「あいつも同じだ。俺か、お前かを選べないだけで、好きだと思う。だから、お前から告白すれば、あいつはOKするはずだ」
新「でも……」
淳平「で、俺は黙って消える。邪魔者としてな。そうすれば、あいつは黙って消えた俺の方を恨むはずだ。それをお前が支えてやれば、きっと俺のことなんか忘れてくれる」
新「淳平はそれでいいの?」
淳平「それでいいから、頼んでるんだよ」
新「……わかった」
場面転換。
駅。
電車の出発するときのアナウンスが流れる。
淳平「……じゃあな。新、和沙」
そのとき、和沙が走ってくる。
和沙「淳平!」
淳平「なっ! お前、なんでここに!?」
和沙「バカ! なんで黙って行こうとするのよ!」
淳平「……だって、お前に寂しい思い、させちまうだろ」
和沙「バカ、バカ、バカ!」
淳平「……和沙」
和沙「会いに行くわよ」
淳平「え?」
和沙「別に外国に行くわけないんでしょ……。ううん。たとえ、外国に行ったとしても、私、会いに行くよ」
淳平「……和沙」
和沙「……好き、だよ。淳平」
淳平「……俺もだ」
場面転換。
原っぱに寝転ぶ新。
新「……今頃、出発したかな? 和沙、間に合えばいいんだけど……」
バッと両腕で顔を隠す。
新「う、うう……」
泣き始める新。
新「なんだよ、もう……」
新(N)「僕たち3人の思い出はいつも雨だった。……それなのに、こういうときに限って、雨は降ってくれない。これじゃ、雨だって言えないじゃないか」
新「うう……(嗚咽を漏らす)」
新の頬には大量の涙が流れている。
終わり。