通り雨

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
新(あらた)
淳平(じゅんぺい)
和沙(かずさ)

■台本

新(N)「それは本当に何気ない、普通の一日になるはずだった」

雨の音。

その中をパシャパシャと青とを立てて走る新。

新「あー、くそ。今日はずっと晴れだって言ってたじゃん!」

走って軒下へと駆け込む新。

そこに、淳平が駆け込んでくる。

淳平「あー、くそ。今日はずっと晴れだって言ってたじゃねーか!」

新「ぷっ(噴き出して笑う。自分と同じことを言ったので)」

淳平「ん? なんだよ? なにがおかしいんだ?」

新「いや、別に……」

そこに和沙が走り込んでくる。

和沙「あー、もう! 今日はずっと晴れって言ってたのにぃ―」

新「ぷっ!」

淳平「ぷっ!」

和沙「な、なによ、あんたたち? 何がおかしいのよ」

淳平「いや、さっき、俺も同じ台詞言ったからさ。……お前もそうなんだろ?」

新「う、うん」

新(N)「……これが、淳平と和沙との出会いだった」

場面転換。

夏の日。セミの鳴き声と、ジリジリと強い太陽の日差し。

和沙が走って来る。

和沙「新―! 淳平―!」

淳平「よお、和沙。どうだった?」

和沙「ばっちり! テントとか、七輪とか、色々、じいちゃん家にあった」

淳平「よし! じゃあ、後は食い物だな」

新「一応、母さんから、5千円、貰ってる」

淳平「おおー! さすが、おばさん! 太っ腹!」

新「母さんにそれ言ったら、殺されるから言わないでね」

和沙「うわー! 5千円かー。ねえ、ケーキ買おうよ」

淳平「なんでだよ! キャンプだぞ!」

和沙「えー、いいじゃん! ケーキ美味しいよ」

淳平「そういうことじゃねーよ」

新「あははははは」

新(N)「3人でいられれば、それでよかった」

場面転換。

ザーッと、雨が降る音。

家の中から、外を見ている新、淳平、和沙。

淳平「おいおいおい。マジかよ。昨日まで、水不足が心配されるくらい晴れてたじゃねーか」

和沙「あーあ。雨男が2人も揃ってるから、こうなるんじゃないかって思ってたのよね」

淳平「はあ? お前が雨女だろ」

和沙「なにおー!」

新「まあまあ。バーベキューは家のテラスでやろうよ」

和沙「そうね。雨の日のバーベキューもオツかも」

淳平「だな」

和沙「バーベキューの後にケーキもあるよ」

淳平「結局、買ったのかよ!」

場面転換。

新の部屋。

外からは雨の音が聞こえてくる。

和沙「懐かしいな―」

淳平「なにが?」

和沙「私たちが出会ったのも、雨のおかげだよね」

新「僕が軒下にいたところに、2人も来たんだよね」

淳平「そうだっけか?」

和沙「……」

新「どうしたの?」

和沙「考えてみたらさ、あんたたちとの思い出って、全部雨だわ」

新「え?」

和沙「体育祭も、文化祭も、修学旅行も! ぜーんぶ、雨じゃないのよ!」

淳平「いてて! 俺に当たるな!」

新「まあ、雨男、雨女が揃ってれば、そうなるよねー」

和沙「私は雨女じゃないわよ!」

淳平・新「いやいやいや」

新(N)「このままずっと、この3人は一緒。……そう思い込んでいたんだ」

場面転換。

学校の廊下。

新が走っている。

そして、教室のドアを勢いよく開く。

新「淳平!」

淳平「おう、来たか」

新「……ホントなの?」

淳平「なんて顔してるんだよ」

新「だって、転校って……」

淳平「しょーがねーだろ。親の都合なんだからさ」

新「……いつ、引っ越すの?」

淳平「明日」

新「なんで、言ってくれなかったの!?」

淳平「言ったところで、どうにかなるか?」

新「……送別会とかしたかったよ」

淳平「俺、そういう湿っぽいの好きじゃねーんだよ。知ってるだろ?」

新「……和沙に、このことは……」

淳平「言ってない」

新「なんで?」

淳平「お前に頼みがある」

新「頼み? ……なに?」

淳平「あいつを……和沙を頼む」

新「頼むって……どういうこと?」

淳平「あいつさ、ああ見えて、精神的に弱いところがあるんだよ」

新「うん……。そうだね」

淳平「だから、俺が引っ越すなんて知ったら、かなり凹むと思うんだよな」

新「そうだろうね」

淳平「だからさ、お前が俺の分まで支えてやってほしい」

新「支えるって……」

淳平「和沙と付き合え」

新「は? な、なに、急に変なこと言ってるんだよ!」

淳平「隠すなよ。ずっと、あいつのこと好きだったんだろ?」

新「……」

淳平「あいつも同じだ。俺か、お前かを選べないだけで、好きだと思う。だから、お前から告白すれば、あいつはOKするはずだ」

新「でも……」

淳平「で、俺は黙って消える。邪魔者としてな。そうすれば、あいつは黙って消えた俺の方を恨むはずだ。それをお前が支えてやれば、きっと俺のことなんか忘れてくれる」

新「淳平はそれでいいの?」

淳平「それでいいから、頼んでるんだよ」

新「……わかった」

場面転換。

駅。

電車の出発するときのアナウンスが流れる。

淳平「……じゃあな。新、和沙」

そのとき、和沙が走ってくる。

和沙「淳平!」

淳平「なっ! お前、なんでここに!?」

和沙「バカ! なんで黙って行こうとするのよ!」

淳平「……だって、お前に寂しい思い、させちまうだろ」

和沙「バカ、バカ、バカ!」

淳平「……和沙」

和沙「会いに行くわよ」

淳平「え?」

和沙「別に外国に行くわけないんでしょ……。ううん。たとえ、外国に行ったとしても、私、会いに行くよ」

淳平「……和沙」

和沙「……好き、だよ。淳平」

淳平「……俺もだ」

場面転換。

原っぱに寝転ぶ新。

新「……今頃、出発したかな? 和沙、間に合えばいいんだけど……」

バッと両腕で顔を隠す。

新「う、うう……」

泣き始める新。

新「なんだよ、もう……」

新(N)「僕たち3人の思い出はいつも雨だった。……それなのに、こういうときに限って、雨は降ってくれない。これじゃ、雨だって言えないじゃないか」

新「うう……(嗚咽を漏らす)」

新の頬には大量の涙が流れている。

終わり。

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