【ドラマシナリオ】見えない終着駅①

【ドラマシナリオ】見えない終着駅①

○  総武線・新小岩駅
多くの人たちが駅に入っていく。

○  総武線・新小岩駅・ホーム(夜)
若い男女や酔った人が多く騒がしい。
電車が来るのを待っている人の列。
松下康平(32)が、その列を歩きながら一人ひとり、ジッと見ている。
若い男の集団。
若い男1「なあ、もう一軒行かね?」
若い男2「もう、金ねえって」
二十代の女性と五十代の男性。
男「この後、部屋予約してるんだけど……」
派手な赤いシャツにミニスカート姿の幸田美咲(32)が目に入る。
ホームの端で虚ろな目をして立っている。
康平「……」
ゆっくりと美咲の方へ近づく。
駅員「もうすぐ、二番線に電車が参ります。白線より下がって……」
電車がやってくる。
フラリと美咲が前に出る。
康平「早まっちゃダメです!」
康平が後ろから美咲に抱き付く。
美咲が振り返って目を見開く。
美咲「こっ……この痴漢野郎!」
美咲が手を振り上げる。
そこに、星谷啓太(23)が割って入る。
啓太「違うっす! この人は」
美咲「うっさい!」
美咲が康平に向かって腕を振り下ろす。
暗転後、パンという頬を叩く音が響く。

タイトル「命警備隊」

○  ラーメン屋
店内には飲みの帰りに寄った客が多い。
店員「はい、醤油と塩、豚骨みそ、お待ち」
店員が啓太、康平、美咲の前にラーメンを置いていく。
啓太「いやー。姉さん、この時間から豚骨っすか? 太りますよ?」
美咲「うっさい。黙れ!」
三人がラーメンをすすり始める。
啓太「それにしても、康平さん。危なかったっすね。下手したら今頃、留置所っすよ」
康平「啓太がいなかったらと思うと、ゾッとするよ。ありがとう」
美咲「被害届を取り下げたあたしにも、感謝してよ」
康平「ですので、お詫びも込めて、ご馳走してるじゃないですか……」
美咲「お詫びが、ラーメン! あんた、どういう神経してんの?」
啓太「めっちゃ食ってるじゃないっすか」
美咲「うっさい!」
啓太「駅員も信じてくれて良かったすよねー」
美咲「まあ、あたしの年齢みれば当たり前……って、ふざけんなっ!」
美咲が康平の頬をつねる。
康平「痛いです……」
美咲「(離して)で? 命警備隊だっけ? 結局なにしてんの?」
康平「えっと……人を助けてます」
美咲「……は?」
啓太「あ、俺が説明するっす。つまりですね、電車に飛び込もうとする人を助ける活動をしてるんすよ」
美咲「……なんで、そんなことしてんの?」
啓太「……いや、なんでって……」
康平「人を助けるのに、理由がいるんですか?」
啓太「きたー! 康平さんの決め台詞!」
美咲「ふーん」
美咲が少し、考えるような仕草をする。
美咲「……よし、決めた。あたしも入ってあげる。その、命警備隊に」
康平「……え? どうして、ですか?」
美咲「人を助けるのに、理由はいらないんでしょ?」
康平「でも、仕事しながらだとキツイですよ」
美咲「大丈夫、大丈夫。どうせ、キャバクラ、今日で辞めるつもりだったし」
康平「それなら、尚更、職探ししないと……」
美咲「はい、決まり! あたしの名前は幸田美咲。よろしく!」
美咲が右手を差し出してきて、康平が諦めのため息をついた後、握手をする。

○  日比谷線・恵比寿駅・ホーム
仕事帰りのサラリーマンが多い。
有楽町より落ち着いた雰囲気。
そこに、美咲と康平が並んで歩いている。
美咲「なんで日比谷線? 山手線の方が人、多いんじゃない?」
康平「あっちは、ホームドアがありますから」
美咲「あ、そっか。飛び込もうって思っても、無理だもんね」
康平「一人で、遠くの方を見ている人を探してください。特に追い詰められたような表情をしてる人は、要注意です」
美咲「おっけ!」
康平「実際に電車が来た時に前に進もうとしたら、完全にアウトです。すぐに声をかけてください」
美咲「もし勘違いだったら?」
康平「謝ってください」
美咲「痴女に間違えらえるとか、勘弁してよ」
康平「まあ、すぐに誤解は解けますから」
美咲「ボジティブね」
康平「間違いの方が多いですからね。慣れてしまうっていう方が正しいですかね」
美咲「捕まらないのが不思議ね。……って、敬語とか止めない? うざいんだけど」
康平「え? なんですか、急に」
美咲「次、敬語使ったら痴漢って叫ぶからね」
康平「そんな無茶苦茶で……だよ」
美咲「(微笑んで)やればできるじゃん」
康平「(照れて)……」
そこにスーツ姿の男性、元木(41)がやってくる。
元木「松下さん。そのせつは、本当にありがとうございました」
康平「元木さん。……あれから、どうですか?」
元木「松下さんたちのアドバイス通り、転職しました。どうせ、死ぬつもりだったんだって、がむしゃらに働いてたら、新しい会社では評価してくれたんですよ」
康平「良かったですね」
元木「これも、命警備隊の人たちのおかげです。皆さんに、よろしくお伝えください」
ペコリとお辞儀をして、行ってしまう。
美咲「今のが、助けた人?」
康平「はい……じゃなかった。うん。そうだよ。ああやって、立ち直ってくれたのを見ると、僕たちがやってきたことって、無意味じゃないんだって実感できるんだ」
美咲「……なんか、ずるいわよ。あたしも、助けてみたいんだから、見回り再開するよ」
美咲が康平の背中をグイグイ押す。
康平「ちょっと! 危ないって!」

○  代々木公園(深夜)
十六人ほどの人たちが缶ビールを片手に立って啓太の方を見ている。
啓太「えー。僭越ながら、わたくし、星谷啓太が音頭を取らせていただくっす。みなさん、今月もお疲れ様っした。かんぱーい!」
啓太が缶ビールを掲げると、全員が同じように掲げる。
一同「かんぱーい!」
一斉にビールを飲み始める。
啓太「つまみも、こっちに用意してるっすから、遠慮なくどうぞっす!」
みんながワイワイと歓談を始める。
美咲「……なんで、打ち上げが公園なの?」
康平「予算的な兼ね合いがあって……。あとは、この人数ってなると、お店もなくてさ」
美咲「夜中に、この人数で、こんなことしてて通報とかされるんじゃない?」
康平「大丈夫だよ。その時は逃げればいい」
美咲「それ、大丈夫って言わない」
そこに啓太がやってくる。
啓太「康平さんと姉さん、はい。ようやく完成したんで、渡しておくっす」
啓太がハートマークと『警』が入ったデザインのマークのバッチを二人に渡す。
美咲「何これ?」
啓太「命警備隊のシンボルっす。俺が作ったんすよ」
美咲「……なんか微妙なデザインね」
康平「そういえば啓太。この前、元木さんに会ったよ。よろしく伝えて欲しいって」
啓太「マジっすか! じゃあ、立ち直ったんすね。よかった、よかった」
啓太がグイッと缶ビールをあおる。
啓太「ぷはー。じゃあ元木さんもここに誘ったんっすか? 絶対入ってくれるっすよ」
康平「新しい仕事場、忙しそうだったから」
啓太「そうっすか。残念っすけど、いいことっすね」
美咲「もしかして、命警備隊って、助けた人たちが多いの?」
啓太「多いっつーか、全員っすね。普通に入って来たのは姉さんが初っす」
美咲「じゃあ、あんたも?」
啓太「もちろんっす。俺は康平さんに助けていただいたんすよ」
美咲「(康平の方を見て)あんたは? 誰に助けてもらったの?」
康平「いや、僕はその……」
啓太「康平さんが初代っす! 康平さんがこの活動を始めて、徐々に人が集まって、命警備隊が結成されたんっすよ!」
美咲「じゃあ、ここにいる人たちって……」
康平「みんな、苦しんでました。……でも、今は持ち直して、笑い合うことができてるんです」
美咲「……」
美咲が歓談している隊員たちを見る。
そのとき、隊員の一人が叫ぶ。
隊員「警察来たぞー! 散れー!」
隊員たちが一斉に散っていく。
康平「幸田さん、行こう」
美咲「まったくもう! ……あと、美咲でいいから」
康平と美咲が並んで走っていく。

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