【シナリオ】あなたを守ります

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〇 ボクシング会場

  柳川真一(20)と和田哲也(25)がリング上で殴り合っている。

  ゴングが鳴る。

アナウンサー「さあ、挑戦者の柳川、チャンピンに対して、果敢に攻めていますが、ここでゴングが鳴り、五ラウンド終了です」

  真一と和田がコーナーに戻っていく。

  真一がコーナーで椅子に座る。

会長「真一、いいぞ。その調子だ。ベルトが見えてきたぞ」

真一「(息を切らせながら)はい!」

会長「もうすぐだ。もうすぐで、お前の夢だった、日本一になれるぞ」

真一「……チャンピオンになれば」

会長「ん?」

真一「ボクが一番強いってことですよね?」

会長「ああ、そうだ」

真一「じゃあ、チャンピオンにならないと」

会長「その意気だ!」

  真一が立ち上がると同時に、ゴングが鳴る。

真一「(呟くように)……行ってくるよ、澪」

  マウスピースを咥え、リングの中央へ。

  暗転。

タイトル「あなたを守ります」

〇 学校の裏庭・回想

  真一(8)が田中(8)と加藤に詰め寄られている。

真一「……止めてよ」

  後ずさりするが、加藤に後ろに回り込まれ、羽交い絞めにされる。

  田中がボクシングのように構えて、腕を振り上げる。

田中「さあ、田中選手、ここで柳川を倒せばチャンピオンだ!」

真一「止めてってば!」

  田中が思い切り真一を殴る。

  同時に加藤が手を離したので、地面に倒れる真一。

田中「入ったー! 田中選手の右ストレートで、柳川倒れたー!」

加藤「さあ、柳川立てるかー?」

真一「うう……」

  泣きながら、起き上がろうとする真一。

  それを見て、田中が舌打ちをする。

  そして、真一の顔を蹴る。

真一「うがっ!」

田中「今度は柳川の顔面に蹴りが入ったぞ!」

加藤「あははは! 蹴りは反則だって!」

澪の声「あんたたち、何やってるのよー」

  近藤澪(8)が走ってくる。

田中「ちっ! 近藤かよ」

澪「また真一をイジメて! 今日は絶対に許さないんだから」

田中「ばーか! こっちは二人だぞ。お前もボコボコにしてやるよ」

  田中が澪の前に立ち、加藤が後ろに回る。

真一「……澪ちゃん、逃げて」

澪「二人だけでいいの? もっと呼ぶなら、待っててあげるけど?」

田中「女のくせに生意気だな」

  田中がボクシングの構えをする。

  そして、澪も同じく、ボクシングの構えをする。澪の方はより本格的で、軽くステップを踏んでいる。

田中「おらあ!」

  田中が澪に殴りかかる。

澪「しっ!」

  見事に田中の顔面にカウンターが入る。

田中「うがっ!」

  倒れる田中。

  すかさず振り向き、加藤にフックを喰らわせる澪。

加藤「あうっ!」

  加藤も倒れる。

真一「……すごい」

〇 橋の下(夕方)

  澪がシャドーボクシングをしている。

  タオルを持って、座って見ている真一。

  大きく息を吐いて、動きを止める澪。

  立ち上がって、澪にタオルを渡す真一。

真一「やっぱり、澪ちゃんはすごいなぁ。さっきも二人をあっさりやっつけちゃうんだもん」

澪「ううん。あんな素人なんて、何人倒しても意味なんかないよ。私よりも強い人なんて、ジムにいっぱいいるしさ」

  タオルで顔を拭く澪。

真一「それでも、すごいと思う。……ねえ、澪ちゃん。ボクにもボクシング教えてよ」

澪「え? どうして?」

真一「ボクも澪ちゃんみたいに強くなったら、もうイジメられないでしょ? ボク、もうイジメられたくないんだ」

澪「ダーメ」

真一「そんなっ!」

澪「だって、必要ないよ。真一は強くならなくてもいいんだから」

真一「で、でも……」

澪「私が守ってあげる」

真一「……え?」

澪「強い私が、ずっと真一を守ってあげる。だから、真一は強くならなくていいの」

真一「……澪ちゃん」

  澪はタオルを真一に渡して、またシャドーボクシングを始める。

澪「私がチャンピオン……日本一になったら、もう絶対に真一はイジメられないよ」

真一「……」

  ドンドン澪のシャドーボクシングが激しくなる。

澪「だってさ、日本一強い女の子の夫をイジメる人なんて、いないでしょ?」

  顔を真っ赤にしている澪は誤魔化すように、さらにスピードを上げる。

真一「(微笑んで)……うん、そうだね」

〇 ジム内

  リングの上でスパーリングをしている澪を、リングサイドで応援する真一。

〇 河川敷

  ロードワークをしている澪。

  その横を自転車に乗って並走する真一。

〇 試合会場

  澪が試合をしている。

  澪のパンチで倒れる相手。

  真一に向かって手を挙げる澪。

  拍手する真一。

〇 斎場

  澪の遺影。

  葬式の場で呆然としている真一。

男性「……事故だって」

女性「ロードワーク中に、酔っ払い運転ではねられたみたいね」

男性「……澪ちゃん、まだ、小さかったのに」

  呆然と澪の遺影を見ている真一。

〇 学校の裏庭

  田中と加藤に殴られている真一。

田中「へへへ! もうお前を守ってくれる奴はいないんだぞ! ざまーみろ!」

  殴られて倒れる真一。

真一「……澪ちゃんは、ボクを守ってくれるって約束してくれた」

加藤「あははは! 約束破られてやんの! あいつは嘘つきなんだよ!」

真一「澪ちゃんは、嘘つきなんかじゃない!今度はボクが守るんだ」

田中「はあ?」

  真一が立ち上がって、田中に殴りかかる。

  しかし、反対に殴られ返されてしまう。

〇 同

  倒れている真一。顔はボコボコにされている。

真一「澪ちゃんを嘘つきなんかにしない。……ボクが澪ちゃんの夢を守るんだ!」

  回想終わり。

〇 ボクシング会場

  試合をしている真一。

  真一のフックが和田の顔面を捉え、和田が倒れる。

  会場が一気に湧く。

アナウンサー「柳川のフックが和田を捉えた! チャンピオンダウーン!」

  だが、和田はフラフラとしながらも立ち上がる。

  そして、そこでゴングが鳴り、真一と和田が自分のコーナーへと戻る。

  椅子に座る真一。

会長「惜しかったな、真一。だが、もうベルトは目前だ」

真一「……日本一になったら、もう誰も、ボクをイジメることはできなくなる」

会長「真一?」

真一「澪ちゃん、見てて。もう、澪ちゃんを嘘つきなんて呼ばせないから」

  再びゴングが鳴り、真一が立ち上がる。

  リングの中央まで歩く真一。

真一「澪ちゃんは、ずっとボクを守ってくれてた。だから今度は、ボクが澪ちゃんの夢を守るからね」

  真一と和田がファイティングポーズをする。

レフェリー「ファイ!」

  真一と和田が同時にパンチを繰り出す。

終わり

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