いつもの場所

いつもの場所

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■概要
主要人数:3人
時間:10~12分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
橋本 悠斗(24)
橋本 悠斗(12)  学生時代
坂下 仁(24)
坂下 仁(12)   学生時代
小宮 隆(35)   悠斗 の上司

■台本

セミの鳴き声と街の雑踏の音。

真夏の町中を並んで歩く、橋本悠斗(24)と小宮隆(35)。

小宮「橋本、今日はあと三件回るぞ。大丈夫か?」

悠斗「 (少し苦しそう)あ、はい。平気です」

小宮「……少し、休むか」

悠斗「いえ、僕ならホント、大丈夫ですから」

小宮「無理するな。体調管理も仕事のうちだぞ」

悠斗「……はい」

  小宮が立ち止まり、悠斗も立ち止まる。

小宮「よし、この喫茶店で少し休んでくぞ」

  小宮がドアを開けると、カランカランとドアに付いた来店を知らせる鈴の音が響く。

  店の中にはほとんど客がいない。

  小宮と悠斗が席に座る。

小宮「こういう昔ながらの店っていいよな。落ち着いた感じで、ゆっくりできる」

悠斗「そうですね」

小宮「俺はアイスコーヒーにするけど、橋本はどうする?」

悠斗「あ、僕も小宮さんと同じで」

小宮「マスター、アイスコーヒー2つね」

マスター「はいよー」

  落ち着いた感じの、クラシックな感じの音楽が流れている。

小宮「……懐かしい感じかな」

悠斗「……この曲、知ってるんですか?」

小宮「あ、いや、違う違う。この店の雰囲気だよ。初めて来たのに、落ち着くっていうかさ」

悠斗「あ、何となくわかります」

  音楽が終わり、ラジオのパーソナリティが話し始める。

パーソナリティ「次はお便りを紹介します」

小宮「へー。ラジオだったのか。最近はラジオなんて、全然聞かなくなったなぁ」

悠斗「そうですね。僕も昔はよく聞いてましたよ」

小宮「時々、聞きたくなるけど、ラジオ持ってないからな」

悠斗「そうですよね。最近はネットだけで、テレビも見なくなりましたから」

パーソナリティ「お前のことだから、忘れてるかもな。でも、あそこで待ってる。秘密基地で。ペンネーム、月の下さん」

小宮「ははっ! 秘密基地だってよ。俺も子供の頃は作ったな。……橋本の時代だと、そんなことはしなかったか?」

悠斗「いえ、僕も……」

小宮「どうした?」

悠斗「あ、なんでもありません」

悠斗(N)「秘密基地。その話で思い出した。あれは小学生の頃。……そう、僕も秘密基地を作ったことがあったのだった」

  セミの鳴き声。

  森を走る悠斗(12)と坂下仁(12)。

仁「はっちん、早く来いよー」

悠斗「待ってよ、仁くん」

  立ち止まって、草むらをかき分ける二人。

仁「へへ! 俺たちの秘密基地に到着―」

  地面に寝転がる二人。

仁「おっと、ラジオラジオ」

  仁が起き上がって、ラジオを付ける。

  パーソナリティの声と、音楽が聞こえる。

  再び寝転がる仁。

仁「やっぱ、ここは落ち着くよなー」

悠斗「うん、そうだね」

仁「考えたら、この秘密基地作ってから、もう五年だもんなー。結構、ボロボロになってるな」

悠斗「ほとんど毎日来てるもんね」

仁「なあ、はっちん。……中学に行ってもさ、時々、ここに集まらないか?」

悠斗「うん! もちろんだよ!」

仁「ホントか! じゃあ、約束だ! 指切り!」

悠斗「うん。ゆーびきりげーんまん」

仁「嘘ついたら、針千本のーます」

悠斗「指切った!」

仁「おっと、そろそろ暗くなってきたな。そろそろ買ってきた花火やろうぜ」

悠斗「うん!」

  二人が花火をしている。

仁「なあ、はっちん」

悠斗「ん? なに?」

仁「さっきした約束だけどさ、無理しなくていいからな」

悠斗「え?」

仁「いや、ほら、俺たち違う中学になるからさ……。友達も新しくできるだろうし、無理してここに来なくてもいいからな」

悠斗「仁くん……」

仁「なんかさ、思い出したときとか、なんか辛いことがあったらここに来いよな」

悠斗「うん。わかった」

仁「……だからさ、絶対に忘れないでくれよな。この秘密基地と俺のことをさ」

悠斗「もちろんだよ! 仁くんのことを忘れるわけないよ」

仁「……俺も、はっちんのこと、忘れない」

悠斗(N)「結局、僕があの秘密基地に行ったのはあの日が最後だった。中学に入ってすぐ、親の転勤が決まって引っ越したから。仁くんとは、しばらく手紙のやり取りをしてたけど、それも徐々に少なくなって、いつしか僕の方が手紙を出さなくなって、途切れてしまったのだった」

  ドアを開ける音とカランカランという鈴の音。

小宮「コーヒー、美味しかったな。また今度来てみるか」

悠斗「……」

小宮「さっきから、どうした、橋本?」

悠斗「あ、いえ。すいません。なんでもないです」

小宮「夏バテか? 明日からの連休はしっかり休んだほうがいいぞ」

悠斗「あ、はい。そうですね」

小宮「よし、じゃあ、遅れた分、取り返すぞ。お得意さん周りだ」

悠斗「はい!」

悠斗(N)「次の日からの連休。僕はちょっとした旅に出た。……あの日から行ってなかった秘密基地。もう残ってないと思うけど、なんだかその場所に行きたくなったのだ」

  セミの鳴き声。

  悠斗が森の中を歩く。

悠斗「……あれ? この辺だと思ったんだけどなぁ。……って、もうないか。十年以上経ってるし」

  それでも、歩く悠斗。

悠斗「……あれ? あった……」

悠斗(N)「まるでデジャブだった。僕の目の前には、あの日と同じ、秘密基地の姿がある」

悠斗「……残ってるもんだなぁ」

  悠斗が中に入る。

悠斗(N)「中に入ったら、さらに驚くことになった」

悠斗「全然、荒れてない……」

仁「あれ? もしかして、はっちんか?」

悠斗(N)「一目でわかった。もう十年以上会ってなかったのに、そこにいたのが仁くんだってことは」

悠斗「……仁くん?」

仁「いやあ、久しぶりだな。えっと、十二年ぶりか?」

悠斗「……もしかして、仁くん、この秘密基地にずっと来てたの?」

仁「まあ、な。なんか嫌なことがあると、来ちまうんだよ。社会人になったら特に来る日が多くなってさ」

悠斗「(笑って)わかる」

仁「……やっと、思い出してくれたんだな。ここ」

悠斗「……ごめん」

仁「謝るなよ。約束したろ? 思い出したときに来いって。今日、思い出したから来た。そうだろ?」

悠斗「うん」

仁「ああ、そうだ。久しぶりに花火でも買ってやるか」

悠斗「うん」

悠斗(N)「それから、仕事でなにかあったらこの秘密基地に来るようになった。やっぱり、ここは落ち着く。……そう、いつもの場所のような感覚。そして、ようやく気付く。この秘密基地がいつもの場所じゃなく、仁くんの隣がいつもの場所なんだと……」

終わり

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