【声劇台本】いつもの場所
- 2019.04.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:3人
時間:10~12分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
橋本 悠斗(24)
橋本 悠斗(12) 学生時代
坂下 仁(24)
坂下 仁(12) 学生時代
小宮 隆(35) 悠斗 の上司
■台本
セミの鳴き声と街の雑踏の音。
真夏の町中を並んで歩く、橋本悠斗(24)と小宮隆(35)。
小宮「橋本、今日はあと三件回るぞ。大丈夫か?」
悠斗「 (少し苦しそう)あ、はい。平気です」
小宮「……少し、休むか」
悠斗「いえ、僕ならホント、大丈夫ですから」
小宮「無理するな。体調管理も仕事のうちだぞ」
悠斗「……はい」
小宮が立ち止まり、悠斗も立ち止まる。
小宮「よし、この喫茶店で少し休んでくぞ」
小宮がドアを開けると、カランカランとドアに付いた来店を知らせる鈴の音が響く。
店の中にはほとんど客がいない。
小宮と悠斗が席に座る。
小宮「こういう昔ながらの店っていいよな。落ち着いた感じで、ゆっくりできる」
悠斗「そうですね」
小宮「俺はアイスコーヒーにするけど、橋本はどうする?」
悠斗「あ、僕も小宮さんと同じで」
小宮「マスター、アイスコーヒー2つね」
マスター「はいよー」
落ち着いた感じの、クラシックな感じの音楽が流れている。
小宮「……懐かしい感じかな」
悠斗「……この曲、知ってるんですか?」
小宮「あ、いや、違う違う。この店の雰囲気だよ。初めて来たのに、落ち着くっていうかさ」
悠斗「あ、何となくわかります」
音楽が終わり、ラジオのパーソナリティが話し始める。
パーソナリティ「次はお便りを紹介します」
小宮「へー。ラジオだったのか。最近はラジオなんて、全然聞かなくなったなぁ」
悠斗「そうですね。僕も昔はよく聞いてましたよ」
小宮「時々、聞きたくなるけど、ラジオ持ってないからな」
悠斗「そうですよね。最近はネットだけで、テレビも見なくなりましたから」
パーソナリティ「お前のことだから、忘れてるかもな。でも、あそこで待ってる。秘密基地で。ペンネーム、月の下さん」
小宮「ははっ! 秘密基地だってよ。俺も子供の頃は作ったな。……橋本の時代だと、そんなことはしなかったか?」
悠斗「いえ、僕も……」
小宮「どうした?」
悠斗「あ、なんでもありません」
悠斗(N)「秘密基地。その話で思い出した。あれは小学生の頃。……そう、僕も秘密基地を作ったことがあったのだった」
セミの鳴き声。
森を走る悠斗(12)と坂下仁(12)。
仁「はっちん、早く来いよー」
悠斗「待ってよ、仁くん」
立ち止まって、草むらをかき分ける二人。
仁「へへ! 俺たちの秘密基地に到着―」
地面に寝転がる二人。
仁「おっと、ラジオラジオ」
仁が起き上がって、ラジオを付ける。
パーソナリティの声と、音楽が聞こえる。
再び寝転がる仁。
仁「やっぱ、ここは落ち着くよなー」
悠斗「うん、そうだね」
仁「考えたら、この秘密基地作ってから、もう五年だもんなー。結構、ボロボロになってるな」
悠斗「ほとんど毎日来てるもんね」
仁「なあ、はっちん。……中学に行ってもさ、時々、ここに集まらないか?」
悠斗「うん! もちろんだよ!」
仁「ホントか! じゃあ、約束だ! 指切り!」
悠斗「うん。ゆーびきりげーんまん」
仁「嘘ついたら、針千本のーます」
悠斗「指切った!」
仁「おっと、そろそろ暗くなってきたな。そろそろ買ってきた花火やろうぜ」
悠斗「うん!」
二人が花火をしている。
仁「なあ、はっちん」
悠斗「ん? なに?」
仁「さっきした約束だけどさ、無理しなくていいからな」
悠斗「え?」
仁「いや、ほら、俺たち違う中学になるからさ……。友達も新しくできるだろうし、無理してここに来なくてもいいからな」
悠斗「仁くん……」
仁「なんかさ、思い出したときとか、なんか辛いことがあったらここに来いよな」
悠斗「うん。わかった」
仁「……だからさ、絶対に忘れないでくれよな。この秘密基地と俺のことをさ」
悠斗「もちろんだよ! 仁くんのことを忘れるわけないよ」
仁「……俺も、はっちんのこと、忘れない」
悠斗(N)「結局、僕があの秘密基地に行ったのはあの日が最後だった。中学に入ってすぐ、親の転勤が決まって引っ越したから。仁くんとは、しばらく手紙のやり取りをしてたけど、それも徐々に少なくなって、いつしか僕の方が手紙を出さなくなって、途切れてしまったのだった」
ドアを開ける音とカランカランという鈴の音。
小宮「コーヒー、美味しかったな。また今度来てみるか」
悠斗「……」
小宮「さっきから、どうした、橋本?」
悠斗「あ、いえ。すいません。なんでもないです」
小宮「夏バテか? 明日からの連休はしっかり休んだほうがいいぞ」
悠斗「あ、はい。そうですね」
小宮「よし、じゃあ、遅れた分、取り返すぞ。お得意さん周りだ」
悠斗「はい!」
悠斗(N)「次の日からの連休。僕はちょっとした旅に出た。……あの日から行ってなかった秘密基地。もう残ってないと思うけど、なんだかその場所に行きたくなったのだ」
セミの鳴き声。
悠斗が森の中を歩く。
悠斗「……あれ? この辺だと思ったんだけどなぁ。……って、もうないか。十年以上経ってるし」
それでも、歩く悠斗。
悠斗「……あれ? あった……」
悠斗(N)「まるでデジャブだった。僕の目の前には、あの日と同じ、秘密基地の姿がある」
悠斗「……残ってるもんだなぁ」
悠斗が中に入る。
悠斗(N)「中に入ったら、さらに驚くことになった」
悠斗「全然、荒れてない……」
仁「あれ? もしかして、はっちんか?」
悠斗(N)「一目でわかった。もう十年以上会ってなかったのに、そこにいたのが仁くんだってことは」
悠斗「……仁くん?」
仁「いやあ、久しぶりだな。えっと、十二年ぶりか?」
悠斗「……もしかして、仁くん、この秘密基地にずっと来てたの?」
仁「まあ、な。なんか嫌なことがあると、来ちまうんだよ。社会人になったら特に来る日が多くなってさ」
悠斗「(笑って)わかる」
仁「……やっと、思い出してくれたんだな。ここ」
悠斗「……ごめん」
仁「謝るなよ。約束したろ? 思い出したときに来いって。今日、思い出したから来た。そうだろ?」
悠斗「うん」
仁「ああ、そうだ。久しぶりに花火でも買ってやるか」
悠斗「うん」
悠斗(N)「それから、仕事でなにかあったらこの秘密基地に来るようになった。やっぱり、ここは落ち着く。……そう、いつもの場所のような感覚。そして、ようやく気付く。この秘密基地がいつもの場所じゃなく、仁くんの隣がいつもの場所なんだと……」
終わり
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