【声劇台本】四月一日の花嫁
- 2019.04.14
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
四月一日 あかり(25)
香月 加奈(25) あかりの親友
■台本
あかり(N)「わたぬき。四月一日と書いて、わたぬきと読む。それが私の苗字であり私の誕生日。学生の頃は、よくこの苗字でからかわれたりした。だから、私は自分の苗字が嫌いだった。でも、今は、この苗字でよかったと、心から思える」
香月加奈(25)が部屋に入ってくる。
加奈「あかり、準備できた? ……わお! すっごい綺麗!」
あかり「ありがとう、加奈」
加奈「こりゃ、あいつも惚れ直すわ」
あかり「今日は、その……ごめんね、来てもらっちゃって」
加奈「なーに言ってんのよ。親友の結婚式なんだもん、出席するのは当然でしょ」
あかり「ふふっ! そんなこと言ってくれるのは加奈くらいだよ。あーあ、加奈と結婚すればよかったかな?」
加奈「今からでも遅くないぞ。駆け落ちしちゃう?」
あかり「あははは!」
加奈「……にしても、もう二年か」
あかり「うん……。早いね」
加奈「あいつに出会ったのって、高校のときだっけ?」
あかり「高校一年生の冬だよ。時期外れで転校してきたから、よく覚えてる」
加奈「あー、そうだったね。思い出した。最初見たときは変な奴って思ったんだよね」
あかり「私も」
加奈「え? あかりも? まあ、そりゃそうか。いきなりリーゼント頭の学ランで登場だもんね」
あかり「第一声が、今日から俺が、この学校をシメる、だからね」
加奈「で、リーゼントのカツラを取ったら、その下が丸坊主でね」
あかり「そして、その後の台詞が、笑いで、って言って、教室はドッカンだった」
加奈「あれは笑わせてもらったわー」
あかり「私は引いたんだよね」
加奈「……まあ、あれは好き嫌い分かれそう」
あかり「だから、最初はちょっと苦手で、話さないようにしてたんだ」
加奈「でも、それからすぐに付き合い始めたんでしょ?」
あかり「んー。正式に、お付き合いしてくださいって言われたのは大学に入ってからかな」
加奈「ええー。高校のとき、あんなにラブラブだったのに、付き合ってなかったんだ?」
あかり「え? 私たち、周りからそう見えてたの?」
加奈「……気づいてなかったんだ」
あかり「やだ、恥ずかしい……」
加奈「まあまあ、もう時効ってことで。でもさ、最初、距離を置いてたのに、どうして話すようになったんだっけ?」
あかり「私の苗字、格好いいって言ってくれたんだ……」
加奈「あー、あいつなら言いそう」
あかり「珍しいとはよく言われたけど、格好いいって言ってくれたのは初めてだった……」
加奈「あかり、ずっと、苗字、嫌がってたもんね」
あかり「毎年、毎年、からかわれてたら嫌にもなるよ。嘘の誕生日プレゼントとかさ」
加奈「確かにね、エイプリルフールのいじられ方はハンパなかったもんね」
あかり「クラスの風物詩にされてたからね。どれだけ一日で四月一日を騙せるか、って競われてたこともあったしさ」
加奈「うわ、サイテー」
あかり「そんなときだった。四月一日って苗字、格好いい。交換してくれって言ってきたの」
加奈「……交換って。発想が小学生レベルよね」
あかり「はは。まあ、ね。最初は、どうせからかってるんでしょって思って、じゃあ、うちに養子に来たらって言ったの」
加奈「あいつ、どう返したの?」
あかり「目をキラキラさせてね、良いアイディアだ! って」
加奈「あいつの反応は、いつも斜め上よね」
あかり「でも、本当にすごいのは、次の日、私の家に来て、親に交渉してたんだよね。養子にしてくれって」
加奈「うっそ! それは、ちょっと引くかな」
あかり「まあ、そうだよね。引くよね」
加奈「私だったら、もう近づかないわ。そんな危険人物」
あかり「私もそうしようと思ったんだけどね。次の日に相談があるって呼び出されたの」
加奈「相談?」
あかり「うん。お母さんに気に入られるにはどうしたらいいかって」
加奈「……諦めなかったんだ」
あかり「とにかく、それがきっかけだったんだ。話し始めたのは」
加奈「へー、そんなことあったんだ。知らなかった。……なんで、言ってくれなかったの?」
あかり「いや、言えないでしょ」
加奈「そりゃそうか」
あかり「で、一緒にいたら、面白いし、何となく気づいたらいつも隣にいるのが自然になったんだよね」
加奈「だから、周りはすっかり付き合ってるもんだと思ってたんだよね」
あかり「……お願い、そのことはもう言わないで」
加奈「でも、まあ、いいじゃん。それが結婚までいったんだから」
あかり「うん。そうだね」
加奈「ちなみに、プロポーズの言葉は?」
あかり「頼むあかり、俺を四月一日にしてくれ」
加奈「……あいつらしいわ」
あかり「うん。そんな人だからこそ、私は好きになったんだと思う」
加奈「あれ? ってことは、婿入りするってこと?」
あかり「そうだよ。結婚する条件として、婿入りすることだって」
加奈「いやいやいや。どうして、結婚を申し込んだ方が上から目線なのよ」
あかり「それでね、私、言ったの。もし、私の名前が四月一日じゃなかったら、結婚しなかった? って」
加奈「それで? あいつ、なんて言ったの?」
あかり「急に真面目な顔をしてね。ごめん、あかり、たとえ君がどんな名前でも、俺は絶対にあかりを相手に選んでた。四月一日の苗字になりたいって言うのは、結婚を切り出すきっかけだったんだって」
加奈「おおー。あいつが、そんな臭い台詞を……」
あかり「私もびっくりした」
加奈「葬儀のとき、親戚中にバラシてやればよかったのに」
あかり「はは。私も少し考えた」
加奈「あ、そうだ。忘れるところだった。はい、これ」
加奈がポケットから箱を出す。
あかり「ありがとう。よかった、間に合って」
加奈「もし、指輪のサイズが合わなくても、後日、合わせてくれるってさ。だから、少し大きめにしておいたよ。式の時、嵌めれなかったら大変だもんね」
あかり「……加奈、本当にありがとうね。今日のこととか、色々」
加奈「まあ、親友からの誕生日プレゼント、ってことで」
あかり「でもさ、よく式場空いてたよね。普通、結婚式場って、半年前くらいから予約しないとダメなんでしょ?」
加奈「うーん。エイプリルフールに結婚しようって人はあまりいないのかも。だから、式場でも、こういう企画をやってるんだと思う」
あかり「なるほど」
加奈「ねえ、あかり。1つだけ聞かせて」
あかり「なに?」
加奈「これで、その……本当に忘れられるの?」
あかり「ううん。忘れられないと思う。でもね、前には進めると思う」
加奈「そっか。ならよし」
あかり「加奈には、ずっと支えてもらってばっかりだね」
加奈「大丈夫。その分、ちゃんと返してもらいますから」
あかり「ふふ。はい。じゃあ、六十年ローンで」
加奈「ははっ。じゃあ、あと六十年は生きてないとね」
あかり「……うん。そうだよ。だから、加奈は死なないでね、私を置いて」
加奈「わかってるって。……おっと、そろそろ、時間だよ。行こうっか」
あかり「うん」
あかりと加奈が歩き出し、ドアを開ける。
結婚式で流れるようなBGM。
あかりが一人、バージンロードを歩く。
あかり(N)「四月一日。それは私の苗字であり、私の誕生日。そして、世間ではエイプリールフールと呼ばれる嘘を付いていい日。今日、私は結婚する。でも、相手はもういない。だから、私はたった一日限定の花嫁。たとえ、今日が嘘だったとしても、今、私はとても幸せ。明日からはちゃんと前を向いて歩くから、だから今日だけは、あなたのお嫁さんでいさせてね」
終わり
-
前の記事
【シナリオ】王様の憂鬱 2019.04.13
-
次の記事
【シナリオ】復讐代行 2019.04.16
コメントを書く
コメントを投稿するにはログインしてください。