【声劇台本】四月一日の花嫁

【声劇台本】四月一日の花嫁

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■概要
主要人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
四月一日  あかり(25)
香月 加奈(25)  あかりの親友


■台本

あかり(N)「わたぬき。四月一日と書いて、わたぬきと読む。それが私の苗字であり私の誕生日。学生の頃は、よくこの苗字でからかわれたりした。だから、私は自分の苗字が嫌いだった。でも、今は、この苗字でよかったと、心から思える」

  香月加奈(25)が部屋に入ってくる。

加奈「あかり、準備できた? ……わお! すっごい綺麗!」

あかり「ありがとう、加奈」

加奈「こりゃ、あいつも惚れ直すわ」

あかり「今日は、その……ごめんね、来てもらっちゃって」

加奈「なーに言ってんのよ。親友の結婚式なんだもん、出席するのは当然でしょ」

あかり「ふふっ! そんなこと言ってくれるのは加奈くらいだよ。あーあ、加奈と結婚すればよかったかな?」

加奈「今からでも遅くないぞ。駆け落ちしちゃう?」

あかり「あははは!」

加奈「……にしても、もう二年か」

あかり「うん……。早いね」

加奈「あいつに出会ったのって、高校のときだっけ?」

あかり「高校一年生の冬だよ。時期外れで転校してきたから、よく覚えてる」

加奈「あー、そうだったね。思い出した。最初見たときは変な奴って思ったんだよね」

あかり「私も」

加奈「え? あかりも? まあ、そりゃそうか。いきなりリーゼント頭の学ランで登場だもんね」

あかり「第一声が、今日から俺が、この学校をシメる、だからね」

加奈「で、リーゼントのカツラを取ったら、その下が丸坊主でね」

あかり「そして、その後の台詞が、笑いで、って言って、教室はドッカンだった」

加奈「あれは笑わせてもらったわー」

あかり「私は引いたんだよね」

加奈「……まあ、あれは好き嫌い分かれそう」

あかり「だから、最初はちょっと苦手で、話さないようにしてたんだ」

加奈「でも、それからすぐに付き合い始めたんでしょ?」

あかり「んー。正式に、お付き合いしてくださいって言われたのは大学に入ってからかな」

加奈「ええー。高校のとき、あんなにラブラブだったのに、付き合ってなかったんだ?」

あかり「え? 私たち、周りからそう見えてたの?」

加奈「……気づいてなかったんだ」

あかり「やだ、恥ずかしい……」

加奈「まあまあ、もう時効ってことで。でもさ、最初、距離を置いてたのに、どうして話すようになったんだっけ?」

あかり「私の苗字、格好いいって言ってくれたんだ……」

加奈「あー、あいつなら言いそう」

あかり「珍しいとはよく言われたけど、格好いいって言ってくれたのは初めてだった……」

加奈「あかり、ずっと、苗字、嫌がってたもんね」

あかり「毎年、毎年、からかわれてたら嫌にもなるよ。嘘の誕生日プレゼントとかさ」

加奈「確かにね、エイプリルフールのいじられ方はハンパなかったもんね」

あかり「クラスの風物詩にされてたからね。どれだけ一日で四月一日を騙せるか、って競われてたこともあったしさ」

加奈「うわ、サイテー」

あかり「そんなときだった。四月一日って苗字、格好いい。交換してくれって言ってきたの」

加奈「……交換って。発想が小学生レベルよね」

あかり「はは。まあ、ね。最初は、どうせからかってるんでしょって思って、じゃあ、うちに養子に来たらって言ったの」

加奈「あいつ、どう返したの?」

あかり「目をキラキラさせてね、良いアイディアだ! って」

加奈「あいつの反応は、いつも斜め上よね」

あかり「でも、本当にすごいのは、次の日、私の家に来て、親に交渉してたんだよね。養子にしてくれって」

加奈「うっそ! それは、ちょっと引くかな」

あかり「まあ、そうだよね。引くよね」

加奈「私だったら、もう近づかないわ。そんな危険人物」

あかり「私もそうしようと思ったんだけどね。次の日に相談があるって呼び出されたの」

加奈「相談?」

あかり「うん。お母さんに気に入られるにはどうしたらいいかって」

加奈「……諦めなかったんだ」

あかり「とにかく、それがきっかけだったんだ。話し始めたのは」

加奈「へー、そんなことあったんだ。知らなかった。……なんで、言ってくれなかったの?」

あかり「いや、言えないでしょ」

加奈「そりゃそうか」

あかり「で、一緒にいたら、面白いし、何となく気づいたらいつも隣にいるのが自然になったんだよね」

加奈「だから、周りはすっかり付き合ってるもんだと思ってたんだよね」

あかり「……お願い、そのことはもう言わないで」

加奈「でも、まあ、いいじゃん。それが結婚までいったんだから」

あかり「うん。そうだね」

加奈「ちなみに、プロポーズの言葉は?」

あかり「頼むあかり、俺を四月一日にしてくれ」

加奈「……あいつらしいわ」

あかり「うん。そんな人だからこそ、私は好きになったんだと思う」

加奈「あれ? ってことは、婿入りするってこと?」

あかり「そうだよ。結婚する条件として、婿入りすることだって」

加奈「いやいやいや。どうして、結婚を申し込んだ方が上から目線なのよ」

あかり「それでね、私、言ったの。もし、私の名前が四月一日じゃなかったら、結婚しなかった? って」

加奈「それで? あいつ、なんて言ったの?」

あかり「急に真面目な顔をしてね。ごめん、あかり、たとえ君がどんな名前でも、俺は絶対にあかりを相手に選んでた。四月一日の苗字になりたいって言うのは、結婚を切り出すきっかけだったんだって」

加奈「おおー。あいつが、そんな臭い台詞を……」

あかり「私もびっくりした」

加奈「葬儀のとき、親戚中にバラシてやればよかったのに」

あかり「はは。私も少し考えた」

加奈「あ、そうだ。忘れるところだった。はい、これ」

  加奈がポケットから箱を出す。

あかり「ありがとう。よかった、間に合って」

加奈「もし、指輪のサイズが合わなくても、後日、合わせてくれるってさ。だから、少し大きめにしておいたよ。式の時、嵌めれなかったら大変だもんね」

あかり「……加奈、本当にありがとうね。今日のこととか、色々」

加奈「まあ、親友からの誕生日プレゼント、ってことで」

あかり「でもさ、よく式場空いてたよね。普通、結婚式場って、半年前くらいから予約しないとダメなんでしょ?」

加奈「うーん。エイプリルフールに結婚しようって人はあまりいないのかも。だから、式場でも、こういう企画をやってるんだと思う」

あかり「なるほど」

加奈「ねえ、あかり。1つだけ聞かせて」

あかり「なに?」

加奈「これで、その……本当に忘れられるの?」

あかり「ううん。忘れられないと思う。でもね、前には進めると思う」

加奈「そっか。ならよし」

あかり「加奈には、ずっと支えてもらってばっかりだね」

加奈「大丈夫。その分、ちゃんと返してもらいますから」

あかり「ふふ。はい。じゃあ、六十年ローンで」

加奈「ははっ。じゃあ、あと六十年は生きてないとね」

あかり「……うん。そうだよ。だから、加奈は死なないでね、私を置いて」

加奈「わかってるって。……おっと、そろそろ、時間だよ。行こうっか」

あかり「うん」

  あかりと加奈が歩き出し、ドアを開ける。

  結婚式で流れるようなBGM。

  あかりが一人、バージンロードを歩く。

あかり(N)「四月一日。それは私の苗字であり、私の誕生日。そして、世間ではエイプリールフールと呼ばれる嘘を付いていい日。今日、私は結婚する。でも、相手はもういない。だから、私はたった一日限定の花嫁。たとえ、今日が嘘だったとしても、今、私はとても幸せ。明日からはちゃんと前を向いて歩くから、だから今日だけは、あなたのお嫁さんでいさせてね」

終わり

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