【シナリオ】魔王と勇者は忙しい2話
- 2019.04.19
- ボイスドラマ(10分)
■概要
主要人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ
■キャスト
グドラス
魔王
ソフィア
その他
■台本
セミの鳴き声が響く。
そして、町の喧騒。
その中を歩く、グドラス。
グドラス「くっ、暑い……。それに、毎度毎度なんなのだ、この人間の多さは。やはり、我々魔族が人口の統制を……」
男1「やあ、グドラスさん。相変わらず、今日も死にそうな顔してるな。大丈夫かい?」
グドラス「うるさい、黙れ、殺すぞ。心配ありがとう。私は平気だ」
男2「グドラスさん、リンゴ持って行けよ。今日は本当に暑いし、喉乾いたろう?」
グドラス「ふん、まずそうなリンゴだ。感謝する。いただこう」
グドラスがリンゴを受け取り、食べながら歩く。
グドラス「ふん、馬鹿な人間どもめ。この私が魔族総司令グドラスと知らずに気軽に話かけてくるとは。私がその気になれば、一瞬でこの場所を灰塵に帰すことができるというのに。……おっと、危ない。通り過ぎるところだった」
グドラスが立ち止まり、ドアを開く。
木がきしむような音をさせながら開くドア。
店の中に入るグドラス。
店長「やあ、グドラスさん、いらっしゃい」
グドラス「気軽に話かけるな。こんにちは、店長。この前、注文していたものは届いているかい?」
店長「ああ、ちょうどさっき、届いたばかりだよ。えっと、ちょっと待ってくれよ」
グドラス「早くしろ、グズ野郎。いつもすまないな。色々と手間をかけさせてしまって」
店長「いや、いいんだよ。お客の要望に応えるのがお店なんだから」
グドラス「ほう、人間のくせになかなか良いことを言うな。痛み入る」
店長「あった、あった。これだこれだ。はい、『女の子の口説き方十選』と『思春期の女性の気持ちが猿でも分かる本』、そして『糞な上司とうまくやっていく方法』の三冊だったね」
グドラス「おお、それだそれだ。いや、本当にあるものなのだな、『糞な上司とうまくやっていく方法』」
店長「グドラスさんは、本当に本が好きだねぇ。この街でここまで本を読むのは、グドラスさんくらいだよ」
グドラス「ふん、半分は私が読むのではないのだがな。それにしても、この前買った『クズの思考は変えられない』と『今更聞けない人間の常識100』は本当に面白かった」
店長「ははは。そう言ってもらえると、仕入れた方は嬉しいよ」
グドラス「これからも、よろしく頼む。で、これが今回の希望する本のリストだ」
店長「はいよ。仕入れておくよ」
グドラス「当然だ。よろしく頼む」
本を受け取り、店を出るグドラス。
再び町の喧騒。
その中を歩くグドラス。
グドラス「……そうだ。ついでに買い出しもしておくか。部下にお土産も買っていくか。この前は物凄く喜んでたからな。まったく……『部下に気に入れる上司の条件』に書いてあった通りだった。まるで預言書だな」
おばあさん「やあ、グドラスさんじゃないか。少し家に寄っていかない……痛たた」
グドラス「よぼよぼのババアが。私を家に招くなど、恐れ多いことなのだぞ。大丈夫か?」
おばあさん「また腰をやっちゃってねえ。痛たた……」
グドラス「まったくババアのくせに、無理をするからだ。……ほら、これを飲むといい」
グドラスが小瓶を取り出しておばあさんに渡す。
グドラス「それと、荷物を寄越せ、持ってやる」
おばあさん「いつもすまないねぇ。グドラスさんには世話になりっぱなしで。たまには私に恩返しをさせておくれよ」
グドラス「ふん。こんなもの恩に感じる程度のものではない。ババアは黙って、自分の腰の心配でもしてるのだな」
おばあさんとグドラスが並んで歩く。
おばあさん「ホント、あんたほどの好青年はこの街にはいないよ」
グドラス「ふん、当然だ。私は魔王と同様に唯一無二の存在だからな」
おばあさん「ねえ、グドラスさん。あんた、いい人はいないのかい?」
グドラス「いい人?」
おばあさん「恋人さね。どうだい? もしいないのだとしたら、私の孫娘を貰ってくれないかい?」
グドラス「私が人間の小娘と? 冗談も休み休み言え。私なんかよりも、もっと相応しい人間が現れるはずだ。それに、本人の意思というものもあるだろう」
おばあさん「はあ……。ダメかい。まあ、あんたほどになりゃ、言い寄る娘さんも多いだろうし、仕方ないかねぇ」
グドラス「ああ、そうだ。ついでに聞いておこう。この街にいるソフィアという娘がいるだろう? ご存知か?」
おばあさん「ソフィアちゃんかい? ああ、もちろんさね。グドラスさんと同じくらい、あの子も有名だからねぇ」
グドラス「あの娘、恋人はいるのか?」
おばあさん「なんだい、グドラスさんも、ソフィアちゃんを狙ってるのかい? 確かに、お似合いかもねぇ」
グドラス「いいからさっさと答えろ。いや、狙っているのは私ではないんだがな」
おばあさん「言い寄る男は多いって聞くけど、お付き合いしているって話は聞かないね」
グドラス「そうか。情報、感謝する」
おばあさん「あら、家に着いたわ。荷物ありがとうね」
グドラス「こんな重い物を持つから、腰を痛めるのだ。今度から荷車を使うか、私に声をかけろ」
おばあさん「本当に、ありがとう」
そのとき、隣の店のドアが開く。
男3「おお、グドラスさんじゃねーか。どうだい、一緒に飲まないかい?」
グドラス「酔っ払いが。昼から酒か?」
店主「まあ、固いこと言わないでさ。飲んでいってくれよ。この前の礼もしたいし。ビール冷えてるよ」
グドラス「(喉をゴクリと鳴らし)……よかろう。少しだけ寄っていってやろう」
時間経過。
グドラスが部屋に入ってくる。
そして、立ち止まる。
グドラス「魔王様。ご命令通り、人間どもの町、ホープスへの侵略準備ができました。あと、こちらが要望されていた、『女の子の口説き方十選』と『思春期の女性の気持ちが猿でも分かる本』です」
魔王「ご苦労だったな。魔族総司令グドラスよ。では、今回も、侵略のプランを聞かせてもらおう」
グドラス「……」
魔王「どうした?」
グドラス「街への侵略は少々、時期尚早ではないでしょうか?」
魔王「なんだと?」
グドラス「争うよりも、人間たちと和平を結ぶというのはいかがでしょう? 人間からは得る物も多いです。本もしかり」
魔王「黙れ! 貴様、魔族の本分を否定するつもりか?」
グドラス「申し訳ございません!」
魔王「街を侵略するのは確定事項だ。貴様は計画通りに、町を攻めればよい」
グドラス「……承知、いたしました」
時間経過。
街の喧騒。
だが、突如、悲鳴が響き渡る。
女「きゃー! 魔物よ!」
男1「ひえっ! 逃げろ、逃げろー!」
魔族たちの咆哮が響き渡り、人々が逃げ惑う様で大混乱になっている。
グドラス「いいか、お前たち。建物は壊していいが、人は殺すな。今後、貴重な労働力になるのだからな」
魔族たちの返事のような咆哮。
グドラス「あと、ゆっくりだ。ゆっくり進め」
再び、魔族たちの咆哮。
グドラス「人間ども! ソフィアという娘を連れて来い! 早く!」
ソフィア「待ってください! 私はここにいます。だから、これ以上、町を襲わないでください」
グドラス「今日こそ、一緒に来てもらうぞ」
勇者「待て! 魔族ども!」
グドラス「やはり来たな、勇者よ」
ソフィア「勇者様!」
勇者「そ、ソフィアちゃん、今日も格好いいところみせるからね」
グドラス「今日こそは、貴様を滅ぼしてくれる」
勇者「ふん、やれるものならやってみろ! いくぞ」
グドラス「うおおおおお!」
切り結ぶ音。
グドラス(N)「よし、勇者が現れたから、これで帰る大義名分が出来たな。あとはいつも通りやられるだけ。……やれやれ。魔族総司令官というのも大変だな」
終わり
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