【ボイスドラマシナリオ】魔王と勇者は忙しい4

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■概要
主要人数:3人
時間: 10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、コメディ

■キャスト
グドラス
魔王 /勇者
ピギー

■台本

グドラス(N)「それはいつもの魔王様の気まぐれのような発言から始まった」

魔王「……最近、たるんでないか?」

グドラス「と言いますと?」

魔王「勇者にあっさりとやられ過ぎじゃないか? それに戦わずに逃げるとか、論外だと思うぞ」

グドラス「……勇者の力は強大です。まともに当てて、こちらの兵力を下げるわけにはいきません」

魔王「勇者と戦って、死者を出したことはないのだろう? であれば、全軍投入してもいいのではないか?」

グドラス「今までがそうだったといって、次もそうだとは限りません。総司令の立場から言わせていただくと、敵に頼った作戦を実行するわけにはいきません」

魔王「いや、ちゃんと手加減するから大丈夫だって!」

グドラス「……どういうことでしょう?」

魔王「あ、いや……なんでもない。気にするな。それより、どうしたものかな」

グドラス「魔王様は何を気がかりにされているのですか?」

魔王「もう少し熱いバトルをしたいんだよ。手こずった上での勝利。それが王道というやつらしい。傷つく勇者を心配するヒロイン……。ギリギリで勝つ勇者。そんな勇者を看病し、ヒロインと勇者の心は通い合う。そして、二人は結ばれていくんだ」

グドラス「……魔王様、なぜ、勇者視点でお話をされているのですか?」

魔王「ん? ああ、それは、その、最近読んだ本に影響されてだな。まあ、なんというか、とにかく勇者にやられっぱなしだから、たまにはその、仕返ししたいじゃないか」

グドラス「そのような子供じみた感情で軍を動かすわけにはいきません」

魔王「(小声で)ちっ、面倒くさい奴だな」

グドラス「え? 何か言いましたか?」

魔王「何でもない。こちらの話だ。では、こうしたらどうだ? 軍を動かせないというのなら、強い魔族を一体作るというのは?」

グドラス「新しい魔族を誕生させるということですか? いい考えだと思いますが、千年ほど時間がかかってしまいますが……」

魔王「かかり過ぎだな。では、今いる魔族を強くすることはできないのか?」

グドラス「魔族というのは、種族によって強さが決まっていますからね。強くなると言っても、子供が成熟する程度の話になります」

魔王「それだと、結局、数の上での強さが増すだけになるってことか」

グドラス「はい」

魔王「訓練……できないものか?」

グドラス「 訓練 、ですか?」

魔王「ほら、修行することで強くなる的な」

グドラス「人間のようにですか? どうでしょう? 我々、魔族は体を鍛えるなどしませんからね」

魔王「確かに、俺も生まれたときとあんまり強さは変わらないからな」

グドラス「ですので、違う方法を……」

魔王「まあ、ちょっとやってみて」

グドラス「は?」

魔王「もしかしたら、魔族でも鍛えたら強くなるかもしれないし。とりあえず、やってみて」

グドラス「……」

  場面転換。

  魔族たちが大勢集まっている。

  グドラスが歩いてきて、魔族たちの前に立つ。

グドラス「先ほど軍団長から話があったかと思うが、今回、魔族の力の底上げを目的として、訓練による増強を目指す。だが、これは前代未聞のことであるため、効果は確実に出るというわけではない。つまり、訓練は全て無駄に終わる可能性がある。というよりは、そちらの可能性の方が高い」

  魔族たちがザワザワと動揺し始める。

グドラス「なので、今回は志望者を募りたい。我こそはと思う者は、この場に残ってくれ。以上、解散!」

  場面転換。

グドラス「の、残ったのは、お前だけか?」

ピギー「スライム族のピギーでございます。この度は、恐れ多くも志願させていただき……」

グドラス(N)「少なくとも千体は残るかと思っていたが、まさかの一体、しかも魔族としては一番最下級であるスライム族のさらに、成熟していない子供だ。基本、魔族は怠け者で無法者。ほとんど本能で動く。こんな成果も得られないような訓練をしようと思うはずがないわけだ……」

ピギー「……ス様、グドラス様! 大丈夫ですか?」

グドラス「ああ、すまない。絶望感で目の前が真っ暗になってただけだ」

ピギー「志願したのは僕だけですからね」

グドラス「これが人間だったら、上司の気を引く為に、たとえ、無駄だとわかっていても志願する者がいるんだがな……」

ピギー「グドラス様は、人間のことに詳しいんですね」

グドラス「まあ、な」

ピギー「それでは、グドラス様、僕はどうすればいいのでしょう?」

グドラス「ん? そうか、そうだったな。漠然と訓練とは言ったが、内容を詰めていなかったな」

ピギー「いつもの、隊列を組むれんしゅうですか? それとも、兵法の勉強でしょうか?」

グドラス「いや、それはあくまで集団を統率するためのものだ。今回は個人の力をあげるためのものだからな。性質は全く違うものになるはずだ」

ピギー「では、どんなことをするんですか?」

グドラス「ふむ……。仕方がない。ここはまた、人間の知恵を借りるとするか」

ピギー「人間の? えっと、それは人間の町に行くということですか?」

グドラス「本来は、人間が営んでいる、道場というものに通うのが一番なんだろうがな。いかんせん、お前は魔族だからな。道場に通うのは無理だな」

ピギー「では、どうしたら……?」

グドラス「そこで、この『マンガ』という書物の出番だ」

ピギー「マンガ……ですか?」

グドラス「絵によって、物語を表現するという、なんとも面白い試みの書物だ。この中にはバトルものという戦闘をメインとした話が載っている。少し、読んでみよう。そこから何かしらのヒントが得られるかもしれない」

ピギー「はい!」

グドラス(N)「その日は結局、マンガを読んで終わってしまった。読んでいるうちに、完全に物語に没頭してしまい、単に終わりの三十巻までを読み切ってしまったのだ。……今度、街に行ったときは、新しいマンガを発注しておこう」

ピギー「やあああああ!」

  ビタンと壁にぶつかる音が響く。

グドラス「ピギー、何をしているのだ?」

ピギー「あ、グドラス様! 特訓をしてました。昨日読んだマンガに倣って」

グドラス「ほう?」

ピギー「まずは、己の限界まで身体を追い詰める。そこから覚醒をして、真なる力を引き出すんです」

グドラス「うむ。よくわからないが、とにかく凄そうだ。頑張れるか? ピギー」

ピギー「お任せください!」

グドラス(N)「こうして、ピギーの特訓が始まった。特訓は苛烈を極め、まさに生死を掛けたものになる。……そして、それから一か月が経った」

ピギー「はあああああああ!」

  ピギーの体から炎が出る。

グドラス「いいぞ、ピギー。身体から出た炎を維持しつつ、次の技だ」

ピギー「やああああああ!」

  ピギーが炎を纏ったまま高速移動する。

グドラス「おおお!」

グドラス(N)「それはまさに奇跡だった。魔法を使えないはずのスライム族が炎を出現させ、身にまとい、その状態で相手に突っ込む。それは、中級の攻撃魔法に匹敵する威力だ」

ピギー「グドラス様、やりました!」

グドラス「よくやったぞ! ふふふ。これで勝てる。やるぞ、ピギー」

ピギー「はい!」

  場面転換。

勇者「……二人しかいないが、いいのか?」

グドラス「ふっふっふ。勇者よ。涼しい顔をしていられるのも、今の内だ。通常の二倍、いや十倍は強くなったピギーの力を思い知るがいい! 行け、ピギー」

ピギー「はあああああ!」

  ピギーが炎を纏う。

勇者「へえ……」

ピギー「やああああああ!」

  ピギーが炎を纏って、勇者に突っ込む。

勇者「ふん!」

ピギー「あっ!」

  ペチと叩き落され、気絶するピギー。

ピギー「きゅう……」

勇者「で?」

グドラス「しまった……」

グドラス(N)「確かにピギーは強くなった。だが、それはあくまでスライム族での話だ。勇者とは比べ物になるはずがなかった。私たちはきっとマンガを読んで高揚してたのだろう。特訓すればどんな強敵も倒せると。現実はやはり、厳しいのだな……」

終わり

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