死して二人を繋ぐもの
- 2019.06.06
- 映像系(10分~30分)
■ジャンル
アニメ用、時代劇ファンタジー、シリアス
- 教会
忍装束姿の天羽隼人(10)と、同じく忍び装束姿の華月遥(10)が、神父の前に立っている。
神父「天羽隼人」
隼人「はい」
神父「華月遥」
遥「はい」
神父「二人は健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、相手を殺めることを誓いますか?」
隼人「誓います」
遥「誓います」
神父「よろしい。それでは誓いの儀式を」
隼人と遥は親指を噛み、血を出した後、お互いの親指をくっつける。
神父「これで二人は死で繋がる、『忍び洗い』となりました。18歳までに達成しなさい」
隼人「はい!」
遥「はい!」
- 村の外観
江戸時代の村。
農業を営む人々や道で野菜などを売っている人、遊んでいる子供たち。
- 野原
村人の格好で寝ころんでいる隼人(17)。
晴天の空には鳥が優雅に飛んでいる。
隼人「今日も平和だねぇ」
そこにクナイが三本飛んでくる。
余裕で、手で弾く隼人。
遥「はあああああ!」
上から刀を隼人に突き立てようと滑空してくる忍び装束の遥。
隼人「はあ……」
寝返りを打つことで、その攻撃を躱す隼人。
遥「ちっ!」
地面から刀を抜き、ハヤトに切りかかるが、転がって躱す隼人。
遥「はあ……はあ……はあ……」
隼人「終わったか? なら、帰れよ。せっかく人がいい気分で寝てるんだからさ」
遥「ま、まだよ。これからが本番なんだから」
隼人「本番ねぇ……」
遥が胸の前で両手で印を結ぶ。
隼人「おいおい。こんなところで火遁か? 山火事になるぞ」
遥「……」
印を変える遥。
隼人「お前、風遁は苦手だろ。紙だって切れないんだからさ」
遥「……お色気の術」
遥が装束の肩の部分を下げて、肩を露出する。
隼人「ぶほっ!」
鼻血を噴き出して倒れる隼人。
隼人「む、無念……」
それを見下ろす遥。
遥「……馬鹿」
- 家
床の上で寝ている隼人が目を覚ます。
隼人「……」
遥の声「起きた? 起きたなら、手伝ってよ」
視線を移すと、遥が台所で料理している。
隼人「ああ」
隼人が立ち上がり、遥の横に並ぶ。
大根を見事な包丁さばきで皮を剥く隼人。
隼人「なあ、なんで止め刺さなかったんだ?」
遥「あのねぇ。鼻血拭いて気絶してた相手を殺して、一人前の忍びに認められるわけないでしょ」
隼人「そうかぁ? 色気はくノ一の武器の一つだ。十分認められるだろ。なんなら、もう少し露出してくれてもいいんだぞ」
遥「ばーか。あんたは、ちゃんと私の忍術で殺すんだから」
隼人「遥は忍者になりたいのか?」
遥「……当たり前じゃない」
隼人「今は徳川泰平の世だぞ? 忍者になってどうすんだよ。平和な時代、俺たちみたいな奴は逆に邪魔になる気がするけどな」
遥「平和な世だからこそよ。平和は得ることよりも維持する方が難しいんだから」
隼人「立派な考えだけどさ。俺は俺と大切な人の平和を守るために命を賭けたい。見ず知らずの民のために命は捨てられねえよ」
遥「なんであんたみたいな奴が、天性の才をもってるんだか。真面目に修行してれば、歴代のどの忍びだって抜けたのに」
隼人「興味ねえよ。誰が一番だろうと。俺は守れるだけの力があれば、それでいい」
遥「なに、自分勝手なこと言ってるのよ。弱い者を守るのが強い者の使命よ」
隼人「にしても、ホント、ジジイたちはエグイことしてくれるよな」
遥「なにが?」
隼人「普通に考えてみろよ。10歳の頃から一緒に暮らしてる相手を殺せって、頭おかしいだろ。情が湧くに決まってるじゃねーか」
遥「まあ、そういう風習だからね。鉄の心でどんな任務もこなす忍者を作るには、この方法が一番って聞いたことがあるわよ」
隼人「くっだらねー。大切な人を殺して、何が忍びだよ。こんなの間違ってる」
遥「ちょっと、隼人。外でそんな発言してないでしょうね? 怒られるの、私なんだから」
隼人「……遥は、本当にそれでいいのか?」
遥「なにがよ?」
隼人「くノ一になったら、自分の人生なんてなくなるようなもんだ。任務漬けの毎日。……命令があれば、どんな相手だろうが、体を使って惑わす。下手をすれば子を産めなんて言われることだってあるんだぞ?」
遥「仕方ないじゃない。それが忍びなんだから」
隼人「俺は嫌だ」
遥「……隼人?」
隼人「お前が、望んでもいないのに誰かに抱かれるなんて、嫌だ」
遥「ちょ、なに言ってるのよ」
隼人が遥を抱きしめる。
遥「は、隼人?」
隼人「俺は遥が好きだ。お前には幸せになってほしい」
遥「(微笑んで)大丈夫だよ」
隼人「え?」
隼人が遥の顔を見る。
遥「私は隼人の手に掛かって死ぬ。だから、くノ一にはならない。それに、好きな人の手で死ねるなんて、幸せだよ」
隼人「……遥」
遥「隼人が歴代で一番の忍びになれば、あの世でも自慢できるしね。忍び洗いの相手が、あの伝説の隼人だ、ってね」
隼人「……」
遥「ほら、放して。ご飯食べるわよ。私、お腹減っちゃった」
隼人「ああ……」
遥を離す隼人。
- 同(夜)
並んで寝ている隼人と遥。
隼人の目は開いていて、窓から月を見ている。
むくりと起き上がる隼人。
- 森
血だらけの隼人を呆然と見ている遥。
遥「……どうして?」
隼人「言っただろ? お前には幸せになって欲しいって」
遥「だからって……」
隼人「本当はさ、里を全滅させて、俺とお前の二人で過ごすっていうのを狙ってたんだけどさ。……さすが忍者の里だ。一人だと落すのがやっとだった。あーあ、お前の言う通り、ちゃんと修行しておくんだった」
遥「嫌! どうして!? 私、隼人のためだったら、死ねたのに」
隼人「はは……。俺も同じ気持ちさ」
遥「お願い、死なないで……」
隼人「すまねえ。その願いは叶えれそうにない」
遥「隼人……」
隼人「頼む。お前だけは……幸せになってくれ」
遥「ダメだよ。隼人がいないと、私、幸せに何てなれない」
隼人「大丈夫さ。お前なら……きっと」
遥「……」
隼人「忍び洗いは、相手の命をもって人生を洗う……。俺の命で、お前の人生を洗うんだ」
遥「……隼人」
遥(N)「こうして私は隼人のおかげで自由になれた。でも、私は一つだけ、隼人のお願いを破った。……いや、隼人が死んだ時点で、叶えることは無理だった。……そして、それから二十年後。忍びの里潰しの忍者が現れ、忍びは衰退の一途を辿ることになったのだった」
終わり
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