【声劇台本】僕は結婚したくない

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◆補足
この作品はオリジナル小説『僕は結婚したくない』のボイスドラマとなっております。
小説の方を読んでいただけると、より楽しんでいただけます。
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■関連シナリオ
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■概要
人数:3人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代劇、学園、コメディ

■キャスト
千金良イノリ
青手木シオ
月見里カヤ

■台本

イノリ(N)「それは、本当に唐突なできごとだった。あまりの衝撃に僕は、頭が真っ白になったくらいだ。そして、このことがきっかけで、僕はさらに追いつめられることになったのだった」

  学校のガヤ。

カヤ「イノリん、あのね。今度の土曜日、デートしてくれないかな?」

イノリ(N)「この人は月見里カヤさん。僕がずっと思い続けてきた人。で、今は一応、その、僕の彼女ということになっている……はずだ」

イノリ「……えっと、その……」
カヤ「できれば、その……二人っきりで」

イノリ(N)「うーん。なんだろう。普通、デート言えば二人でするものなんだろうけど……。このへんの感覚が、少しズレてしまっている気がする。とはいえ、月見里さんの方から誘ってくれるなんてそうそうないことだ」

イノリ「うん! もちろん、いいよ!」
カヤ「ホント? やったー! ありがとう! じゃあ、土曜日の10時に座敷猫の像の前で待ち合わせね」
イノリ「うん、わかった!」

  カヤが走り去っていく。

イノリ「……いよっしゃー! 月見里さんとデートだー!」

イノリ(N)「とはいえ、一つ大きな問題をクリアーしなければならない」

  イノリの家。

イノリ「あのさ、青手木。僕、今度の土曜日、出かけるから」
シオ「わかりました」

イノリ(N)「で、今、僕の目の前に座っているのが、青手木シオ。あることがきっかけで、青手木とは婚約者という関係になっている。いや、ホント、強引かつ一方的にされたという感じだが」

イノリ「……止めないのか?」
シオ「私がイノリさんの行動に干渉なんてしません。私はただ、受け入れるだけです」
イノリ「そ、そうか……。それなら、まあ、いいんだけど。おっと、もうこんな時間か。そろそろ帰ったらどうだ?」
シオ「今日は遅いので、泊まっていきます」
イノリ「お願い、止めて」

イノリ(N)「月見里さんとは恋人関係で、青手木とは婚約者という関係。このなんとも言えない意味不明な状況だけでもヤバいのに、これ以上、月見里さんに誤解されるようなことはしたくない。それでなくても、土曜はデートなんだからさ」

シオ「ですが、遅い時間に一人で外を歩くなとおっしゃったのはイノリさんですが?」
イノリ「タクシーを呼べばいいじゃねーか」
シオ「お金がありません」
イノリ「いやいやいや。お前んち、この町で一位、二位を争うほどの金持ちじゃねーか」
シオ「お金持ちなのは母で、私ではありません」
イノリ「ちぃ、面倒くさい奴め。わかった。じゃあ、僕が青手木の家まで送るよ」
シオ「……では、イノリさんが私の部屋に泊まるということですか?」
イノリ「なぜそうなる! それに、しれっとお前の部屋に泊めようとするなっ! 仮にお前んちに泊まるとしても、お前の部屋で寝ることはない!」
シオ「しかし、私を送ったあと、イノリさんが一人で帰るのは危険です」
イノリ「大丈夫だよ。僕を襲おうなんて酔狂な人間はいないって」
シオ「……ですが。そうだ、心配ですので私も一緒に行きます」
イノリ「それだと、単にお前んちに散歩に行っただけになるじゃねーかよ!」

イノリ(N)「結局、この日はメイド長さんに電話して、車で迎えに来てもらったのだった。……そして、土曜日の朝を迎える」

  イノリとシオが歩いている。

イノリ「……なあ、青手木」
シオ「なんでしょう?」
イノリ「なにしてんの?」
シオ「歩いてます」
イノリ「あー、すまん。言い方を間違った。なんで、着いてくんの?」
シオ「私の心はいつもイノリさんと共にあります」
イノリ「あー、うん。百歩譲って、心だけならいいとして、体もついてきてるぞ?」
シオ「私、幽体離脱ができないので……」
イノリ「あのさ、僕の行動に干渉しないんじゃなかったのか?」
シオ「え? 私、イノリさんの行動に干渉していませんよ。私が勝手についていってるだけです」

イノリ(N)「面倒くせー! とっても面倒くせー! まあ、青手木のこの性格は今に始まったことじゃないけど。というより、この性格のせいで、僕は今、こんな状況に置かれることになったのだけどさ……。とはいえ、このまま青手木を連れて行ったら、いつもと同じになってしまう。なんとか撒かなくては」

  イノリが走り始める。

イノリ「うおおお! いきなり、ダッシュ! どうだ! ついてこれるか? って、普通についてきてる!」
シオ「私の心は常にイノリさんと共にあります」
イノリ「くそ! そういえば、スポーツも万能だったな。だが、男として、ここは負けるわけにはいかない! うおおおおお!」

  場面転換。

イノリ「む、無念……(倒れこむ)」
シオ「(息一つ乱さずに)おんぶしましょうか?」
イノリ「……これ以上、敗者にムチ打たないで」

イノリ(N)「やばい。どうしよう。もう、10時になってしまう。……あ、そうだ!」

イノリ「なあ、青手木。一つ頼みがある。実は、僕、家に財布を忘れてきてしまったんだ。取ってきてくれないか?」
シオ「わかりました」

  シオが行ってしまう。

イノリ(N)「よし、これで今日一日、青手木は僕の家を捜索し続けるはずだ。まあ、家の中が恐ろしいことになるだろうが、しかたない」

  場面転換。
  街中のガヤ。

イノリ「ごめん、月見里さん。お待たせ」
カヤ「イノリん! 来てくれたんだね。さ、行こうか。今日はいっぱいいっぱい楽しもう!」
イノリ「う、うん」

  場面転換。
  遊園地のガヤ。

イノリ「遊園地?」
カヤ「そ。新しい方のは、行ったことないからイノリんと来たいと思ってたんだ。……最後にどうしても」
イノリ「え?」
カヤ「あ、ううん。なんでもない! じゃあ、今日一日、遊び倒しますか!」

イノリ(N)「一瞬見せた、月見里さんの悲しそうな顔が気になったが、僕はそのことを聞くことができなかった。そして、それから二時間、僕たちはいろいろな乗り物に乗って、楽しんだ」

カヤ「いやー。楽しかったね。そろそろ休憩がてら、なにか食べよっか」
イノリ「あ、僕、ちょっとトイレに行ってくる」
カヤ「じゃあ、先にレストラン行ってるね」
イノリ「わかった」

  イノリが歩き出す。

イノリ「いやあ、やっぱり二人だけっていうのはいいなぁ。デートはこうでなくっちゃ。いつもは青手木もいるからな」
シオ「イノリさん」
イノリ「うお! 青手木! なんでここに!」
シオ「私の心はいつもイノリさんと共にありますから」
イノリ「なんか、生霊って感じだけどな」
シオ「お財布が見当たらなかったので、買いました。中身がいくら入っていたかわからなかったので、とりあえず百万入れておきました」
イノリ「とりあえずで入れる金額じゃねえ。それにタクシー代もないって言ってたはずなのに」

イノリ(N)「とはいえ、ヤバい。こんなに早く戻ってくるとは思わなかった。ここはなんとか、しなくては」

イノリ「本当に悪い、青手木。実はパンツを履いてくるのを忘れたんだ。家から取ってきてくれないか?」
シオ「私のをお貸しするのではダメでしょうか?」
イノリ「ダメに決まってんだろ! いろいろヤバいよ! って、ことでツチノコ柄のを頼む」
シオ「わかりました」

  シオが行ってしまう。

イノリ「よし、俺はツチノコ柄のパンツなんて持ってないし、仮に買うとしても見つけるのに相当時間がかかるはずだ」

  場面転換。

イノリ「お待たせ」
カヤ「もー、お腹ペコペコー。たくさん食べて、午後も遊びまくりだー!」

イノリ(N)「こうして、何度か青手木の襲来を回避しつつ、一日無事に月見里さんとデートをすることができた」

カヤ「今日はありがとう。本当に楽しかった」
イノリ「うん。僕も」
カヤ「(涙ぐんで)最後に、とっても楽しい思い出ありがとうね。私、絶対忘れない」
イノリ「……最後?」
カヤ「うん。あのね、親戚の都合で、私、引っ越すことになったの」
イノリ「そんな……」
カヤ「だから、もうイノリんに会えなくなる」
イノリ「……行くよ」
カヤ「え?」
イノリ「どんなに遠くたって、僕は月見里さんに会いに行くよ」
カヤ「……イノリん」
イノリ「どんなに離れてても、僕の心は月見里さんの傍にいるよ」
カヤ「ふ、ふえーん。イノリーん!」

イノリ(N)「僕は泣き続ける月見里さんを抱きしめたのだった」

カヤ「……ここ、次の住所」
イノリ「ありがとう。絶対に会いに……あれ?」
カヤ「……どうしたの?」
イノリ「この住所……隣町だよ?」
カヤ「……へ?」

  場面転換。
  学校のチャイム。

カヤ「おっはよー、イノリん!」
イノリ「おはよう、月見里さん」
シオ「イノリさん、早く行かないと遅刻します」
カヤ「もう、シオっち! もう少しくらいイノリんと話させてよ」
シオ「イノリさんは私の婚約者です。勝手に話すことは許されません」
カヤ「イノリんは私の彼氏だー!」
イノリ「……」

イノリ(N)「こうして、また、いつもの日常が戻ってきた。そして、この状況はいつまで続くのだろうか……」

終わり

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