【声劇台本】あなたと過ごした思い出

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■概要
人数:5人
時間:20分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
サラ
ミーア
ジェイク
モリス
その他

■台本

父親「うっ!」

母親「……サラ。逃げて」

サラ(子供)「パパ! ママ!」

場面転換。

サラ(N)「私の中に残っている、一番古い記憶はジェイクの困ったような微笑みだ。確か、あれは5歳くらいのことだったと思う。逆に言うと、5歳以前のことはあまり覚えていない。どういう経緯で私は両親から捨てられたのか、どんな理由でジェイクが私を引き取ったのか。まったくと言っていいほど思い出せないし、かと言ってジェイクに聞こうとは思わない。私はジェイクをお父さんだと思っているし、ジェイクも私のことを娘だと思ってくれている。それだけで十分。これ以上ないほど幸せだ」

サラとミーアが並んで歩く。

ミーア「ねえ、サラは進路どうするの?」

サラ「うーん。就職かな……」

ミーア「え? 大学は? いかないの?」

サラ「うん。進学は考えてないかな」

ミーア「えー、なんか勿体ない。サラなら大学選び放題なんじゃないの?」

サラ「いやあ、もう勉強はいいかな。早く働いてみたいって言う思いの方が強いし」

ミーア「うわー。なんか、余裕の発言。なんか、むかつくー」

サラ「あはは。それよりミーアは? どこの大学を志望してるの?」

ミーア「私は短大かな。さすがに4年間大学に通うお金ないし」

サラ「そっか……」

ミーア「ま、行かせてもらえるだけ、幸せだけどね」

サラ「うん、そうだね」

そのとき、後ろから男が走ってくる。

モリス「ひったくりだ! その男、捕まえてくれ!」

ミーア「え?」

そして男が2人の横を走り抜けていく。

サラ「ミーア、私のカバン持ってて!」

ミーア「あ、ちょっと、サラ!」

サラが走り出す。

男「はっ! はっ! はっ!」

サラ「待ちなさい!」

男「くそっ! ……あっ!」

男が急に立ち止まる。

サラ「残念、行き止まりだったみたいね。観念して、大人しくカバンを返しなさい」

男「ふん! お前こそ、怪我したくなかったら、そこをどきな」

ナイフを出す男。

サラ「はあ……。素直に返せば、痛い思いしなくて済むのに」

男「うるせー!」

男がナイフを振りかざして襲い掛かかる。

サラ「まったく……」

男「なっ! ……ぐえ!」

男が簡単にサラに投げられる。

サラ「ふう……」

パチパチと拍手がする。

モリス「素晴らしいお嬢さんだ。ひったくりを捕まえてくれて、感謝するよ」

サラ「これくらい大したことないですよ」

モリス「ふむ。お嬢さんは何か特殊な訓練を受けているね」

サラ「え?」

モリス「素人の動きではなかったからね。立場上、ボディーガードを何人も見てきているから、目だけは肥えているんだよ。これまで100人以上のボディーガードや特殊工作員を見てきたが……その中でもお嬢さんはぴか一だ」

サラ「はあ……」

モリス「初対面で、不躾なお願いなのだが、私のボディーガードとして働いてみる気はないかい?」

サラ「え? あの……」

モリス「ああ、急な話で済まない。突然言われても困るだろう。名刺を渡しておくから、気が向いたら訪ねてきてくれたまえ」

モリスがサラに名刺を渡して、去っていく。

入れ替わるようにミーアが来る。

ミーア「サラ、大丈夫だった? って、何もってるの?」

サラ「名刺。よかったら、働かないかって」

ミーア「ふーん。……って、モリス・ハワードって、ハワード財団の社長じゃない!」

サラ「え? ミーア知ってるの?」

ミーア「逆に知らない方がビックリだよ。世界的に有名なお金持ち。一代で会社を大きくしたやり手みたいよ」

サラ「へー」

ミーア「でも、他の会社を買収したり、結構、強引な経営みたい。恨まれることも多いって話だよ」

サラ「ああ、それでか」

ミーア「でも、そんな人がサラをスカウトするなんて、どういうつもりなんだろね? てか、なんで、スカウトされたの?」

サラ「え? あー、えっと……お茶くみ」

ミーア「は?」

場面転換。

ドアを開けて、部屋に入ってくるサラ。

サラ「ただいま」

ジェイク「サラ……。さっき、先生が来て、娘を大学に進学するよう説得してくれって言われた」

サラ「……もう、先生もしつこいなぁ」

ジェイク「金のことなら心配するな」

サラ「ううん。違うの。もう勉強するのは嫌になっちゃってさ」

ジェイク「サラ。お前には自由に生きて欲しい。金のことなら父さんが何とかする。だから、お前が望む進路に進んでくれ」

サラ「だーかーら。これ以上、勉強は勘弁なんだって。あっ! そうだ。私ね、もしかしたら就職決まるかも」

ジェイク「就職? どんな仕事だ?」

サラ「ボディーガード。ジェイクに教えてもらった技術が役にたったって感じね」

ジェイク「……」

サラ「そうだ、ジェイク。久しぶりに組手やらない? ちょっと体動かしたくて」

ジェイク「俺は……間違えてばかりだな」

サラ「え?」

ジェイク「サラ。お前には普通の女の子の人生を歩んで欲しい」

サラ「……自由に生きろって言ったの、ジェイクでしょ?」

ジェイク「……やはり、俺なんかがお前を引き取るべきじゃなかった。今更、まともに生きようなんて、考えが甘かった」

サラ「ちょっと、ジェイク! 言っていいことと悪いことがあるよ! ジェイクが私を育ててくれたことに感謝してるし、良かったって思ってる!」

ジェイク「サラ。お前は俺にとっての全てだ。お前が幸せになるためなら、どんな犠牲でも払う」

サラ「止めてよ! 私はもう十分幸せだってば!」

ジェイク「すまない、サラ。二、三日、家を空ける」

サラ「え? どこ行くの?」

ジェイク「……」

立ち上がり、部屋を出ていくジェイク。

サラ「もう……」

場面転換。

モリス「いやあ、来てくれて感謝するよ。今、人手が足りなくて、困っていてね」

サラ「あ、あの……ボディーガードって言われても、何をすればいいのかわからないんですけど……」

モリス「基本的に私と一緒にいて、何かあったら対処してくれればいい」

サラ「わ、わかりました」

モリス「さっそくで悪いのだが、今夜からお願いしたい。重要な取引があって、お得意様が集まるんだ。なにかいるものがあったら、秘書に言ってくれ。すぐに用意させるから」

サラ「は、はい……」

場面転換。

モリス「今日はありがとうございました。よい取引ができたこと、嬉しく思います」

中年男性「いや、これからも引き続き……」

バンと電源が切れる音がする。

モリス「な、なんだ、停電? 誰か、早く予備電源に……」

サラ「伏せてください!」

モリス「おわっ!」

サラに押されて倒れ込むモリス。

同時に、一発の銃声。

中年男性「うっ!」

撃たれて倒れる中年男性。

モリス「あ、ああ……」

サラ「静かに! すでに侵入されてます」

男1「あっ!」

男2「うっ!」

次々と撃たれて、倒れていくボディーガード達。

サラ「すごいプレッシャー。でも……この感じ、どこかで……」

男3「うあっ!」

男4「ぐっ!」

今度はナイフで切り裂かれていくボディーガード達。

モリス「お、おい、誰か、くせ者を早く始末してくれ!」

サラ「モリスさん。……残ってるのは、もう私達だけみたいです」

モリス「そ、そんな……」

暗殺者「……」

モリス「その……狐の面は……サイレントキラー……」

サラ「知ってるんですか?」

モリス「伝説の暗殺者だ。10年以上に足を洗ったと噂されていたんだが……」

サラ「狐の面……暗殺者……」

記憶がフラッシュバックする音。

父親「うっ!」

母親「……サラ。逃げて」

サラ(子供)「パパ! ママ!」

フラッシュバック終わり。

サラ「い、今のは……なに?」

モリス「ひっ! く、来るな!」

サラ「モリスさん、逃げてください、私が時間を稼ぎます」

サラが走り出して、暗殺者とナイフでの攻防をする。

サラ「強い……。でも、何かおかしい」

暗殺者「……」

サラ「うっ!」

暗殺者に腹を殴られ、吹き飛ぶサラ。

モリス「た、助けてくれ! 頼む! 頼む!」

ドスっとナイフを刺され倒れるモリス。

サラ「あ……」

フラッシュバックする音。

父親「助けてくれ! 私はどうなってもいい! 妻と子供だけは! 頼む、頼む……」

ドスっとナイフを刺され倒れる音。

フラッシュバック終わり。

サラ「思い出した……。お前は私の両親を殺した暗殺者……」

暗殺者「……」

サラ「うあああ!」

暗殺者と斬り結ぶサラ。

そして、サラのナイフが暗殺者に深々と刺さる。

暗殺者「うっ……」

サラ「……はあ……はあ……はあ」

暗殺者「最初から、こうすればよかったな」

サラ「……え? その声は……ジェイク?」

ジェイク「悲しむことはない。お前はただ、両親の仇を討っただけだ」

サラ「……ジェイク、どうして?」

ジェイク「最初は……単なる賭けだった。多くの人間を消してきた俺の心はもう壊れてしまっていると思っていた。だから、試してみようと思ったんだ」

サラ「試す?」

ジェイク「俺に大切だと思える人間ができるのか。そして、その人間を俺は殺すことができるのか」

サラ「……」

ジェイク「両親を目の前で殺されたお前は、ショックで記憶を失った。それを見て、俺はお前を育てることにしたんだ」

サラ「……」

ジェイク「お前を育てているうちに、お前の存在は俺の中で大きくなっていった。大切だと思えるようになった。そして、俺はようやく気付いたんだ。俺は今まで、誰かの大切な人間を殺し続けてきたのだと。笑い話さ。そのことに気づいた俺は急に罪悪感にかられた。怖くなった。それで、暗殺者から足を洗った。……まっとうになると自分に言い聞かせていたが、本当は逃げただけだ」

サラ「ジェイク」

ジェイク「お前と一緒にいられて、俺は幸せだった」

サラ「私もジェイクと……お父さんといられて幸せだった」

ジェイク「俺には父と呼ばれる資格はない。そう呼ぶべき人間を俺はこの手にかけた」

サラ「……それでも、そうだとしても、私にとってジェイクはお父さんだよ……」

ジェイク「サラ……。ありがとう。お前という素晴らしい娘……をもてて……俺は……」

サラ「お父さん!」

ジェイク「サラ……。幸せに……」

ジェイクがこと切れる。

サラ「お父さん! お父さーん!」

サラ(N)「この日、私はもう一人の父親を失った。多くの罪を犯してきたジェイク。その罪は決して許されることはないだろう。そして、私の本当の父親さえもその手にかけていた。本来であれば、憎むべき人間のはずだ。だけど……私にとってジェイクは優しい父親で、一緒に過ごしてきた日々は幸せな思い出として、この胸の中に残っている」

終わり。

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