【声劇台本】お引越し
- 2021.09.30
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
静修(せいしゅう)
一(はじめ)
果歩(かほ)
■台本
ガチャリとドアが開き、静修が入って来る。
静修「おはよー」
母親「やっと起きて来たのね。ほら、早くしないと学校遅刻するわよ」
静修「うん……」
トコトコと歩く静修。
静修「……ねえ、お母さん。この段ボールの山、なに?」
母親「あれ? 静修に言ってなかったっけ? 引っ越しするのよ」
静修「……は?」
場面転換。
静修「はあああ!」
静修が一に向かって走る。
静修「やあ!」
一「はっ!」
静修「うわっ!」
静修の攻撃は躱されて、一の拳が静修の顔面に当たり、派手に倒れる静修。
一「俺の勝ちだな」
静修「まだまだ! もう一回勝負だ!」
一「へえ。今日は随分と気合い入ってるじゃねーか、静修」
静修「今日は、一に勝つまでやる!」
一「なんかあったのか? ……まあいいや。来いよ。何回やっても俺が勝つ」
静修「はああああ!」
場面転換。
教室内。
静修「いててて……」
果歩「あれ? 静修くん。お昼休みに喧嘩したの?」
静修「喧嘩じゃなくて、勝負!」
果歩「ふーん。違いがよくわからないけど。でも今日は随分とボコボコにされたんだね」
静修「ちくしょう。一回くらいは勝ちたかったなぁ」
果歩「ははは。一くん、めちゃくちゃ喧嘩強いもんね。中学生にも勝ったことあるんでしょ?」
静修「高校生にも勝ったことあるよ、あいつ」
果歩「強いことがそんなにいいことなのかはわからないけど、諦めずに頑張れば、そのうち、静修くんだって勝てるようになるわよ」
静修「そのうちじゃなく、今日、勝ちたかったんだよ……」
果歩「……何かあったの?」
静修「果歩ちゃん、これ、誰にも言わないでほしいんだけど、俺、転校することになった」
果歩「ええ! いつ?」
静修「今度の日曜……」
果歩「嘘……。なんで、そんな急に?」
静修「俺だって、母さんから今日の朝に聞いたんだよ」
果歩「おばさんが言ってたなら、本当なんだね……」
静修「こんな嘘付くかよ」
果歩「……なんとかならないの?」
静修「なると思うか?」
果歩「……だよね」
静修「だから、今日中にあいつに勝っておきたかったんだよ」
果歩「ねえ、どこに転校するの? 隣町とか?」
静修「……知らねえけど、外国だって。父さんの仕事の関係で」
果歩「……そっか。じゃあ、お別れ会しないと!」
静修「ああ、いい。そういうの、苦手だから」
果歩「でも……」
静修「いいって、ホントに。黙っていなくなる方がクールで格好いいだろ?」
果歩「……バカ」
場面転換。
学校のチャイム。
生徒たちが下校している。
教師「みんなー、気を付けて帰るのよー」
静修「あの、先生!」
教師「ん? どうしたの、静修くん」
静修「今までありがとうございました。さようなら」
教師「え? あ、うん。さようなら」
静修が走っていく。
場面転換。
トボトボと歩く静修。
一「おい、静修」
静修「一……」
一「ちょっと面貸せ」
静修「……ああ」
場面転換。
一と静修が歩いているが、立ち止まる。
一「着いたぞ」
静修「河川敷? こんなとこに何の用?」
果歩「静修くん……」
静修「果歩ちゃん?」
男子生徒1「おい、静修! 黙って転校するなんて許さないぞ」
男子生徒2「そうだ、そうだ!」
女子生徒「転校するのに、お別れ会しないなんて、イジメっぽく見えるじゃない」
静修「みんな……」
果歩「大したことはできなけどさ、みんなでお小遣い出し合って、お菓子とジュース買ったの。さ、お別れ会、しよ?」
静修「(涙ぐんで)バカ……。こういうの苦手だって言ったのに……」
一「ほら、最後の晩餐ってやつだ」
静修「うん」
場面転換。
みんながワイワイ騒いでる。
男子生徒1「いいなー。外国かー。格好いいなー」
静修「だろ?」
一「よし、お菓子もなくなったことだし、そろそろ始めるか」
静修「なにを?」
一「一回でも俺に勝っておきたいんだろ?」
静修「……ああ」
場面転換。
ドカッと静修の腹に一のパンチがめり込む。
静修「うっ!」
一「いいか、静修。最後だからって、手加減はしねえからな。実力で、俺から一勝をもぎ取れ!」
静修「わかってる! うおおお!」
一「はっ!」
静修「うっ! まだまだ!」
一「おら! 腰が引けてるぞ! もう一歩踏み込め!」
静修「はああああ!」
ドカッと静修のパンチが一の顔を捕える。
一「ぐあっ!」
一が倒れる。
静修「やった……」
一「……ああ。お前の勝ちだ」
静修「やったー! やっと勝てた!」
果歩「静修くん、おめでとう」
静修「果歩ちゃん、ありがとう」
果歩「ねえ、外国でもスマホって使えるのよね?」
静修「うん……。多分」
果歩「じゃあ、メールはできるよね?」
静修「う、うん……」
果歩「10年」
静修「え?」
果歩「10年だけ、待ってあげる。その間は彼氏を作らないでおくから」
静修「う、うん……。わかった。10年したらちゃんと戻って来る」
果歩「うん。でも、メールはちゃんと毎日してね」
静修「わかった」
一「それなら、このリベンジマッチは10年後だな」
静修「ああ。そのときも俺が勝つ!」
一「ふっ! 楽しみにしてるぜ」
静修「じゃあ、みんな、10年後に会おうぜ! バイバイ!」
場面転換。
教室内がざわざわしてる。
静修「……」
一「おい、静修」
静修「っ!」
一「お前、なんでここにいるんだ?」
静修「えっと、その……引っ越しは父さんだけみたいで……」
一「ふざけんなっ! あの感動を返せ!」
静修「うわっ! ちょ、タンマ!」
果歩「……バカ」
バコバコと殴られる音。
静修「ぎゃー! 父さん、俺も連れてってー」
終わり。
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