■関連シナリオ
〈山ガール〉
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
雨宮 さくら(29) 会社員
川岸 七海(29) さくらの親友
■台本
インターフォンの音。
さくら「……」
ガチャリとドアが開く音。
七海「さくらー! 聞いてよ! 超、腹立つ―!」
さくら「はいはい。ゆっくり聞いてあげるから。中、入っていい?」
七海「お土産のお酒とおつまみは?」
さくら「……相変わらず、人に相談する側なのに神経が太いわね。まあ、買ってきたけど」
七海「いえーい! さくら、大好き―」
さくら「はいはい。私もよ」
場面転換。
七海「……でさー、結局、彼女持ちでやんの! それなら最初っから言えっつーの!」
さくら「あのさ、七海」
七海「ん? なに?」
さくら「相談って、それ? いつものことだと思うんだけど」
七海「……はっ! ちょっと、聞いてよ、さくら! 超腹立つことがあってさー」
さくら「あ、やっぱり、違ったんだ」
七海「あー、もう、腹立って、そのことしか考えられないよ!」
さくら「……さっきまで忘れてたよね?」
七海「会社での話なんだけどさー」
さくら「うん」
七海「社内では、私、結構、しっかりしてる方なんだけどさ」
さくら「……え?」
七海「え? なんかおかしいこと言った?」
さくら「あんたが、しっかりしてる方って、その会社大丈夫なの?」
七海「なにが?」
さくら「まあいいや。とにかく、話を最後まで聞くよ」
七海「ああ、うん。でね。私、会社ではちゃんと整理整頓してるんだよ。机の上とか、部屋の中もこまめに掃除したりして」
さくら「……えーっと。それって、現実の話? 夢じゃなくて?」
七海「何言ってるのよ。現実に決まってんでしょ」
さくら「いや、あんたの口から掃除なんて単語が出て来るなんて、ビックリしちゃって」
七海「私、一度、汚し始めるとトコトン汚しちゃうから、会社では汚したらすぐ綺麗にするのを心がけてるのよ」
さくら「……なんで、それが自宅でできないの?」
七海「え? だって、家はさくらがやってくれるでしょ?」
さくら「……もう掃除するの止めようかな……」
七海「でね! ここから事件が起こるの!」
さくら「事件?」
七海「新しい新人が入ったんだけど。あ、もちろん女ね」
さくら「わざわざ、そこは強調しなくていいから」
七海「その新人が、ほんっと、ズボラでさー! 見ていていらいらすんの! 食べたお菓子の袋はそのままだったり、ゴミ箱にゴミを入れようとして投げて、外れてもそのままとか。あと、分別とかもほとんどしないし!」
さくら「……これで、少しは私の気持ちがわかるかな?」
七海「何言ってんの? 今は、私の話をしてるの!」
さくら「……はいはい。で?」
七海「でね! 昨日、その新人がアイスを買って来たの。で、そのアイスを私が食べたら、怒られたの。しかも、みんなに」
さくら「……当たり前じゃない?」
七海「ええー! なんでよ!? さくらなら、わかってくれると思ったのに―」
さくら「……なんで、わかると思われたんだろ? ちょっとショックだな」
七海「そのままにしてたら、絶対ヤバかったって! さくらも、あのとき、怒ったじゃん!」
さくら「ん? ん? ちょっと待って。ちゃんと説明して。私が怒ったって、なんの話?」
七海「だからー。前に家でアイスを放置してたら溶けて、えらいことになって、さくらが片付けるの大変だったってキレた時の話」
さくら「ああー。去年の話ね。あれはカオスだったよ……。思い出すだけでも鳥肌だわ。虫が……虫が―!」
七海「落ち着いて、さくら!」
さくら「う、うん。……で、その話がなんで、今回の話に繋がるのよ?」
七海「だから、新人がアイスを買ってきたのに、ずっと机の上に放置してたの。いくら冷房がついてる部屋の中でも、10分も放置してたから、ほとんど溶けちゃってたの。机の上も、なんか水でびちゃびちゃになってたし」
さくら「ああ、結露(けつろ)のことかな」
七海「で、これ以上、被害が広がらない為に、捨てようと思ったの。で、捨てるくらいなら食べた方がいいかなって。環境的にも」
さくら「……んー。気持ちはわからなくもないけど、ダメだと思うな」
七海「えー、なんで? どうせゴミになる物なんだよ? 普通、ゴミを食べても、怒られないじゃん」
さくら「その台詞だけ聞くと、あんたが、相当ヤバい人間に聞こえるなぁ……」
七海「大体、あの新人、机の上に物を溜め過ぎなのよ! いつも机が汚くて、気になるんだよね!」
さくら「うーん。七海が割とまともなこと言ってるのが、違和感あるなぁ」
七海「前だって、あまりにも机が汚いから、掃除してあげたら、ブチ切れられるし」
さくら「んー。中には、自分の物を勝手に弄られるのを嫌がる人もいるしね」
七海「しかも、なんか弁償しろだのなんだの言われてさ」
さくら「……弁償? なんの?」
七海「ん? えーっと、なんか人形と、なんかのシールだと思ったんだけど……カードだっけな?」
さくら「……あんた、もしかして、掃除って、机の上にあったもの、捨てたとか?」
七海「うん。そうだよ。だって、机の中に入りきらないし」
さくら「あー。なるほどなるほど。きっと、その新人の人が怒ったのは、大事な物を勝手に捨てられたからだよ」
七海「大事な物? ゴミしかなかったよ?」
さくら「あんたから見たらゴミでも、その新人から見たら、宝物なのよ」
七海「ええー。意味、わかんない」
さくら「あんただって、大事な物あるでしょ? それを他人に取られたらどう思う?」
七海「例えば、それって、ようやく付き合うことができた男を取られるとかそんな感じ?」
さくら「全然違うけど、面倒くさいから、それでいいや」
七海「……あー。うん、それは殺意湧くね。どんな手を使ってでも復讐するかも」
さくら「……でしょ? アイスの件だって、もしかしたら、少し溶けるのを待ってたかもよ? 溶けかけた方が美味しいってアイスあるでしょ?」
七海「はっ!? 確かに!」
さくら「……あんたの場合は、そのまま忘れるのは止めて欲しいんだけどね」
七海「そっかー……。私が思ってることと、相手が思ってることが必ずしも同じってわけじゃないってわけか」
さくら「そうそう。それ。そのこと、絶対に忘れないでね。特に私と一緒にいるとき」
七海「明日、新人に謝るよ。そして、色々話し合ってみる」
さくら「うん。それがいいよ。今回は、七海は凄い良いこと、学んだね」
場面転換。
七海「新人と色々話してきた」
さくら「どうだった?」
七海「えっとね、机の上の件は、トレーディングカードを買ってて、当たりのカードは持って帰ってて、机の上に置いてあったのはいつか捨てようと思ってたカードだったってさ」
さくら「……それなら、弁償もなにも、七海が捨ててあげてよかったんじゃないの?」
七海「うん。考えてみたら、怒ることなかったって気づいたんだって」
さくら「……そ、そう。で、アイスの件は?」
七海「アイスも、普通に買ったの忘れたんだって。捨てたって聞いたら、買ったのを思い出して、ついカッとしたんだってさ」
さくら「……」
七海「いやあ、やっぱり話すって大事だね。お互い、すれ違ってたのが解消されたよ」
さくら「……いや、すれ違ってなかったけどね」
七海「今回の件で学んだよ。頑張り過ぎるのはよくないね。会社で頑張って綺麗にするのは止めよっと」
さくら「……ゴミ屋敷になること、決定したね。……あんたの会社に同情するよ」
終わり。