異世界ではスローライフはやらない
- 2022.07.14
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
ケンジ
女神
カヤ
母親
女の子
ならず者
騎士
■台本
ガチャリとドアが開く音。
ケンジ「ただいまー」
カバンをドサッと置く音。
ケンジ「遊びに行ってくるからー」
母親「ケンジ! 待ちなさない!」
ケンジ「……なんだよ?」
母親「今、繁忙期だってわかってるでしょ? お父さんの手伝いをしてきなさい!」」
ケンジ「全部、機械でやるんだからいいじゃん。俺が手伝うことなんてないって」
母親「何言ってるのよ。あんたには高校卒業したら、うちを継いでもらうんだから、今からしっかり、お父さんに習っておきなさい」
ケンジ「継ぐときでいいじゃん! せめて高校行ってるときは、自由に遊ばせてくれよ」
母親「我儘言うんじゃないの!」
ケンジ「……」
場面転換。
ガチャリとドアを開け、ケンジが部屋に入って来る。
そして、ベッドの上に寝転がる。
ケンジ「あー、くそ、疲れた……」
寝返りを打つ。
ケンジ「……ただでさえ、田舎暮らしで、学校から帰ったら農作業……。あー、くそ、やってらんねー! ……はあ、俺の人生、ずーっとこんな刺激のないままなんだろうか? いっそ、異世界にでも転生して派手な人生を送りたいものだぜ」
女神「本当ですか?」
ケンジ「え? な、なんだ? どこから?」
女神「今、あなたの頭の中に直接話しかけています。……先ほど、あなたは異世界に行きたいという発言をしましたよね?」
ケンジ「え? あ、ああ……」
女神「よかったです。では、異世界に転生してくれませんか? 今期、ノルマの達成が危なくて……」
ケンジ「……ノルマなんてあるのか。てか、こういうのって、事故にあったり、病気になったりして、死なないと転生できないもんじゃないの?」
女神「え? なんですか、それ? 死んだら、死んじゃうじゃないですか」
ケンジ「ま、まあ、そうなんだけど」
女神「とにかく、異世界に行っていいという人を勧誘しているんです。協力してくれませんか?」
ケンジ「もちろん! オッケーだ!」
場面転換。
ケンジが街中を歩いている。
ケンジ「んー。確かにファンタジーな世界だけど、なんか、アトラクションっぽい感じなんだよなー。実感がわかないというか、なんというか……」
女の子「は、離してください!」
ならず者「あははは。いいじゃねーか、ねーちゃん。少し、俺と付き合えよ」
ケンジ「……まあ、なんていうか、コテコテで古典的なイベントだな。よし、女神に貰った、スキルって奴を試させてもらうか」
女の子「きゃー!」
ならず者「がはははは」
ケンジ「おい! やめろ!」
ならず者「ああ? なんだてめえは?」
ケンジ「うわ……。普通に怖い」
ならず者「けっ! ビビり野郎はすっこんでろ」
ケンジ「え、えっと。すぐにその子の手を離さないと、スキルを撃ちますよ」
ならず者「はあ? なんだそりゃ? やれるもんならやってみろや!」
ケンジ「えーっと、確か、こうやって……こう!」
派手な爆発音がする。
ならず者「……すげえ」
ケンジ「……すごい」
ならず者「は?」
ケンジ「え? あ、と、とにかく、次は当てられたくなかったら、さっさと消えろ」
ならず者「……は、はい」
ならず者が走って逃げていく。
女の子「あ、あの! ありがとうございました!」
ケンジ「えへへへ。お礼なんていいよ」
女の子「それじゃ、失礼します」
ケンジ「え?」
女の子がスタスタと歩き去って行く。
ケンジ「あれ? こういうのって、ヒロインになるとかの展開じゃないの? ……まあいいや。とにかく、スキルはチートっぽいから、これからファンタジー世界で大暴れしてやるぜ!」
場面転換。
ドラゴンの咆哮。
ケンジ「うわああああああ!」
騎士「ケンジ殿! 私が奴を引き付けますので、渾身の一撃をお願いします」
ケンジ「いや、無理無理! 無理ですって!」
騎士「何を言ってるんですか! 王国のために命をかけると宣言したではありませんか」
ケンジ「いや、あれは形式的な……」
騎士「とにかく、早くしてください! このままでは全滅してしまいます!」
ケンジ「無理だって! 失敗したら死ぬって!」
騎士「ですから、ここで命を捧げてください!」
ケンジ「いーやーだー!」
場面転換。
店内。
ケンジ「……マントとマスク、あと、眼帯もだな。……よし、おばちゃん、会計お願いします」
おばちゃん「はいよ。……って、あれ? あんたの顔、どっかで見たような……」
ケンジ「代金、ここに置いていきます! 釣りはいらないんで!」
ケンジが物を抱えて、店内へと飛び出す。
場面転換。
階段を上る音。
ケンジ「くそ。俺の手配書がこんなところまで回ってるのか。この町にも長居はできないな……」
ガチャリとドアを開く音。
ケンジ「明日の朝、すぐにチャックアウトするか……って、え? あれ? 俺の荷物がない! あっ! 窓が破られてる!」
場面転換。
森の中。
フクロウが鳴いている。
ケンジ「……うう。どうしてこんなことに。異世界なんて、全然楽しくねーじゃねーか」
ガサガサと草の根が掻き分けられる音。
ケンジ「だ、誰だ! ……って、タヌキか」
フクロウの鳴く声。
ケンジ「……はあ。おちおち、休んでもいられないのかよ」
場面転換。
山道を歩く音。
ケンジ「……確かに、こっちの世界に来てからは刺激的なことばかりだった。だけど、それは良いことってわけじゃないんだな……。なんにもない、平和な毎日……。そんな当たり前な日常が幸せだったのかもな」
山道を歩く音。
ケンジ「はあ、くそ。腹減った。けど、金は尽きたし……。その辺で食える物を探すしかないか」
ガサガサと草の根を分ける音。
ケンジ「……え? あれ? これって……麦? 誰かの畑……ってわけでもなさそうだな。野生の麦なのか? この世界独特の品種なのかもしれない……。よし、一か八か、やってみるか!」
場面転換。
畑を耕す音。
そこにカヤがやってくる。
カヤ「ケンジさん、こんにちは」
ケンジ「あ、カヤさん、こんにちは」
カヤ「あの、お肉とミルク、日用品を持って来ました」
ケンジ「ありがとうございます。ホント、助かりますよ」
カヤ「いえいえ。ケンジさんの作る、野菜や麦、お米はとても美味しいって、町でも評判なんですよ」
ケンジ「ははは。そう言って貰えると嬉しいです」
カヤ「あの……。ケンジさんは転生者なんですよね?」
ケンジ「ええ、まあ」
カヤ「他の転生者は、戦ってばかりですが、ケンジさんはそうじゃないんですね」
ケンジ「いや、ははは。恥ずかしながら」
カヤ「あ、いえ! 別に非難しているわけじゃないんです! ……ただ、その……ずっと農作業ばかりでつまらなくないのかな、と……。私の周りの男の人も、みんなつまらなそうに、農作業してるので……」
ケンジ「楽しいですよ」
カヤ「え?」
ケンジ「実は、俺、元の世界で農家だったんですけど、そのときはつまらないって思ってました」
カヤ「……」
ケンジ「でも、この世界に来て、怖い思いや嫌なことをたくさん経験して……。でも、今は農作業っていう日常が楽しいって思うようになったんです」
カヤ「そうなんですか……」
ケンジ「それに、植物といっても、どれも個性があって、同じ品種なのに育ち方が違うんですよ。……こんなこと、元の世界にいたときは気づかなかった……いえ、気付けなかった。とにかく、今は、とても充実してますよ」
カヤ「そうですか。よかったです。あ、そうだ。今度、お手伝いさせてくれませんか?」
ケンジ「え? いいですよ。そんな」
カヤ「いえ、手伝わさせてください。いつも、サービスしてもらってますし」
ケンジ「気にしないでください。カヤさんが来てくれるので、生活できているんですから」
カヤ「……もしかして、迷惑ですか?」
ケンジ「いえ、そんなことありません。……嬉しいです」
カヤ「それじゃ、また明日、手伝いに来ますね!」
ケンジ「ありがとうございます」
ケンジ(N)「元の世界にいたときは、スローライフなんて絶対にやならない、やりたくないって思っていたけど、今はスローライフも悪くないって思っている」
終わり。