主導権

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、中世、コメディ

■キャスト
ヨキ
アン
ヨシュア
警部

■台本

新聞を広げる音。

ヨキ「……ふむふむ。オペラ座の女優が結婚か。ふふ。相変わらず、世間は平和そのものだな。そろそろ、刺激が欲しい所だろう」

ガチャリとドアが開く音。

アン「所長! 大変です!」

ヨキ「どうした? 予告状でも届いたか?」

アン「え? あ、はい……。入り口に、このカードが貼り付けられていました」

ヨキ「そうかそうか。じゃあ、警察と名探偵……ヨシュアに連絡を入れてくれ」

アン「あの、所長……。予告状は読まれないのですか?」

ヨキ「狙いは魔女の心臓だろ? 犯行予告は……今週末、といったところか」

アン「よ、よくわかりましたね」

ヨキ「はははは。あの怪盗とも、付き合いが長いからね。わかるさ」

アン「で、では、魔女の心臓は金庫に移しておきますね」

ヨキ「おいおい。そんな無粋な真似をするんじゃない。魔女の心臓は警察と名探偵に任せておけばいい」

アン「ですが……魔女の心臓は国宝級の宝石ですよ。万が一のことがあったら……」

ヨキ「ふふふ。心配するな。それよりも、今週末は忙しくなるぞ。展覧会の準備を頼む」

アン「わ、わかりました……」

場面転換。

警部「困りますな。客を入れるなんて、自殺行為です」

ヨキ「では、宝石は厳重な金庫に入れて、店を閉鎖し、警察官で店内を埋め尽くせと?」

警部「ええ。その通りです」

ヨキ「なるほど。それで捕まえられると?」

警部「もちろんです!」

ヨキ「ヨシュアくん、どう思うかね?」

ヨシュア「もちろん、その方が逮捕の確率は上がるでしょう。ですが、現れない方の格率の方が高くなります」

警部「……予告を破ると?」

ヨシュア「奴は怪盗であると同時に、エンターティナーを気取っています」

警部「エンターティナー? ですと?」

ヨシュア「はい。つまり、盗みを……犯行を行うことで世間を盛り上げたいという思いがあります」

警部「ま、まさか……」

ヨシュア「わざわざ予告状を送って来ることが証明です。もし、単に盗むだけが目的であれば、予告状なんて送らずに、黙って盗み出せばいい」

警部「た、確かに……」

ヨキ「つまり、私たちが店に客を入れるというのは、あの怪盗を確実におびき出すことができるというわけですよ。奴がやってくれば、今度こそ捕まえてくれる……。そうですよね? 名探偵」

ヨシュア「今回で、奴との決着を付けます! その手柄は警部、あなたのものです」

警部「……わかった。できるだけの協力はしよう。なんでも言ってくれ」

ヨシュア「ありがとうございます」

場面転換。

店内が賑わっている。

アン「所長。本当によかったのでしょうか。客を入れてしまって……」

ヨキ「ふふふふ。見てみたまえ。展覧会は大成功と言っていいほどの反響じゃないかね?」

アン「た、確かにそうですが……魔女の心臓が盗まれてしまった場合の損害は計り知れません」

ヨキ「ふふっ! それは……」

バンという爆発音と、バツンと電気が落ちる音。

アン「で、電気が消えた?」

ヨキ「現れたようだな」

アン「ま、魔女の心臓は大丈夫でしょうか?」

ヨキ「まあ、ヨシュアくんたちに任せようじゃないか」

アン「……」

場面転換。

ヨシュア「……申し訳ありませんでした」

ヨキ「盗まれてしまいましたか」

ヨシュア「……」

警部「だ、だから、客を入れるのを反対したんだ!」

ヨキ「まあまあ、警部。そう、目くじらをたてないでください。奴を取り逃がしたのは、警察の失態でもあるのですから」

警部「うっ!」

ヨキ「とはいえ、何も収穫がないわけではないですよね? ヨシュアくん」

ヨシュア「……負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、今回で奴の行動パターンを完全に把握できました。次は主導権を握れると断言できます」

ヨキ「よろしい。私としては、あなたに諦められてしまうことが、一番困るからね。これからもよろしく頼むよ」

ヨシュア「……ありがとうございます」

場面転換。

アン「あの……所長。魔女の心臓が盗まれたことでの損害についてですが……」

ヨキ「すぐに保険屋に連絡してくれ。保険金で賄う」

アン「え? あ、あの……かけてたのですか? 保険」

ヨキ「怪盗に狙われているんだ。保険くらい、かけるだろう」

アン「ですが、予告が来てから保険に入るのは無理では……?」

ヨキ「魔女の心臓を手に入れたときに入ったんだ。怪盗が狙うのはわかっていたからね……。というより、私が狙うように仕向けたんだがね」

アン「あ、あの……どういうことでしょう?」

ヨキ「怪盗は派手好きだ。どうせ盗むなら、話題になっているものを狙う。だから、こちら側から、話題となる宝を作り出してやるんだ。そうすれば、狙われる物をこちらでコントロールできる。で、その狙われる物だけ、保険に入っていれば、こちらの損害は出ない」

アン「で、では、今回のことは所長の計算通りだと?」

ヨキ「はははは。今回だけじゃないよ。ずっとさ」

アン「……どういうことでしょう?」

ヨキ「君は、一連の事件……。怪盗、警察、名探偵たちが絡んでいるが、得をしているのは誰だと思う?」

アン「……そうですね。盗みを成功させた怪盗……でしょうか?」

ヨキ「まあ、そうだな。今回、怪盗は得をした。……逆に、盗みを阻止した場合、名探偵の名声が上がる。これは名探偵が得をする」

アン「はい」

ヨキ「だが、その二人よりも、もっと得をしている人間がいる」

アン「え?」

ヨキ「私だよ」

アン「……?」

ヨキ「怪盗が予告状を出してくる。それをネタに、うちが展覧会を開く。そうすれば、怪盗を見るため、怪盗が狙う宝石を見るために客が殺到する」

アン「あっ!」

ヨキ「展覧会は大盛況で、入場料だけで大儲けだ」

アン「はい」

ヨキ「怪盗が狙うものには保険がかけてあるから、盗まれても盗まれなくても、うちが損することはない」

アン「……」

ヨキ「怪盗と名探偵。その対決で、一番得しているのは、現場となる宝石店というわけだな。願わくば、この対決がずっと続いてほしいものだ。はははははは」

終わり。

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