デビュー戦
- 2022.09.22
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
高城 雅樹(たかしろ まさき)
宮戸 圭祐(みやと けいすけ)
トレーナー
ジムメイト1~2
選手1~3
アナウンサー
■本編
雅樹(N)「親父は有名な野球選手だった。親の代じゃ、親父の名前を知らないやつはいないってくらい。だから、俺はいつも、雅樹、じゃなくて、高城の子供って呼ばれていた。俺はそれが嫌だった。俺の前にいる奴は、俺を見ているはずなのに、写っているのは親父の姿。俺を見ようとしない。それが、本当に嫌だった」
ボクシングジム。
雅樹がスパーリングしている。
雅樹「ふっ!」
トレーナー「よーし、いいぞ、雅樹!」
そのとき、3分を示すベルが鳴る。
トレーナー「オッケー。休憩だ。この後、ロードワーク行くからな」
雅樹「うっす」
ジムメイト1「高城さん、気合入ってるよな」
ジムメイト2「もうすぐ、プロテストだからな」
ジムメイト1「ジム始まって以来の、日本チャンプを出せるって、おやっさんも上機嫌だし」
ジムメイト2「才能だろうな。持ってるものが違うって言うか」
ジムメイト1「そりゃ、親がプロ野球選手だもんな、出来が違うって」
ジムメイト2「バカっ!」
雅樹「おい、親父がなんだって? 親父はカンケーねーだろうがよ」
ジムメイト1「いや、その……」
トレーナー「何やってんだ、雅樹! ロードワーク行くぞ!」
雅樹「……ちっ! 次のスパーリングでボコボコにしてやるからな」
雅樹(N)「当たり前だが、俺は野球の道には進まなかった。その道に進めば、ずっと親父と比べられる。だから、全然カンケーないボクシングを選んだ。けど、親父からは逃げられない。どこに行っても、俺の後ろには親父がいる……」
場面転換。
プロテスト会場。
試合をしている雅樹。
雅樹「ふっ!」
ドスっと鈍い音。
選手1「うおっ!」
ドサリとダウンする選手1。
同時に、ゴングが鳴る。
選手2「マジかよ。プロテストの試合でダウン取るか、普通」
選手3「ほら、あいつは、あれだよ。例の」
選手2「ああ。高城の子供か。……まさか、対戦相手に金とか渡したとかじゃね? 金持ちの坊ちゃんが強ぇわけねーし」
雅樹「おい、リング上がれや。弱いかどうか、実際、見せてやるよ!」
トレーナー「おい、やめろ! 失格にされるぞ」
雅樹「……ちっ!」
そのとき、歓声と同時にゴングが鳴る。
選手2「うわ。まただよ。ダウンさせちまった」
圭祐「ふん……」
雅樹「……」
場面転換。
ジム内。
トレーナー「おい、雅樹。デビュー戦、決まったぞ。宮戸圭祐だ」
雅樹「宮戸……って、まさか」
トレーナー「ああ。プロテストで、お前と同じく、ダウン取ってたやつだ」
雅樹「面白れぇ。やってやるぜ」
場面転換。
試合会場。
客が大盛り上がり。
ゴングが鳴り響く。
アナウンサー「壮絶な右ストレート! お互いのデビュー戦。高城対宮戸は、宮戸のKO勝利です」
場面転換。
土手に座る雅樹。
そこに圭祐がやってくる。
圭祐「よお」
雅樹「……なんだよ。慰めにでも来たのか?」
圭祐「勝負は五分五分。俺が勝ったのは運だ」
雅樹「慰めはいらねーって」
圭祐「新聞見たか?」
雅樹「いや」
圭祐「おかしいと思ったんだよ。新人のデビュー戦であんなに盛り上がるなんて」
雅樹「どういうことだ?」
圭祐「ほれ」
新聞を渡す圭祐。
雅樹「……なっ! お前、宮戸選手の子供だったのか」
圭祐「野球の高城とサッカーの宮戸の対決。そりゃ盛り上がるわな」
雅樹「どこまで行っても、親父の子供……か」
圭祐「ああ……そうだな」
雅樹「ま、けど、俺にはカンケーねー。次はお前に勝つぞ、圭祐」
圭祐「チャンピオンベルト巻いて待っててやるよ」
雅樹「はあ? 俺の方が先だっつーの!」
圭祐「おいおい。それが負けた方の台詞か?」
雅樹「あれは運だってーの!」
圭祐「ははは。そうだな」
場面転換。
ロードワークをしている圭祐。
そこに雅樹が走って来る。
雅樹「おい! 圭祐、どういうことだよ!」
圭祐「ああ、階級上げる件か?」
雅樹「俺たちの決着まだだろ!」
圭祐「しゃーねーだろ。もう、あの階級でやるのは、体的に無理だ」
雅樹「俺に負けてからにしろよ」
圭祐「……それじゃ、うま味がねーだろ」
雅樹「んだよ、勝ち逃げかよ」
圭祐「なあ、雅樹。俺は世界王者になる」
雅樹「……また、お前らしい、デカい夢だな」
圭祐「試してみたいんだ」
雅樹「試す?」
圭祐「世界王者になっても、俺はまだ、宮戸の子供って言われるのか、ってな」
雅樹「……なるほど。宮戸選手は、日本代表でワールドカップにも出たけど、優勝はしてねーからな」
圭祐「そう。どれだけ有名になれば、親父の名前を消せるか、それをやってみてーんだ」
雅樹「はは。確かに面白そーだな。けど、どうする? 宮戸選手と高城選手の子供が揃って世界王者に、なんて記事になったら?」
圭祐「はは。笑えねー」
雅樹「よし! じゃあ、いっちょ、やってみるか」
圭祐「ってことで、俺が返上したベルトのタイトルマッチ、負けんじゃねーぞ」
雅樹「負けるか、アホ!」
場面転換。
ホテル内。
ドアのノックする音と、ドアを開ける音。
圭祐「よお!」
雅樹「久しぶりだな。4年ぶりってとこか」
圭祐「ああ。早かったような、遅かったような……」
雅樹「けど、まさか、二人とも同じ日に、タイトルマッチとはなー」
圭祐「明日、やっと答えが出る」
雅樹「ああ。俺たちは結局、親父の子供なのか……な」
圭祐「今はどう書かれてるんだろうな? やっぱり、宮戸選手と高城選手の息子が揃って世界戦、とか書かれてんのかな?」
雅樹「さあな。新聞とかニュースは見ないようにしてる。試合後の楽しみに」
圭祐「はは。同じだな。じゃあ、明日、頑張れよ。せっかく、揃って世界王者になれるチャンスなんだからな」
雅樹「けっ! 俺の台詞だ」
場面転換。
試合会場。
大盛り上がりの会場。
ゴングが鳴り響く。
場面転換。
ホテル内。
雅樹「あー、クソ。まだ、頭がグワングワンする」
そこにノックの音。
立ち上がり、ドアを開ける雅樹。
圭祐「よお、チャンプ。昨日のダメージでフラフラしてんだろ?」
雅樹「……こっちの台詞だ。まあ、入れよ」
二人が部屋の中に入り、椅子に座る。
圭祐「さて、今日の新聞だ」
雅樹「なんて書いてある?」
圭祐「見てみろ」
圭祐が新聞を渡す。
雅樹「……同期の高城雅樹と宮戸圭祐、揃ってベルトを奪取」
圭祐「やったな。ついに、親父の名から解放された」
雅樹「……」
圭祐「どうした?」
雅樹「あー、いや。高城選手の息子って書いてねーと、なんか、自分のことじゃねー気がしてさ」
圭祐「……ぷっ! あははははははは!」
雅樹「な、なんだよ……」
圭祐「実は俺もなんだ。最初、新聞、間違って買っちまったかなって、二度見したからな」
雅樹「あははははは。わかるわかる」
二人で大笑いする。
圭祐「なあ、知ってるか? 今の若いやつは、高城選手も、宮戸選手も知らねーみたいだぜ」
雅樹「そうなの?」
圭祐「前に、記事で、高城選手と宮戸選手の息子って書いて、読者から、逆に誰? って言われたんだってよ」
再び、二人で大笑いする。
雅樹「ふう。なんだかなー。あんなに嫌だったのに」
圭祐「いざとなったら、なんか寂しいよな」
雅樹「逆に実感わかねーよ。書けよ。高城選手の息子、世界王者になるって」
圭祐「……俺たちはようやく、高城雅樹と宮戸圭祐になったんだよ」
雅樹「……」
圭祐「つまり、昨日試合が俺たちにとってのデビュー戦だったってわけだ」
雅樹「世界戦がデビュー戦って、恐ろしいな」
圭祐「けど、俺ららしいだろ?」
雅樹「まあな。にしても、大変だよな」
圭祐「なにが?」
雅樹「俺の子供さ。何をするにしても、高城選手の子供って言われるんだぜ?」
圭祐「それは、相手を見つけてから心配しろよ」
雅樹「うっせー!」
終わり。