好きだからこそ
- 2023.01.02
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
魁(かい)
みのり
■台本
ガチャリとドアが開く音。
みのりが部屋に入ってくる。
魁「おかえり、みのり」
みのり「ただいま、魁くん。……あれ? この匂いって」
魁「うん。カレー作った。そろそろ食べたいかなって思って」
みのり「すごーい! なんでわかるの!?」
魁「えへへ。なんとなく、ね」
みのり「もう、魁くんって、私の心読めるんじゃないの?」
魁「そんなことないって」
みのり「うふふ。まあ、いっか。あとこれは、私から。駅前で安く売ってたの」
みのりが魁に持っていた小箱を渡す。
魁「え? なんだろ?」
小箱を開ける魁。
魁「あ、ケーキだ! みのり、凄いなっ!? ちょうどデザート欲しいなって思ってたんだよ」
みのり「えへへ。でしょ? そう思って買ってきたんだぁ」
魁「もう……。みのりこそ、俺の心の中、読んでるんじゃないの?」
みのり「あはは。そんなことないってー!」
魁(N)「大学のサークルでみのりと出会い、2年の片思いの果てに告白し、付き合うようになった。そして、付き合うようになって4年。今でも、彼女への思いの強さは変わっていない。……いや、強くなった。彼女のためなら、俺はどんなことを犠牲にしてもかまわないくらいだ」
場面転換。
郵便受けを開ける魁。
魁「ん? ハガキ? 俺宛か……」
ハガキを見る。
魁「あ、高校の頃の同窓会かー。うわー、懐かしいな。拓也とか来るのかな? 聞いてみよ……ん? あ、この日は……」
場面転換。
みのり「魁くんー! 今日、ごみの日だから、ごみ纏めとくね」
魁「ありがとー」
みのり「……あれ?」
みのりがごみ袋の中のハガキを見つける。
みのり「……あれ? このハガキ……」
魁「ん? どうかした?」
みのり「ねえ、魁くん。これ、高校の同窓会の案、捨ててあったよ?」
魁「ああ、うん。いらないから捨てたんだ」
みのり「え? 行かないの?」
魁「うん。行かない。高校のときって、仲いい友達いないんだよね」
みのり「……ホントに?」
魁「ホント、ホント」
みのり「あれ? でも、この日……」
魁「……」
みのり「同窓会の日って、映画見る約束の日だから? 映画は別の日にしてもいいんだよ?」
魁「ううん、それは関係ないよ。それに、その映画、みのりがずっと楽しみにしてたやつでしょ。ちゃんと公開日に見に行こうよ」
みのり「……」
場面転換。
魁の部屋。
魁「ごほっ! ごほっ! ……ヤバいな。熱っぽくなってきた。……今日は早く寝ておくか」
するとガチャリとドアが開いて、みのりが入ってくる。
みのり「ただいま、魁くん」
魁「え? どうしたの?」
みのり「どうしたのって、大げさだなぁ。私が帰ってくるの、そんなに変?」
魁「だって、今日、地元から友達が来るって言ってたよね?」
みのり「あー、うん。なんか、その友達、用事できたんだってさ」
魁「……もしかして、朝、俺が具合悪そうにしてたから?」
みのり「違うよー。ホントに偶然だよ、偶然。あ、魁くん、食欲ある? おかゆ作ろっか?」
魁「……」
場面転換。
リビングでテレビを見ている魁とみのり。
テレビのCMから曲が流れてくる。
魁「あ、この曲……」
みのり「知ってる曲?」
魁「ああ。母さんが好きで、小さい頃、家でよく流れてたんだ」
みのり「へー」
魁「この曲の歌詞でさ、ある恋人が銭湯に行くんだよね」
みのり「銭湯っていうのが、懐かしいワードだね」
魁「そうだね。今って、銭湯ってあんまり行かないよね。……でさ、その歌詞の中で、女の人の方が、男よりも随分前に銭湯から出て、外で待つって言うのがあるんだよね。そのせいで、すっかり体が冷えちゃうって話」
みのり「ふーん。せっかく、銭湯に行ったのにもったいないね」
魁「うん。俺もそう思ってさー。なんで、そんなことしたんだろうって気になったんだよなー」
みのり「うん。気になるよね」
場面転換。
みのりと魁が並んで歩いている。
みのり「あははは。私たちも単純だよね」
魁「ははは。そうだね。でも、まあ、たまには銭湯もいいんじゃない?」
みのり「うん」
二人が銭湯の前で立ち止まる。
魁「それじゃ、45分後ね」
みのり「うん、わかった」
それぞれがドアを開けて銭湯に入っていく。
場面転換。
湯船につかる魁。
魁「あー、ホント、たまには銭湯もいいなー」
湯船につかりながらボーっとする魁。
魁(N)「昨日、みのりに話した曲のこと……。実は、今なら女の人の気持ちがわかる。先に出て、相手を待っていたい。肩に雪が積もるくらい待ってたんだよって、それくらい好きなんだって伝えたい。だから、彼女はきっと、寒空の中でも震えながら待ってることができたんだ」
魁が湯船から出る。
場面転換。
銭湯のドアを開けて外に出る魁。
魁「うわ、全然、温まってないから、寒く感じるな……」
そのとき、女性側の方のドアも開く。
みのり「うわっ! 寒い」
魁「あっ! みのり」
みのり「え? 魁くん?」
魁「ど、どうして? まだ15分しか経ってないよ?」
みのり「魁くんこそ!」
魁「……」
みのり「……」
魁「ぷっ」
みのり「ふふっ」
魁・みのり「あははははははは!」
みのり「……昨日の、曲の話だけど、きっと女の人はこんな気持ちだったのかな?」
魁「うん、そうだね」
みのり「でもさ……」
魁「……うん」
みのり「私が男の人だったら、嫌だなって思う」
魁「……俺も。だって、好きな人が寒空の中で震えてるなんて状況は、泣きたくなるよ」
みのり「うん……そうだね」
魁「……ねえ、みのり」
みのり「なに?」
魁「俺はみのりのことが大好きだ。だからこそ、みのりには俺のことで損をしてほしくないんだ。やりたいことを諦めて欲しくない」
みのり「もう、それは私も同じだよ」
魁「……」
みのり「……」
魁「大好きって気持ちは……」
みのり「十分、伝わってる」
魁(N)「この日から、俺たちは相手に対して、気を使いすぎることを止めた。もちろん、そのことで時々喧嘩することもあるけど、今は前よりももっとみのりのことが好きになったし、俺のことを好きでいてくれる気持ちも強くなったって感じることができるようになった」
終わり。
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