通勤電車

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
翼(つばさ)

■台本

翼が駅のホームを走っている。

翼(N)「朝起きて電車に乗って、会社に行って、電車に乗って帰って来る。毎日、その繰り返し。一体、僕は何のために生きているんだろう……って、そんなことを言ってる場合じゃない!」

ジリリリとベルが鳴り、電車のドアが閉まる音。
そこに駆け込む翼。

翼「はあ、はあ、はあ……」

翼(N)「なんとか滑り込めた。これに乗り遅れたら、会社に遅刻してしまうところだった。危ない危ない。……やっぱり、昨日、酒を飲んだのがダメだったな。起きるのに、いつもの倍の時間がかかってしまった。どんなにストレスが溜まっていても、平日に酒を飲むのは止めておこう」

周りが少しだけザワザワしている。

翼(N)「なんだろう? みんな、なんか僕の方を見て、ヒソヒソと話してるぞ……。それに今日は女の人が多い気がする。今日はいつもと違って、乗り遅れそうだったから、階段から近い車両に乗った。だからだろうか? この車両は女の人が多い車両とか? いやいや、そんな車両あるわけ……」

翼「あっ!」

バッと壁側を向く音。

翼(N)「ヤバいヤバいヤバい! そう。僕はいつも、この車両を避けていた。なぜなら、出勤時間のこの時間くらいまで、この車両は……女性専用車両になっているのだ」

翼「……」

ヒソヒソ話が止み、電車のゴトンゴトンという音が響く。

翼(N)「……これって、何か犯罪になるんだっけ? いや、そんなわけないよな。……けど、もし、この状況で痴漢です、なんて言われたら……」

翼「……」

翼(N)「絶対に言い逃れができない。もし、痴漢で捕まったりしたら、会社クビだよな……。どうする?」

電車が停まり、ドアが開く音がする。
そして、客が乗り込んでくる。

翼(N)「僕……いや、私は女です、って言い張るか? 僕は髭は薄いしいけるかも? ……いやいやいや。ないない。絶対バレるだろ。……あ、じゃあ、今、話題の、心は女です! いうのはどうだ?」

プシューとドアが閉まる音。

翼(N)「……余計、罪が増える気がする。言い逃れしようとしてるから、凶悪って判断されるか? くそっ! どうする?」

電車が走り出し、ガタンガタンと音を立てる。

翼「……ん?」

翼(N)「しまったっ! 今の駅で降りればよかったっ! 考え事してたから完璧油断してたぞ。……いや、ちょっと待て。ゆっくりと進んで、隣の車両に行けばいいんじゃないか?」

翼「……」

翼(N)「いやいやいや。余計、目立つじゃん! そんなの自分から白状するもんだろ! ……待て待て落ち着け。今はまだ気づかれてない。このままやり過ごせば勝ちだ」

ゴトンゴトンと電車が走る音。

翼(N)「あと2駅。なんとか行けるか? 考えても見ろ。今はまだバレてないけど、降りる駅までバレない保証はない。バレたら終わりだ。なら、ただ、待つだけじゃなく、行動した方がいいんじゃないか?」

ゴトンゴトンと電車が走る音。

翼(N)「……よし、次の駅で降りよう」

電車が停まる。
そして、ドアが開く音。

翼(N)「よし、降り……って、げっ! 逆側のドアだ! しかも、車内は結構混んでるぞ! このままじゃ進めない!」

翼「すみません、降りま……」

翼(N)「いや、待て! 声を出してどうする!? バレるだろ! どうする? 強引に進むか? ……ダメだ! 余計、痴漢に間違われる可能性が高くなる。……考えろ! 突破口はあるはずだ!」

プシューとドアが閉まる音。

翼「あ……」

電車がゆっくりと走り出す音。

翼(N)「出発してしまった。仕方ない。こうなったら、もう、降りる駅までバレないことを祈るしかない」

ガタンガタンと電車が走る音。

翼(N)「……なんで、こんなことになってしまったのだろうか。僕がなにか悪いことをしたのか? ……うん。寝坊したのが全ての原因だな。てか、平日に酒なんか飲むからだ。……ちくしょう、自業自得じゃないか」

ガタンガタンと電車が走る音。

翼(N)「思えば、仕事漬けの毎日だったけど、辞めるって考えるとなんか寂しい。……捕まったら多分、クビだよな。辞めるならせめて、先輩に今までお世話になったお礼は言っておきたい。……いや、逆に迷惑かな?」

ガタンガタンと電車が走る音。

翼(N)「あとは、母さんや父さんになんて言おう? 2人なら、僕の冤罪を信じてくれるだろうか?」

翼「……いや、待てよ」

翼(N)「そうだよ。まだ、有罪になったわけじゃない。裁判で争えばいいんじゃないか? 僕は痴漢なんかやってない! 無罪を勝ち取れば」

翼「……」

翼(N)「いや、捕まった時点でクビだろうな。なんかの映画で見たことがある。まだ裁判も始まってないのに、会社をクビになってたよな」

翼「……」

翼(N)「そうだよな。僕がこの車両に乗った時点で、終わりだ。どうせ終わりなら、変にジタバタあがくのは止めよう。大人しく捕まって……」

そのとき、電車が停まり、ドアが開く。

翼「あっ……」

翼(N)「そのとき、奇跡が起こった。そう。目の前のドアが開いたのだ! つまり、僕は見つからずに駅に辿り着けたわけだ!」

翼「っしゃあ!」

電車を降りる翼。

翼(N)「ふう、九死に一生を得た。ホント、どうなることかと思った……あっ」

翼「先輩だ……」

翼(N)「あれ? なんで? 先輩、僕と同じ車両に乗ってたってこと? え? え? え? 先輩も女性専用車両に乗ってたってこと?」

翼「……あっ!」

翼(N)「振り返って見てみると、電車の窓には女性専用車両9時までと書いてあった。……つまり、僕が乗ったときにちょうど終わったということだ」

翼「けど……じゃあ、なんで?」

翼(N)「そう。それだと一つだけおかしいことがある。なんで、僕があの車両に乗った時に、みんなが僕を見て、ヒソヒソ話をしていたのか……?」

翼「ああっ!」

翼(N)「そして、僕は気づいた。ズボンのチャックが全開だったことに……」

終わり。

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