残滓
- 2023.12.21
- ボイスドラマ(10分) 退避

■概要
人数:3人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
月帆(つきほ)
凌空(りく)
明日香(あすか)
■台本
凌空「ごめんな、月帆。先に行って、待ってる」
月帆(N)「それが、凌空の最後の言葉だ。凌空は熱心なクリスチャンだった。毎日、神様への祈りを欠かしていなかったのに、凌空は難病にかかった。助かる見込みはない。そう医者に言われたとき、私の目の前は真っ暗になった。神様なんていない。私はそう思った。なのに、凌空は最後の日まで、祈りを捧げることを怠らなかったのだ」
場面転換。
部屋で仰向けになっている月帆。
月帆「……不公平だな。凌空は簡単に死んだのに」
その時、チャイムが鳴る。
月帆「……」
何度もチャイムが鳴る。
月帆「……」
すると、ガチャガチャと音がして、鍵が開けられ、ドアが開く。
明日香が入って来る。
明日香「月帆、いるんでしょ?」
月帆「……」
明日香「やっぱり、いた。ちゃんと出て……って、月帆!?」
明日香が駆け寄る。
明日香「月帆!? ちょっと、月帆!」
月帆「……大丈夫、生きてるよ」
明日香「(ホッとして)もう、ビックリさせないでよ」
月帆「ごめん……」
明日香が立ち上がって洗面所でタオルを見ずに濡らして絞る。
明日香「はい。タオル。酷い顔してるよ」
月帆「ありがと……」
ごしごしと顔を拭く。
明日香「ショックなのはわかるけど、ちゃんと前を向かないと。凌空くんも心配するよ?」
月帆「ねえ、明日香」
明日香「ん?」
月帆「神様って不公平だよね」
明日香「なによ、急に」
月帆「おかしいよね。凌空のことはあんなに簡単に殺したくせに、私は死にたくても、死なせてくれない……」
明日香「あんた、自殺でもする気?」
月帆「……できるならね」
明日香「ちょっと!」
月帆「でも、できないんだ」
明日香「……」
月帆「凌空がね。あっちで待ってるって。そう言ったから」
明日香「……」
月帆「自殺なんかしたら、あっちで凌空に会えない」
明日香「そうだね。自殺なんかしたら地獄行きだよ」
月帆「だからね、自殺以外で死ぬ方法ないかなって」
明日香「それを考えて実行した時点で自殺になるでしょ」
月帆「……だよね。もしかしたらさ。死ぬほど泣いたら、死ねるんじゃないかって思ったんだ」
明日香「……死ねるわけないでしょ」
月帆「うん……。泣いても泣いても、死ねなかった」
明日香「……」
月帆「死を望んでるのに、神様は迎えに来てくれない」
明日香「神様は天邪鬼なんだよ、きっと」
月帆「まさしく、鬼だね」
明日香「ならさ、死にたくないって思うくらい楽しく過ごしちゃいなよ」
月帆「……」
明日香「そしたらさ、神様も意地悪で、来てくれるかもしれないよ?」
月帆「……でもさ。もう凌空はいなんだよ? 私……凌空以外の人を好きになんかなれないと思う」
明日香「いいんじゃない、それで」
月帆「……」
明日香「結婚だけが……恋愛だけが人生を楽しくするわけじゃないでしょ? 友情があれば、人生を楽しむことだってできるって」
月帆「……そう……かな?」
明日香「そうだよ」
月帆「……」
明日香「ってことで、今度の休みはランドに行こうよ。二人で」
月帆「……うん。そうだね。目一杯、楽しんじゃおうかな」
明日香「うん。その意気だよ」
そのとき、グーっと月帆のお腹が鳴る。
月帆「……お腹減った」
明日香「(笑って)死ぬほど泣いたなら、死ぬほど食べないとね」
月帆「そうだね」
明日香「よし、じゃあ、なんか作ってあげる」
月帆「いや、いい。ホントに死んじゃうから」
月帆が立ち上がる。
明日香「なによそれー」
月帆「あはははは」
二人が楽しそうに料理を始める。
終わり。
-
前の記事
不思議な館のアリス 天才の苦悩 2023.07.10
-
次の記事
自慢のコレクション 2023.12.22