【声劇台本】不思議な館のアリス 不良品
- 2021.08.12
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:1人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「……今日は随分と慌てているようですが、何かあったのですか?」
アリス「え? もう時間がない? ……ああ。もしかして、あの時計を見たんですか?」
アリス「実はあの時計は動いてないんですよ」
アリス「ではなぜ置いてあるか、と思いました? ふふ。顔に書いてますよ」
アリス「あの時計は、昨日買ってきたばかりなんです。ええ。もちろん新品ですよ」
アリス「買ってきて、そこに設置し、いざ、動かそうと思ったら、動かなかったんです。いわゆる不良品、というわけですね」
アリス「……ええ。そうですね。普通であれば返品するでしょう。ですが、返品はしませんでした」
アリス「理由ですか? デザインが気に入ったからです。見てください。とても素敵だと思いませんか?
アリス「確かに私は最初、あそこに時計を置くつもりでした。ですが、その時計は壊れていた。だから、私はオブジェとして使うことにしたのです」
アリス「ふふ。納得されていない顔ですね」
アリス「不良品だから、交換してもらうのは当然だ……ですか。そうですね。正しいことだと思います」
アリス「ですが、考えてみてください。不良品とはなんなのでしょう?」
アリス「本来の想定した動きをしない物、ですか。ふふ。あなたらしい意見ですね」
アリス「では、このような場合はどうでしょう? 私のように持ち主がその状態を気に入っているという場合です」
アリス「その人にとって、それは不良品と呼べるのでしょうか?」
アリス「そうですね。それでは今日は、そんな不良品にまつわる話を2つほど、しましょう」
アリス「……その少年はとても貧しい家に生まれ、欲しい物を手に入れるどころか、日々の食べ物をねん出するのがやっとな生活をしていました」
アリス「日々が過ぎ去り、その少年が大人になった頃。貧乏から抜け出したいと考え、仕事を探し始めます」
アリス「ええ。至極真っ当な行動ですね」
アリス「ただ、その男が下層の人間だとわかると、どこも雇ってくれませんでした」
アリス「そして、その男が絶望しかけた際に、あることに目覚めてしまいます」
アリス「それはギャンブルです。失うものがない、その男にとって、ギャンブルはまさにうってつけだったのかもしれません」
アリス「ダメ元で挑戦したギャンブルが見事に成功し、お金を得ることができました」
アリス「自分のような人間でもお金を得ることができる。そう思い、ギャンブルにはまっていきました」
アリス「そして、その男が好きだったギャンブルはルーレットです」
アリス「ですが、そうそう当たるものではありません。何度も外し、肩を落とします」
アリス「そんなときに小耳にはさんだのが、競馬の辺りを予想する機械です」
アリス「今までカンに頼っていた男ですが、機械であれば、今よりも勝率はあがるのではないかと思い、予想する機械を作る会社へと向かいました」
アリス「男はさっそく、その機械が欲しいといいますが、それは男が思うよりもかなりの高額でした。諦めて帰ろうとしたところ、そこの社長がいいました。不良品で良ければ持って行っていいと」
アリス「その社長が言うには、算出される確率の計算式がおかしかったらしく、想定したものよりも当たる確率が低いとのことでした」
アリス「男はそれでも自分のカンよりも勝てる気がすると言って、譲ってもらいます」
アリス「そして、その機械が示すとおりにルーレットで賭けを行いますが、全て外れていきました」
アリス「男が激怒し、機械を壊そうとしました。ですが、そのとき、あることに気づいたのです」
アリス「それは一度も当たっていない、ということです」
アリス「男は機械が示すものとは逆に賭けていきます。すると、男は勝ち続け、巨額のお金を手にすることができたのだそうです」
アリス「どうでしょうか? この場合、その機械は不良品だと言えるのでしょうか?」
アリス「では、もう一つのお話をしましょう」
アリス「そこはアンドロイドの技術に特化した国でした」
アリス「人間がやるほとんどの作業はアンドロイドがやってくれるというものです」
アリス「それは、介護という観点でも、とてもよいものでした」
アリス「そんな国の中の、ある老夫婦のお話です」
アリス「老夫婦には子供はいなかったですが、アンドロイドが全ての家事を手伝ってくれるので、問題のない日々を過ごしていました」
アリス「長年、寄り添っていきてきた二人にはある、約束事がありました」
アリス「それは、痴呆になり、手が付けられない状態になったら、殺してほしいというものでした」
アリス「……ええ。倫理観に問われる、難しい問題です」
アリス「老夫婦にとっては、自分が痴呆となり、相手に迷惑をかけつづけることで、相手は自分に対して憎しみを抱くようになる。それは、夫婦にとって耐えがたいものでした」
アリス「最後まで、相手を愛したまま逝きたい。それが老夫婦の望みだったのです」
アリス「そんな心配をよそに、何事もない日々が過ぎていきましたが、ついに恐れていたことが起こります」
アリス「片方が痴呆となり、外を徘徊するだけではなく、家の中まで、荒らしてしまうほどだったそうです」
アリス「アンドロイドがいるとはいえ、生活がままならない日々が続きます」
アリス「そして、ついに決断をしました。痴呆になった相手を殺害し、自分も死のうと考えたのです」
アリス「ですが、いざ、決行しようとしましたが、老いによる衰えのせいで、相手はおろか、自分でさえも殺害することができない。そんな状況を嘆き、絶望に包まれます」
アリス「ですが、そんなときでした。突如、アンドロイドが暴走し、二人を殺害してしまいます」
アリス「本来、アンドロイドは人間を傷つけられないようにプログラムされています。ですが、そのアンドロイドはそのプログラムから外れた存在となります。いわゆる、不良品ですね」
アリス「その老夫婦の最後の言葉は、ありがとうというものだったそうです」
アリス「自分を殺害しようとしているアンドロイドに対してのありがとうの言葉……」
アリス「その老夫婦は幸せに逝けたのではないでしょうか」
アリス「いかがでしたか?」
アリス「どちらも、不良品についてのお話でした」
アリス「ですが、その二つは持ち主にとって、本当に不良品だったのでしょうか?」
アリス「ふふ。それでは、今日のお話はこれで終わりです」
アリス「またのお越しをお待ちしております」
終わり。
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