【声劇台本】不思議な館のアリス スパイ

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■概要
人数:1人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「本日もお話を聞きに来たと言うことでいいのですよね?」

アリス「とはいっても、真新しい話があるというわけではないのですが……」

アリス「あなたから、何かリクエストはありますか? こういう話が聞きたいなどあれば」

アリス「……え? 私があなたのことを名前で呼んだことがない、ですか?」

アリス「そうですね。呼んだ覚えはありませんね」

アリス「大体、私はあなたの名前を知りませんから」

アリス「……最初のときに、名乗った、ですか?」

アリス「覚えてませんね……。それに私は人の名前にあまり興味がありませんので」

アリス「他のお客様ですか? そうですね。基本的には名前ではなく、顔や雰囲気で覚えてます」

アリス「それに、個人データというのは扱いがデリケートですからね。この世界のこの時代は」

アリス「あ、個人データと言えば、一つ面白いお話を思い出しました」

アリス「情報やデータを盗み出すといえば、スパイという職業がありますよね?」

アリス「まあ、職業というと語弊があるかもしれませんが」

アリス「本日はそんなスパイについてのお話をしましょう」

アリス「あなたは、スパイに大切なことってなんだと思いますか?」

アリス「そうですね。普段は目立たなく、かつ、情報を集めるときは大胆に行動する……」

アリス「ふふ。スパイ映画みたいな話ですね」

アリス「スパイで重要なのは、必要な情報を得て、安全に持ち帰る。そして、相手は持ち去られたことすら気付かないというのが必要です」

アリス「言うのは簡単ですが、実際、やるとなるとかなり大変です。たくさんのスパイが失敗し、時には命を落としていきました」

アリス「ですが、そんなスパイにも伝説と呼ばれる人がいました」

アリス「その人は特段、身体能力が高いわけでも、特殊な能力を持っているわけではありませんでした」

アリス「逆に普通よりもやや劣るくらいだったそうですよ。まあ、記憶力は人一倍高いようでしたが」

アリス「では、そんな人がどうして伝説のスパイと言われたのか……」

アリス「それは必ず任務を遂行したからです」

アリス「それで、その人のやり方というのが面白いのですが、欲しい情報を持つ人の元で働き、数年後には情報を得て、戻るというものらしいです」

アリス「え? その人が人に打ち解けるのが上手かったから、ですか?」

アリス「いえ。そんなことはありません。相手からすると、逆に人付き合いが悪いという印象らしいです」

アリス「ただ、ものすごく真面目で、仕事に対して誠実だと話していることが多いようです」

アリス「あ、すいません。一つ重要なことを話すのが抜けていました。その人は耳が聞こえず手話でコミュニケーションを図っていたようです」

アリス「まあ、手話か筆談ということで、相手も面倒で、あまりその人には関わらない、関われないようですね」

アリス「ただ、仕事は熱心なので、自然と信用されていきますし、任される仕事も多くなるみたいですね」

アリス「ですが、その人はどうも、感覚的には鈍くて、よく事故を起こしそうになっていたようです」

アリス「車が来ていても、クラクションを鳴らされても気づかず、轢かれそうになったり、上から物が落ちてきて、危ないと声をかけられても気づかずに当たりそうになったりと、周りも見ていて気が気じゃなくなることも多かったようです」

アリス「なので、その人には常に誰かがついているということがルール化されるほどです」

アリス「いくら、普段が危なっかしくても、仕事は誰よりもできる人ですから」

アリス「そんな人が怪我をしてしまうと、仕事にも影響が出てしまいますからね」

アリス「そうして、数年が過ぎ、仕事を止めようとなった際、一応、情報漏洩がないように、書類、データ等は全て処分させたようです」

アリス「え? その情報を全て覚えることで、任務を達成していたのか、ですか?」

アリス「いえ、違いますよ。さすがにそこまでの情報量は覚えられないですし、そもそも、その程度で得られるような情報なら、スパイを使わなくても得られるはずです」

アリス「その人が得た情報は、コアで生きたものです。そして、その情報は書類やデータ上で得られるものではありません」

アリス「では、どこから得られるのか。……それは人の口からです」

アリス「昔から、人の口には戸が立てられないと言いますが、秘密というものは逆に人に話したくなるものです」

アリス「ですが、もちろん、外部の人間には話しません。話すのはその秘密が知られてもいい内部の人にだけです」

アリス「……後、例外として、話しても聞こえない人の前なら話してしまいますよね」

アリス「ええ。そうです。その人は耳が聞こえないというのは嘘だったんです」

アリス「相手がそこを嘘だと勘繰らなかったのは、聞こえないことにより事故を起こしそうになってるのを目撃してますからね」

アリス「まさか、聞こえているのに、そんなことをするとは思わないですよ」

アリス「つまり、そういう印象を持たせるために、あえて、やっていたわけですね」

アリス「大体、耳が聞こえない人がそんな危険なことを平気でするわけありませんよね」

アリス「そんな人が今まで生きてこれるわけがありませんよ」

アリス「相手は耳が聞こえない人が近くにいても、どうせ聞こえないと考え、内部の人と秘密を話していたわけですね」

アリス「それを覚えて、持って帰っていたという話です」

アリス「どうでしたか?」

アリス「今までも話が出ていましたが、人の思い込みというのはなかなか、厄介なものです」

アリス「あなたも、思い込みによって落とし穴にはまる可能性がありますので、お気をつけください」

アリス「またのお越しをお待ちしております」

終わり。

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