どんな病も治せる薬

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
雨宮 さくら
川岸 七海

ななみ
医者

■台本

コンコンとドアをノックする音。

七海「開いてるよー」

ガチャリとドアを開けて、さくらが入って来る。

七海「いらっしゃい、さくら」

さくら「……話ってなに?」

七海「なによ、そんな顔しなくたっていいじゃない。今回はすっごい良い話なんだから!」

さくら「……七海がそう言うと、大概、良いことじゃないからなぁ……」

七海「ふふふ。そう言ってられるのも今のうちよ。じゃじゃーん! これを見よ!」

さくら「……古い……雑誌?」

七海「日記帳よ、日記帳! しかも、江戸時代の!」

さくら「へー。それは確かに凄いね。誰の日記なの?」

七海「私の先祖のよ!」

さくら「ああ……。そっか」

七海「なんで、急にテンション下がるのよ!」

さくら「だって、七海の先祖のでしょ? どうせろくな事、書いてないよ」

七海「それがそーでもないんだな、これが。ねえねえ、気になるでしょ?」

さくら「……はいはい。何が書いてあるの?」

七海「どんな病も治せる薬の作り方よ!」

さくら「……ふーん」

七海「なによ! その、嘘くさいって顔! ほら、見てよ! ここの日記!」

さくら「はいはい。えーと、なになに?」

場面転換。

江戸時代。

長屋の一室で寝ているななみ。

ななみ「うーん、うーん……」

ドアが開いて、桜が入って来る。

桜「ななみ、どう? 具合は?」

ななみ「……苦しい。いっそ、もう消えたい」

桜「そんな弱気なこと言わないの。ほら、薬買ってきたわよ」

ななみ「ごめんね、桜」

桜「いいのよ。親友じゃない」

ななみ「うう……。そんなこと言ってくれるの、桜だけだよ」

桜「で、この前、見て貰った医者はなんて言ってたの?」

ななみ「……原因はわからないって」

桜「そっか。流行り病じゃないみたいだし……。なんだろ?」

ななみ「私のことはもういいの。放っておいて」

桜「はいはい。そういうのはいいから。……ねえ、ななみ。江戸に行ってみない?」

ななみ「江戸?」

桜「うん。これは噂で聞いたんだけど、江戸にどんな病も治せる名医がいるんだって」

ななみ「……なにそれ。詐欺臭い」

桜「うっ! まさか、ななみに言われるとは思わなかったわ。とにかく、診てもらうだけ診てもらおうよ」

ななみ「うーん。面倒くさい」

桜「……あんたが、川に身投げしたときは面倒くさかったなぁ。先週ので、何回目だっけ? 20回? 30回?」

ななみ「わ、わかったわよ。行くわよ、行けばいいんでしょ!」

桜「……いや、あんたの病気のことなのに、なんで、私がここまで言われなきゃならないの?」

場面転換。

江戸の町を歩くななみと桜。

ななみ「うわー。綺麗な街並み」

桜「これを見れただけで、江戸にまで来た甲斐があったわね」

ななみ「ねえ、桜! お団子屋さんだって。食べていこうよ」

桜「……ねえ、ななみ。病、治ってない?」

ななみ「うっ! そんなことないよ。思い出したら、胸が苦しくなるし、身体だって重くなるし、頭も……」

桜「はいはい。わかったから、お団子食べたら、噂の医者のところに行くわよ」

場面転換。

診療所。

医者「原因は失恋だね」

桜「へ?」

医者「失恋した人のことを思い出すと、胸が苦しい、体が重い、頭が痛くなる。だろ?」

ななみ「そ、そうです」

医者「うん。完全に失恋の症状だね」

桜「……そうなの?」

ななみ「……そうかも」

桜「ちょっと! なんのために、わざわざ江戸まで来たと思ってるのよ!」

ななみ「そんなこと言われてもっ!」

桜「大体、あんた、いつも失恋したら、川に身投げして、そのあとは吹っ切れてたじゃない!」

ななみ「だって、今回のは本気だったんだもん!」

桜「いつも、そう言ってるじゃない、あなたは!」

医者「まあまあ。そう怒らないで。失恋というのは病に匹敵する、十分、苦しいことなんだよ」

桜「……はっ! す、すいません。お見苦しい所をお見せしました」

医者「ななみさん、って言ったね? 確かに、僕はどんな病も治せる薬を持ってるけど、こればかりはどうしようもない。僕は君に、時という薬しか出せない。あとは君自身が乗り越えるしかない。大丈夫。君ならできるさ」

ななみ「……」

桜「本当に、ありがとうございました。さ、帰るよ、ななみ」

ななみ「……治った」

医者「え?」

桜「は?」

ななみ「失恋の病は治ったわ!」

桜「きゅ、急にどうしたの? でも、まあ、よかったわね。さ、帰るわよ」

ななみ「でも、新たに病にかかっちゃったの!」

桜「ま、まさか……」

ななみがギュッと、医者の手を握る。

ななみ「先生! 私、恋の病にかかっちゃいました! 治してください!」

医者「……」

桜「……」

場面転換。

現代。七海の部屋。

さくら「……」

七海「どう? 凄いでしょ?」

パタンと日記を閉じるさくら。

さくら「七海。お腹減ったね。何か食べに行こっか?」

七海「ちょっと! 無視しないでよ!」

さくら「七海、これ読んだ?」

七海「うん。読んだよ。ちゃんと、どんな病も治せる薬の話が出てきてるじゃない」

さくら「……作り方、買いてないじゃん」

七海「……あっ!」

さくら「はあ……。私の先祖も、苦労したんだろうなぁ」

七海「ん? なんか言った?」

さくら「ううん。なんでもない」

七海「あー! もう! せっかく、儲けられると思ったのに! さくら! やけ酒するから付き合ってよ!」

さくら「うん。私もちょうど、やけ酒したいって思ってたんだよね」

終わり。

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