どんな病も治せる薬
- 2022.09.26
- ボイスドラマ(10分)
■関連シナリオ
〈山ガール〉
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ
■キャスト
雨宮 さくら
川岸 七海
桜
ななみ
医者
■台本
コンコンとドアをノックする音。
七海「開いてるよー」
ガチャリとドアを開けて、さくらが入って来る。
七海「いらっしゃい、さくら」
さくら「……話ってなに?」
七海「なによ、そんな顔しなくたっていいじゃない。今回はすっごい良い話なんだから!」
さくら「……七海がそう言うと、大概、良いことじゃないからなぁ……」
七海「ふふふ。そう言ってられるのも今のうちよ。じゃじゃーん! これを見よ!」
さくら「……古い……雑誌?」
七海「日記帳よ、日記帳! しかも、江戸時代の!」
さくら「へー。それは確かに凄いね。誰の日記なの?」
七海「私の先祖のよ!」
さくら「ああ……。そっか」
七海「なんで、急にテンション下がるのよ!」
さくら「だって、七海の先祖のでしょ? どうせろくな事、書いてないよ」
七海「それがそーでもないんだな、これが。ねえねえ、気になるでしょ?」
さくら「……はいはい。何が書いてあるの?」
七海「どんな病も治せる薬の作り方よ!」
さくら「……ふーん」
七海「なによ! その、嘘くさいって顔! ほら、見てよ! ここの日記!」
さくら「はいはい。えーと、なになに?」
場面転換。
江戸時代。
長屋の一室で寝ているななみ。
ななみ「うーん、うーん……」
ドアが開いて、桜が入って来る。
桜「ななみ、どう? 具合は?」
ななみ「……苦しい。いっそ、もう消えたい」
桜「そんな弱気なこと言わないの。ほら、薬買ってきたわよ」
ななみ「ごめんね、桜」
桜「いいのよ。親友じゃない」
ななみ「うう……。そんなこと言ってくれるの、桜だけだよ」
桜「で、この前、見て貰った医者はなんて言ってたの?」
ななみ「……原因はわからないって」
桜「そっか。流行り病じゃないみたいだし……。なんだろ?」
ななみ「私のことはもういいの。放っておいて」
桜「はいはい。そういうのはいいから。……ねえ、ななみ。江戸に行ってみない?」
ななみ「江戸?」
桜「うん。これは噂で聞いたんだけど、江戸にどんな病も治せる名医がいるんだって」
ななみ「……なにそれ。詐欺臭い」
桜「うっ! まさか、ななみに言われるとは思わなかったわ。とにかく、診てもらうだけ診てもらおうよ」
ななみ「うーん。面倒くさい」
桜「……あんたが、川に身投げしたときは面倒くさかったなぁ。先週ので、何回目だっけ? 20回? 30回?」
ななみ「わ、わかったわよ。行くわよ、行けばいいんでしょ!」
桜「……いや、あんたの病気のことなのに、なんで、私がここまで言われなきゃならないの?」
場面転換。
江戸の町を歩くななみと桜。
ななみ「うわー。綺麗な街並み」
桜「これを見れただけで、江戸にまで来た甲斐があったわね」
ななみ「ねえ、桜! お団子屋さんだって。食べていこうよ」
桜「……ねえ、ななみ。病、治ってない?」
ななみ「うっ! そんなことないよ。思い出したら、胸が苦しくなるし、身体だって重くなるし、頭も……」
桜「はいはい。わかったから、お団子食べたら、噂の医者のところに行くわよ」
場面転換。
診療所。
医者「原因は失恋だね」
桜「へ?」
医者「失恋した人のことを思い出すと、胸が苦しい、体が重い、頭が痛くなる。だろ?」
ななみ「そ、そうです」
医者「うん。完全に失恋の症状だね」
桜「……そうなの?」
ななみ「……そうかも」
桜「ちょっと! なんのために、わざわざ江戸まで来たと思ってるのよ!」
ななみ「そんなこと言われてもっ!」
桜「大体、あんた、いつも失恋したら、川に身投げして、そのあとは吹っ切れてたじゃない!」
ななみ「だって、今回のは本気だったんだもん!」
桜「いつも、そう言ってるじゃない、あなたは!」
医者「まあまあ。そう怒らないで。失恋というのは病に匹敵する、十分、苦しいことなんだよ」
桜「……はっ! す、すいません。お見苦しい所をお見せしました」
医者「ななみさん、って言ったね? 確かに、僕はどんな病も治せる薬を持ってるけど、こればかりはどうしようもない。僕は君に、時という薬しか出せない。あとは君自身が乗り越えるしかない。大丈夫。君ならできるさ」
ななみ「……」
桜「本当に、ありがとうございました。さ、帰るよ、ななみ」
ななみ「……治った」
医者「え?」
桜「は?」
ななみ「失恋の病は治ったわ!」
桜「きゅ、急にどうしたの? でも、まあ、よかったわね。さ、帰るわよ」
ななみ「でも、新たに病にかかっちゃったの!」
桜「ま、まさか……」
ななみがギュッと、医者の手を握る。
ななみ「先生! 私、恋の病にかかっちゃいました! 治してください!」
医者「……」
桜「……」
場面転換。
現代。七海の部屋。
さくら「……」
七海「どう? 凄いでしょ?」
パタンと日記を閉じるさくら。
さくら「七海。お腹減ったね。何か食べに行こっか?」
七海「ちょっと! 無視しないでよ!」
さくら「七海、これ読んだ?」
七海「うん。読んだよ。ちゃんと、どんな病も治せる薬の話が出てきてるじゃない」
さくら「……作り方、買いてないじゃん」
七海「……あっ!」
さくら「はあ……。私の先祖も、苦労したんだろうなぁ」
七海「ん? なんか言った?」
さくら「ううん。なんでもない」
七海「あー! もう! せっかく、儲けられると思ったのに! さくら! やけ酒するから付き合ってよ!」
さくら「うん。私もちょうど、やけ酒したいって思ってたんだよね」
終わり。
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